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バスの乗客たち

 ここ4カ月くらい、我が家には動く車がない。
 私の車は、ブレーキの具合が悪い。
 症状を調べてみると、そろそろご臨終ということだ。
 修理をするか、するまいか。
 車担当はダンナだ。
 決断する前に、バッテリーが上がった。
 
 ダンナの車は、キーがご臨終だ。
 ズボンのポケットに入れたまま洗濯したからだ。
 しばらく乾燥させたけれど、復活せず。
 予備のキーはもともと付いていなかった。

 「予備のキーを作った方がええんちゃうのー?」
 「そうやねんけどなぁ」

 といい続けて、15年以上が経過し、

 「やっぱり作っておけば良かった」

 という結果になった。
 作らなかった理由は、エレクトリックの鍵は、通常の鍵よりも高額だから。
 貧乏人あるあるだ。

 壊れてようやく鍵をオーダーすることになったら、廃盤になっていた。
 とはいえ、どこかにはあるもんだ。
 ウェブサイトで見つけた鍵をオーダーした。
 車と鍵をフォードへ持って行き、プログラムしてもらえば完了!
 なんだけれど、車をフォードまでレッカーしなければならない。
 ところが、普通のタイプのレッカー車の車高は、アパートのエントランスより高い。
 フラットのレッカー車が必要だけれど、数が少なく、すぐに出動できる車がなかった。
 タイミングを失い、やる気がなくなったダンナは、しばらく修理を放置した。
 結果、バッテリーが上がった。

 そうこうしているうちに、エントランスのシャッターが壊れた。
 誰かが車をぶつけたらしい。

 「セキュリティ完璧!」

 という謳い文句のアパートは、シャッター全開、いつでも誰でもウェルカムのビルディングになった。
 そして予想どおり、犯罪は起こった。

 テスラー、BMW、メルセデスベンツ、高級車がゾロゾロ並ぶ中から、悪党が選んだ車は・・・

 ・・・ダンナの車だった。

 アラームが点いていなかったからかもしれない。
 犯人は、ドライバーやレンチを駆使して、車の鍵穴を取り出した。
 鍵をオーダーしたのに、鍵穴がなくなった。
 大切に使ってきたスピーカー、15年以上かけて集めた、修理用のツールが入った工具箱、その他、車の中の全ての物が盗み出された。

 さっさと修理しなかった結果とはいえ、あまりにも不憫で声もかけられない。

 いつ修理するのかな???

 と思うけれど、余計なことは言わない方がいい。
  
 ストアは徒歩圏内にあるので、車がない間はせっせと歩くことにした。
 しかし先日、米がなくなった。
 私の好きな米を置いている店は、近くにはない。

 ・・・米だけは妥協できない。

 久しぶりにバスに乗ることにした。
 シカゴほどではないけれど、シアトルも、最近は治安が悪くなっている。 
 気を付けるに越したことはない。

 バスに乗っているのは、学生と貧乏人だ。
 バス乗客に馴染むため、運動靴にヨガパンツ、フードの付いたジャケットを2枚重ねにし、ボロボロのお買い物バッグ(これはいつも持っている)を片手に出動した。
 貧乏人ルックを意識したけれど、普段と大差はなかった。

 バスの乗り場で、乗車用のプリペイドカードを購入した。
 今は、キャッシュで乗車できないらしい。
 目的地まで、乗り継ぎを入れて約1時間、お値段は、たったの2ドル50セント。
 安いだけあって、乗客もなかなか個性的だ。
 
 乗り継ぎのバス停では、ひとりの中年女性が宙に向って怒鳴っていた。
 ドラッグか精神疾患だろう。
 最後はオイオイ泣いていた。
 毎日、同じ場所で同じことをしているに違いない。
 誰ひとり、気にも留めない。
 
 少し離れた場所で、静かにタバコを吸っているお兄ちゃんは、男前だけれど、どよよ~んとしている。
 どこから見てもアンハッピーだ。

バスの乗客を観察中

 途中で乗車してきた40歳くらいの男性は、プリペイドカードも携帯(携帯で払える)もなく、ヘロヘロのポケットから、ヘロヘロの財布を取り出した。
 服も財布も本人もヘロヘロだったからか、運転手さんが、

 「もういいよ。次払って」

 と言って、乗せてあげていた。

 紙袋やビニール袋を両手にいっぱい抱えたおじさんも乗ってきた。
 風貌はホームレスだけれど、妙に楽しそうだ。
 何をどこに運ぶんだろう?

 普通の乗客は、数人の男子高校生と、ワンブロックだけ乗ったおばあさんのみ。
 高校生は別にして、40ドル以上の米を購入できる私は、この日の乗客の中で、一番金持ちだったと思う。
 とはいえ、金持ちは、バスに乗って15パウンド(約7キロ)の米を買いに行かない。
 バスで米を買いに行くと、腕がちぎれそうになります。

 そろそろ動く車が欲しいです。
 

 
 
 

最後まで読んでくださってありがとうございます!頂いたサポートは、社会に還元する形で使わせていただきたいと思いまーす!