見出し画像

Talking Blues Gig Vol.10「Say it Loud-I'm Black and I'm Proud」

 先日、GAVIさんとの対談で、ダンナがニューオーリンズのバーに入店した時の話をした。
 今から30年以上前の話だ。
 フレンチクウォーターにある、その店に入った瞬間、カウンターの中にいた女性オーナーが、

 「お前のおるべき場所に戻れ!」

 と言って、彼にライフルを突き付けた。

 この”おるべき場所”はアメリカ北部のことだ。
 南北戦争が終わっても、ジム・クロウ法が廃止されても、人々の心はそう簡単には変わらない。

 「日本人が持っているニューオーリンズのイメージとは違うよね」

 とGAVIさんがおっしゃった。
 本当にそうだと思う。
 私にとっても、ニューオーリンズはずっと素敵な場所だった。
 ニューオーリンズへ行ったときに、私自身も人種差別を受けたことがあるにも関わらず、である。

 一緒に遊びに行った友達と、プールに行ったときのことだ。
 我々が水に入った途端、水の中にいた白人ファミリーが、大急ぎで荷物を片付けて、帰って行った。
 25年前だったと記憶する。
 このような経験をしても、素晴らしい音楽が聞けるニューオーリンズと、その町の雰囲気が大好きだった。
 日本で暮らす日本人だった私には、人種差別を深く理解する必要がなかったし、黒人の立場になって考えることもできなかった。
 
 「あれ???」
 と思い始めたのは、ダンナと暮らすようになってからだ。
 アメリカで暮らしていても、彼ではない別の人と一緒になっていたら、今ほど、黒人の目線で理解しようとは思わなかったかもしれない。
 アメリカでどんなに長く暮らしていても、その人によって見える景色は違う。
 ニューオーリンズが素敵に見える人もいれば、見えない人もいる。
 どちらも正解なのだ。
 
 日本人のイメージと大きく違う場所といえば、やはりフロリダだと思う。
 温暖で、美しいビーチがあり、ディズニーワールドやケネディ宇宙センターなど、観光地としても有名だ。
 海が見渡せる美しい家が目に浮かぶ。
 誰もが一度は行ってみたい場所だ。
 私もそうだった。
 行ったことがないので、わからないけれど、これらの美しい景色は、裕福な白人社会と観光客だけのものかもしれない。
 少なくとも、フロリダの法律は、黒人が安心して暮らせるものではない。

 フロリダは「スタンド・ユア・グラウンド法」を最初に制定した州だ。
 2005年にできたこの法律は、”身の危険を感じたら、殺傷能力のある武器を使用しても構わない”というものだ。
 正当防衛か、意図的な殺人かを立証する際の責任は加害者側にある。
 撃った側が、
 「身の危険を感じました」
 と言えば無罪放免だ。
 この法律制定後、この法に守られることを想定した事件が激増したことは言うまでもない。

 2012年、17歳の黒人少年トレイボーン・マーティン君が、居住区自衛団の白人男性ジョージ・ジマーマンに射殺された事件は有名だ。
 マーティン君はパパの婚約者の家を訪ねていた。
 ただ歩いているだけのマーティン君を、ジマーマンが不審者と判断した。
 理由は、彼が黒人だったからだ。
 そして、丸腰のマーティン君を射殺した。
 スタンド・ユア・グラウンド法が適用されて、ジマーマンは無罪だ。

 先週末の8月26日、フロリダ州ジャクソンヴィルで、21歳の青年が、ディスカウントストアで銃を乱射、3人の黒人を射殺した。
 彼のターゲットは黒人だった。
 犯人はその場で自殺したのでわからないけれど、現在のフロリダ州知事、ロン・ディサンティスが次々と行う政策の影響を受けていないとは言い難い。

⇩少し前になりますが、フロリダ州で起こっていることを書いています⇩ 

 全米ライフル協会に支持された彼の政策は、ジム・クロウ法時代に戻ろうとしているとしか思えない。
 ディサンティスは今回の事件で、かなりの避難を浴びている。
 その一方で、彼を応援する人も少なくない。
 
 8月28日、ワシントン大行進から60年が経った。
 キング牧師が「I have a dream」のスピーチを行った日だ。
 このスピーチの中で、キング牧師は言った。 

 「100年前、ある偉大なる米国民が奴隷解放宣言に署名をした・・・この重大な布告は、何百万人もの黒人奴隷たちに希望の光明として訪れた・・・けれども100年を経た今も、黒人は以前として自由を手にしていない」

 この日から60年が経った。
 キング牧師の夢の叶う日が待ち遠しい。

 道を歩いていた息子が、真面目に仕事をしていた父親が、家族のために買物をしていた母親が、突然命を奪われる。
 肌の色が白かったら、彼らは今も生きている。
 彼ら黒人の立場になって、人種差別について改めて考えてみたい。
 
 真の平等、自由、平和が訪れるその日まで、彼ら黒人は叫び続ける。

 「I'm Black and I'm Proud!」  

 パパやママがアルコールやドラッグ中毒の家庭もある。
 パパが不在の家庭もある。
 そんな家庭の子供たちの多くは、自分が大切な存在であることを知らない。
 JBは、そんな彼らに力強く訴える。

 「Say it Loud!I'm Black and I'm Proud!!!」


最後まで読んでくださってありがとうございます!頂いたサポートは、社会に還元する形で使わせていただきたいと思いまーす!