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万博開幕まで残り1年。海外パビリオンの独自建設が困難なままでは、万博開催国としての資質を問われます。

建てたい海外パビリオンが建てられない万博は、史上初

建てたい海外パビリオンがなかなか建てられない万博は、史上初ではないでしょうか。参加国が独自に建設する海外パビリオン(51館のタイプA)は、万博の「華」です。しかし、万博開幕まで残り1年となった今でも、約20館は建設工事契約が未締結のままです。また、約30館は建設工事契約が締結できたのですが、我が国の大手建設業者と直接締結できたケースは皆無と言ってもよく、建築確認を取得して着工に漕ぎつけることができたのは10館余りに留まっています。
 
ここにきて、これまでは想定外の問題も表面化しています。3つの工区に分けた巨大リングの建設工事が順調に進捗しており、リング全体が今秋に繋がった暁には、リング内に林立する予定の海外パビリオンの建設に欠かせない重機や資材の搬入に、大きな制約が生じかねないのです。このままでは、海外パビリオンの多くが来年4月の開幕に間に合わないという悪夢が、現実化してしまいます。

プレハブ式パビリオンによる建設代行の提案も空振り気味

万博協会は、建設工事契約の締結に難渋する参加国に向けて、昨年7月、箱型プレハブ式パビリオン(タイプX)による建設代行を提案しました。そして、昨年末時点で建設工事契約が未締結であった25館の海外パビリオンは、万博開幕までに建設が間に合わない恐れがあるとして、タイプXで代替するための建設資材25館分を既に調達済みです。ところが、タイプAからタイプXへの移行を表明したのは、今でも3ヶ国に留まったままです。
 
タイプXへの移行が進まない理由ですが、タイプAの参加国の多くは、独自デザインによる建設方針を固持せざるを得ないのです。なぜならば、タイプAの参加国では、半年程の期間をかけたコンペティションを開催してパビリオンの建築デザインを選定していたり、あるいは、建築のデザインや設計、施工、内装や展示の空間設計を一括したパビリオン建設契約を締結していたりするからです。
 
このため、タイプAからタイプXに移行するには、当該国内におけるこれまでの選定手続きや契約手続きを白紙に戻した上で、タイプXでの内外装や展示内容をゼロベースから検討し直す必要があるのです。それゆえ、タイプAでの建設が万博開幕に間に合いそうもないからという理由だけでは、タイプXに移行することは難しいのです。
 
また、数年前から準備を進めてきたタイプAでの建設が、なぜ万博開幕に間に合いそうもないのかについての理由(我が国の大手建設業者が、なぜかどこも建設工事契約を直接締結しようとはしなかったこと)を説明することも難しいのです。

国内パビリオンと海外パビリオンでは、進捗状況に雲泥の差

国内パビリオンの状況は、海外パビリオンとは対照的です。一昨年来の資材価格高騰の煽りを受けて、国内パビリオンの建設工事契約締結も一筋縄ではいかず、複数回の入札を経て予定価格を引き上げた上で一者応札に終わるなどのケースも続出しました。それでも、昨年の8月までに全ての国内パビリオンが、ゼネコン等の国内大手建設業者との建設工事契約を締結して、建設工事は順調に進捗しています。

海外パビリオンの建設を阻む、我が国独自の二つの「風習」

上記のとおり、海外パビリオンだけが、我が国の大手建設業者と建設工事契約を直接締結することができないのです。その訳ですが、我が国独自の二つの「風習」、つまり、「設計・施工分離の原則」による工事発注の仕方と、「組織対応」によるプロジェクト運営(マネジメント)の仕方が相乗して、海外パビリオンの建設を阻んでいるのです。具体的には、下記のとおりです。

海外では通用しない、「設計・施工分離の原則」による工事発注

我が国の常識である「設計・施工分離の原則」は、海外では全く通用しません。このことが、外国政府のパビリオン建設関係者と我が国の大手建設業者との間において、「建設工事契約についての認識の大きな相違」を生み出しています。
 
我が国では、「設計・施工分離の原則」に基づく設計・施工分離発注方式(つまり、この詳細設計図面のとおりに造ってくれといった、他国に類を見ない我が国独自の発注方式)が普遍的に用いられています。このため、工事請負契約書の雛型である「公共工事標準請負契約約款」と「民間建設工事標準請負契約約款」のいずれも、設計・施工分離発注方式を前提としています。
 
海外では、デザインビルド方式(つまり、別途選定した建築デザインに基づいて設計と施工を一括発注する方式であり、このようなものを造ってくれといった、グローバルスタンダードな性能発注方式の一類型)が常識です。このため、外国政府のパビリオン建設関係者には、設計・施工分離発注方式の概念を理解することは難しく、ましてや、我が国の標準的な工事請負契約書を理解して用いることは不可能と言えます。
 
建設工事契約について、国内と海外ではこのように大きな「認識の相違」があるため、外国政府のパビリオン建設関係者は、我が国の大手建設業者からの見積もりを徴収することも難しいのです。日本政府の外交ルートを通じて昨年から、パビリオン建設予算の増額やデザインの簡素化が求められていますが、見積もりの徴収すらできていない外国政府のパビリオン建設関係者には、求められていることの必要性が殆ど理解されないまま今日に至っていると言えます。

海外ではあり得ない、「組織対応」によるプロジェクトマネジメント

万博協会は、我が国の官公庁では普遍的な「組織対応」によるプロジェクト運営(マネジメント)に徹しています。その帰結として、前記の「外国政府と我が国の大手建設業者との間における建設工事契約についての認識の相違」を直視して解消を図ろうとする 「組織」が、万博協会内の何処にも存在しないゆえに、「認識の相違」の解消に向けた手が何も打たれず、放置されたままになっています。また、「組織対応」では、組織として決定した方針の変更は容易ではないため、昨年7月に万博協会が組織として決定した「タイプXによる建設代行」についても、希望する国が僅かであるにも関わらず、万博協会として敢行し続ける結果を招いています。

乾坤一擲の策は、大手ゼネコンの海外での受注経験を活かすこと

今のような状況のまま推移すれば、万博の「華」である海外パビリオンの多くが、しかも、海外パビリオンだけが、万博開幕に間に合わなくなってしまいます。これでは、万博開催国としての我が国の資質を問われかねません。
 
それゆえ、ここで乾坤一擲の策を至急講じる必要があります。我が国の大手ゼネコンは、海外では性能発注方式(デザインビルド方式はその一類型)で建設工事を受注しています。このような海外での経験と実績を、国内で活かすのです。国内大手建設業者が海外パビリオンの建設工事契約を直接締結できるようにするには、万博協会の「組織対応」によるサポートに基づき、大手ゼネコンが海外で性能発注方式により受注した経験と実績を活かすことが最も効果的であり、これに優る策は無いと言えます。


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