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大規模なプロジェクトを確実に成功させるには、グローバルスタンダードな性能発注方式の取り組み方が必要です。

プロジェクトマネージャの最も大事な役割は、トップダウンで全体最適化することです。

我が国ではこれまで、優れたシステムを実現する方法論として、『システムを構成する各部分ごとに最適化を図れば、最適化された各部分をまとめ上げたシステム全体が最適化される。』とする考え方が主流であったように思います。
 
かつてのように技術革新が緩やかに進む中で、既に確立された技術を用いてシステムを構成できる場合には、部分最適化の積み上げが全体最適化に繋がっていました。既に確立された技術は、大抵は規格化・標準化されているので、システムを構成する各部分ごとの最適化が容易であり、また、各部分を他の部分とマッチングさせてシステム全体を最適化することも難しくはなかったからです。 
 
しかし、今日のように技術革新が急激に進む中で、最先端技術を用いてシステムを構成する場合には、このような部分最適化の積み上げ(つまり、ボトムアップによる部分最適化)ではシステム全体の最適化に繋がりません。最先端技術は、規格化・標準化されていないことが多いので、システムを構成する各部分ごとの最適化ができたとしても、各部分を他の部分とマッチングさせることが容易ではないからです。そこで、このような場合には、実現したいシステムの目的を見据えたトップダウンにより、システムとしての全体最適化を図ることが極めて重要となります。 
 
このように、全体最適化に向けたアプローチをボトムアップからトップダウンに変えていくには、システムの実現を目指すプロジェクトの運営体制について、特に、プロジェクトマネージャが果たすべき役割について、抜本的に見直すことが必要不可欠となります。ボトムアップによるアプローチでは、プロジェクトマネージャとしての大事な役割は、プロジェクトを構成する各組織の「まとめ役」です。つまり、プロジェクトを組織対応で運営する上での「コーディネーター」に過ぎないのです。しかし、トップダウンによるアプローチでは、プロジェクトの成否は、ひとえにプロジェクトマネージャの手腕に掛かってくるのです。
 
ところで、プロジェクトマネージャによるトップダウンでプロジェクトを運営することは、欧米諸国では昔から当たり前のことですが、我が国では殆ど見当たりません。そのような中でも、戦前の三菱重工業による零戦開発プロジェクトや、安倍首相による白紙撤回を経て甦った新国立競技場整備事業は、いずれもプロジェクトマネージャによるトップダウンで運営されたことにより成功しましたので、我が国では極めて類まれな事例です。
 
ここで、零戦開発プロジェクトと新国立競技場整備事業のいずれにも共通していることは、欧米諸国では当たり前となっている性能発注方式の取り組み方だったことです。グローバルスタンダードな性能発注方式の本質は、トップダウンにより全体最適化を図るところにあります。それゆえ、プロジェクトマネージャによるトップダウンで全体最適化を図っていくには、開発プロジェクトや整備事業を性能発注方式の取り組み方で運営することが必要不可欠であると言えます。

仕様発注方式の考え方に立脚したプロジェクト運営は、弊害ばかりです。

我が国では、オリンピックや万博などの巨大プロジェクトに要するトータルコストが、プロジェクトの進展につれて膨らむ一方となりがちです。これは、プロジェクトマネジメントの中核を占める必要経費についての考え方が、我が国では、他国に類を見ない我が国独自の仕様発注方式の考え方(仕様発注方式では、発注後に設計内容を変更する都度、契約金額を設計変更内容に応じて変更するのが通例です。)にどうしても立脚してしまうためです。
 
一般的に、プロジェクトを立ち上げる時点では、プロジェクトで取り組もうとする内容とそれに必要な経費を大雑把に見積もりますが、プロジェクトの進展につれて、プロジェクトの内容を詳細に詰めて充実していくなどの変更が避けられません。しかし、設計変更の都度に契約金額を変更する仕様発注方式の考え方に立脚してプロジェクトを運営する限り、プロジェクトの進展に伴い内容が詰められ変更されていくにつれて、必要経費の試算額が次第に膨らんでいってしまうのです。このことは、我が国独自の仕様発注方式の考え方に立脚したプロジェクト運営の大きな弊害であると言えます。
 
そこで、グローバルスタンダードな性能発注方式の取り組み方に立脚して、欧米諸国のようにプロジェクトを運営すれば、このような弊害を払拭することができます。上記の新国立競技場整備事業では、まず最初に事業のコンセプトを明確にして、次にその大枠(実施内容・実施期間・実施に要する経費)を設定した上で、価格と技術の両面での競争原理を働かせて、最先端技術や創意工夫を存分に活かすことにより、大枠を逸脱することなく費用対効果に優れた結果を得ることができています。それゆえ、新国立競技場整備事業は、グローバルスタンダードな性能発注方式の取り組み方を実践したモデルケースと言えます。ちなみに、前記の実施内容・実施期間・実施に要する経費については、三つ巴のトレードオフ関係(此方を立てれば彼方が立たなくなるといった相反関係)にありますから、ボトムアップにより部分最適化を図る仕様発注方式の取り組み方では対処が困難であり、トップダウンにより全体最適化を図る性能発注方式の取り組み方が絶大な効果を発揮したところです。
 
このことから、性能発注方式の取り組み方に立脚してプロジェクトを運営すれば、プロジェクトの進展につれて必要経費がどんどん膨らんでいってしまうような事態は避けられ、準備した予算の範囲内で最善の結果を手に入れることができますので、我が国でも早急に、グローバルスタンダードな性能発注方式の取り組み方についての理解と活用に努めていくことが望まれます。


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