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欧米流のオープンイノベーションを成功させる鍵は、性能発注方式の取り組み方です。

1 イノベーションは目的ではなく手段であり、結果です。

オープンイノベーションとは、これまでに無い画期的な製品(つまり、従来品を駆逐してしまうほどに費用対効果に優れた製品)を産み出すために、その全部又は一部についての研究開発や設計・製造に最適なベンダー企業を、広く外部に求めて活かしていく手法のことです。取り分け技術革新が激烈な分野では、自社内で新たに研究開発して設計・製造していく体制の構築から始めていたのでは、競争に勝ち残れるはずもありません。このような場合には、オープンイノベーションの手法を用いて、即戦力となる技術を有する優れたベンダー企業を見つけ出して活かしていくことができれば、非常に大きな効果が期待できるところとなります。
 
ところで、オープンイノベーションは、そのネーミングから、外部の企業とのコラボレーションにより、何らかのイノベーション(技術革新)を起こすことを目的としているように捉えられがちです。しかし、オープンイノベーション本来の目的は、従来品を駆逐してしまうほどに費用対効果に優れた製品を産み出していくために、その全部又は一部についての研究開発や設計・製造に最適なベンダー企業を迅速・的確に見つけ出して、活かしていくことです。それゆえ、オープンイノベーションでは、イノベーション(技術革新)そのものは目的ではなく、費用対効果に優れた製品を産み出していくプロセスにおける手段であり、その結果であると言えます。

2 オープンイノベーションに効果的な性能発注方式の取り組み方

オープンイノベーションの手法を用いて、費用対効果に優れた製品を産み出していくための必要条件は、次の二点です。
 
① 即戦力となる技術を有する優れたベンダー企業を、迅速・的確に見つけ出すこと
 
② ベンダー企業の創意工夫と最先端技術を、存分に活かすこと
 
このような必要条件を満たすには、発注者側(つまり、費用対効果に優れた製品を産み出そうとする側)のニーズと、ベンダー企業側のシーズとのマッチングが何よりも大事です。ここでのニーズとは、発注者側が「費用対効果に優れた製品」での実現を追求する「機能と性能の要求要件」です。また、ここでのシーズとは、ベンダー企業が有する「研究開発や設計・製造のノウハウ」です。
 
このようなニーズとシーズのマッチングを図っていく上で、性能発注方式の取り組み方が最適です。具体的には、次の二段階の取り組みとなります。
 
① 発注者側の組織としての意志統一を図るために、開発計画書を作成します。その中で、現状の課題(つまり、ニーズ)、課題解決方策の概要(つまり、シーズ)、課題解決により期待される効果(つまり、ニーズとシーズのベストマッチング)の三項目について、A4版で2〜3枚程度のボリュームで、誰でも一読すれば理解できる簡潔明瞭な文章にまとめることが肝要です。そして、このような開発計画書の決裁により、発注者側の組織としての意志を統一するのです。
 
② 即戦力となる技術を有する優れたベンダー企業を募るために、要求水準書を作成します。その中で、上記①の開発計画書に記載した「課題解決方策の概要」を大枠として、ベンダー企業の研究開発や設計・製造により実現を求めようとする「機能と性能の要求要件」について、ベンダー企業に委ねるべき設計には立ち入ることなく、ベンダー企業が設計・製造を行う上で必要十分となるよう、簡潔明瞭に記載することが肝要です。このような要求水準書であれば、ベンダー企業の創意工夫と最先端技術を存分に活かすことができますので、イノベーション(技術革新)に繋がる結果も大いに期待できるようになります。

3 発注者側のニーズとベンダー企業側のシーズをマッチングする方法
(1) 官公庁が発注者側となる場合

我が国では、官公庁が特注品の製造請負を民間企業に委託する場合には、製造請負業務委託の入札公告を「政府調達官報」に掲載した上で、総合評価落札方式一般競争入札を実施して受託企業を選定するのが通例です。しかし、官公庁による製造請負業務委託では、そのほとんどが仕様発注方式(設計と製造を分離して、別途実施した設計に基づく製造の請負のみを発注する方式)を用いているため、製造請負のみを受託した企業では、イノベーションの源となる創意工夫を凝らしたり、発注者側が示した設計図書に規定されていない最先端技術を用いたりする余地はほとんどありません。その結果、我が国では毎年、官公庁による製造請負業務委託に莫大な予算が費やされているのにも関わらず、イノベーション(技術革新)にはほとんど結び付いていないのが実情です。
 
それゆえ、官公庁が特注品の製造請負を民間企業に委託する場合には、これまでの仕様発注方式に代えて、これからは性能発注方式を用いることが望まれるところです。具体的には、特注品に求める「機能と性能の要求要件」を示した要求水準書を準備して、当該要求水準書に基づく設計・製造一括請負業務委託の入札等公告を「政府調達官報」に掲載した上で、総合評価落札方式一般競争入札又は公募型プロポーザル方式により受託企業を選定するのです。このような性能発注方式による発注手続きは、オープンイノベーションの手法そのものと言えますから、官公庁による設計・製造一括請負業務委託を通じて、イノベーション(技術革新)に繋がる結果が大いに期待できるようになります。

(2) 民間企業が発注者側となる場合

民間企業が、従来品を駆逐してしまうほどに費用対効果に優れた製品を産み出そうとして、その中での実現を求める「機能と性能の要求要件」を示した要求水準書を準備し、当該要求水準書に基づき最適なベンダー企業を迅速・的確に選定しようとしても、一筋縄ではいきません。官公庁が用いている「政府調達官報」に相当する全国に周知可能な媒体が、どこにも存在しないのです。そこで、民間企業では、要求水準書に示した「機能と性能の要求要件」(つまり、ニーズ)と、ベンダー企業が有する「研究開発と設計・製造のノウハウ」(つまり、シーズ)とのマッチングについて、オープンイノベーション仲介会社に委ねることが効果的で効率的となります。要求水準書には企業秘密が含まれていることも多いので、オープンイノベーション仲介会社では企業秘密が暴露しないよう、細心の注意を払って仲介するのが通例です。
 
ところが、我が国では、オープンイノベーション仲介会社の活用の度合いが欧米諸国に比べて低調です。その最大の理由は、他国に類を見ない我が国独自の仕様発注方式の取り組み方が、我が国の民間企業でも常識となっているためです。仕様発注方式の取り組み方では、オープンイノベーションの仲介に全く馴染みません。ちなみに、欧米諸国では昔も今も、性能発注方式の取り組み方が常識であるからこそ、オープンイノベーション仲介会社を積極的に活用することができると言えます。


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