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インフラメンテナンス工事において、設計・施工分離発注方式は総合評価落札方式一般競争入札に適さず談合の温床になります。

インフラメンテナンス国民会議への提言

【提言のタイトル】
インフラメンテナンス工事において、設計・施工分離発注方式は総合評価落札方式一般競争入札に適さず談合の温床になります。

【提言の全文】

 令和6年2月13日付の日経クロステック記事「三重県でまた談合疑惑の入札取りやめ、3カ月前には職員逮捕も」、令和5年12月25日付の日経クロステック記事「三重県職員を収賄罪で起訴、入札参加者への技術指導の見返りに200万円」、令和5年12月19日付の日経クロステック記事「治山ダム修繕工事で談合の疑い、2社の技術提案が酷似」によれば、いずれも三重県の発注に係る道路法面復旧工事、水道管補修工事、治山ダム修繕工事において、短期間の内に3件もの談合疑惑が報道されています。

 いずれの工事も、設計・施工分離発注方式で施工を発注するものであり、受注者の選定方法は、総合評価落札方式一般競争入札です。このような工事発注方法は、我が国の自治体で普遍的に用いられていますが、上記のような談合事案、談合疑い事案の発生を抑止することが困難です。その理由ですが、設計・施工分離発注方式は総合評価落札方式一般競争入札に適さないため、そのような不適合が談合の温床になるからです。つまり、発注者である自治体では、価格と技術の両面での競争原理を働かせることに傾注するのが難しいため、発注関係書類上の辻褄合わせに傾注しがちとなるからです。

 ここで、総合評価方式が我が国に導入された経緯についてですが、平成5年から6年にかけて開催された日米包括経済協議で、米国からその採用を強く求められたことが発端です。米国の公共工事の発注では、プロポーザルとネゴシエーションに基づく設計・施工一括発注方式が普遍的に用いられているため、価格と技術の両面を総合評価する方式は受注者選定に不可欠です。ところが、我が国の公共工事の発注では、設計・施工分離発注方式が普遍的に用いられているため、プロポーザルとネゴシエーションを前提とする総合評価方式との親和性に欠けており、書類上の総合評価のための詳細設計を応札者に求めて一者応札の事態を頻発させるなど、競争原理が逆に阻害されています。このように、設計・施工分離発注方式と総合評価落札方式一般競争入札との不適合が、談合の温床を形成してしまうのです。

 ところで、我が国で普遍的な設計・施工分離発注方式は、実は、他国に類を見ない我が国独自の発注方式です。我が国だけが拘り続けている設計・施工分離発注方式ですが、実際には我が国に何もメリットが無く弊害ばかりであることが、次のとおり、大阪・関西万博の海外パビリオン建設契約締結が進まないことで初めて顕在化しました。

 大阪・関西万博の来春の開幕に向けて、現時点で最も懸念されることは、海外各国が独自に建設する51館のパビリオン建設工事が大幅に遅れており、その多くが開幕までに出来上がらない恐れがあることです。51館の内、現時点で着工したのは2館のみであり、20館では建設業者が未定(建設工事契約が未締結)のままです。建設工事契約が締結できた31館では、国内の大手ゼネコンが直接請け負ったケースはありません。これでは、来春の開幕時に、万博の「華」である海外パビリオンの多くが出来上がっていないという悪夢が現実となりかねません。

 他方、国内パビリオンでは、昨年の8月頃までに全ての建設工事契約がゼネコン等の国内大手建設業者と締結済みです。海外と国内のパビリオンでは、建設工事契約締結の進捗状況に雲泥の差があります。その原因ですが、外国政府のパビリオン関係者とゼネコン等国内建設業者との間で、建設工事契約についての認識が大きく隔たっているのです。我が国では、設計・施工分離発注方式(このとおりに造ってくれといった、我が国独自の発注方式)が常識であり、工事請負契約書の雛型である「公共工事標準請負契約約款」と「民間建設工事標準請負契約約款」のいずれも、設計・施工分離発注方式を前提としています。ところが、海外ではデザインビルド方式(別途選定した建築デザインに基づく設計・施工一括発注方式であり、このようなものを造ってくれといった、グローバルスタンダードな発注方式)が常識です。このため、外国政府のパビリオン関係者には、設計・施工分離発注方式の概念を理解することは難しく、ましてや、我が国の標準的な工事請負契約書を理解して用いることは不可能です。

 このことから、我が国の自治体がこの先、冒頭記載の談合事案や談合疑い事案の発生を抜本的に抑止していくためには、我が国独自で弊害ばかりの設計・施工分離発注方式への拘りを捨てて、グローバルスタンダードな設計・施工一括発注方式を取り入れて、総合評価落札方式一般競争入札で価格と技術の両面の競争原理を確実に働かせていくことが肝要です。


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