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1996年に我が国初の性能発注方式が成功した秘訣は、ニーズとシーズのベストマッチング

インフラメンテナンス国民会議への提言

【提言のタイトル】
1996年に我が国初の性能発注方式が成功した秘訣は、ニーズとシーズのベストマッチング

【提言の全文】

 私は、警察情報通信部門の警察庁技官として35年間勤務しました。この間の1996年のことですが、当時、九州管区警察局宮崎県情報通信部長であった私は、宮崎県警察本部のヘリコプターTVシステム新規整備事業を、やむにやまれぬ事情から、前例の無い性能発注方式で取り組むことになりました。結果は、ニーズとシーズをベストマッチングした発注仕様書(今日の要求水準書です。)を短期間(外部委託せずに約1ヶ月)で作成できたことが鍵となり、事業を極めて合理的かつ効率的に完遂できました。具体的には以下のとおりです。

 1996年の春のことですが、宮崎県警察本部の地域課(航空隊が所属しています。)から、県費によるヘリコプターTVシステム導入に向けた発注仕様書作成の依頼が来ました。事情を聴いたところ、設計委託費(約五百万円)を予算要求し忘れ、整備費(約一億円)のみが認められたとのことでしたので、九州管区警察局宮崎県情報通信部で発注仕様書の無償作成を引き受けました。    

 1996年当時は、性能発注方式という言葉や概念すら無く、発注といえば仕様発注方式、つまり、設計と製造施工を分離して発注する方式しか考えられなかった時代でした。このため、ヘリコプターTVシステムなどの新規整備事業では、まず最初に設計委託費の予算を確保して、警察庁の外郭団体である(財)保安電子通信技術協会に、発注仕様書(数百枚もの詳細な設計図面・搭載図面・施工図面が中心です。)の作成を委託するのが通例でした。

 しかし、やむにやまれず発注仕様書の作成を引き受けはしたのですが、宮崎県情報通信部には、数百枚もの詳細な設計図面等を作成する人的余力などありませんでした。この時、思い浮かんだのが、仕様発注方式とは全く異なる、米国での合理的な官庁発注方法(プロポーザルとネゴシエーションに基づく性能発注方式)でした。そこで、担当の課長と係長と私の三人で、試行錯誤により「合理的な発注ができる仕様書」の作成に取り掛かりました。数百枚もの図面など絶対に作成したくなかった(作成できなかった)ので、地域課には「どのようなシステムを導入したいのか」といったヒアリングを繰り返して、また、ヘリコプターTVシステムの製造業者からは最新の機能と性能に関する情報を入手して、発注仕様書で求める整備内容の箇条書きから始めました。このプロセスを振り返ってみますと、性能発注方式の極意と言える、ニーズとシーズのベストマッチングを実践していたことになります。このようなやり方の効果は絶大で、わずか1ヶ月ほどでA4版14頁(図面は、システムの概要図の1頁のみ)の「宮崎県警察本部ヘリコプターTVシステム整備仕様書」が完成しました。

 当時の警察におけるヘリコプターTVシステム整備事業は、2社(池上通信機とNEC)の「見積もり合わせによる随意契約」によるものばかりでしたが、日立製作所が宮崎の整備事業への参加を希望して来庁した際に、この「宮崎県警察本部ヘリコプターTVシステム整備仕様書」を見てもらったところ、日立製作所いわく「この整備仕様書であれば、一般競争入札も可能です。」でした。どうやら、数百枚もの詳細な設計図面・搭載図面・施工図面が中心の発注仕様書では、日立製作所がすんなりと参入することは難しかったようです。

 そして、宮崎県警察本部の会計課での契約締結後のことですが、発注仕様書を作成した責任がありますから、宮崎県情報通信部で承認図書の内容確認・工場立会い検査・工事監督・竣工検査立会い等を引き受けました。その結果、宮崎県警察本部ヘリコプターTVシステム新規整備事業は、予定した期限内に特段の問題も無く完成することができたのです。

【提言の補足】

 私は、九州管区警察局福岡県情報通信部長として勤務していた2005年当時、福岡県警察本部の地域課からの依頼を受け、「福岡県警察本部ヘリコプターTVシステム更新整備仕様書」の作成を無償で引き受けました。また、私が関東管区警察局神奈川県情報通信部長として勤務していた2008年当時、神奈川県警察本部の地域課からの依頼を受け、「神奈川県警察本部ヘリコプターTVシステム増設整備仕様書」の作成を無償で引き受けました。
 その結果ですが、「福岡県警察本部ヘリコプターTVシステム更新整備仕様書」と「神奈川県警察本部ヘリコプターTVシステム増設整備仕様書」のいずれも、当該県情報通信部の担当係長1名により、1ヶ月ほどで作成することができました。加えて、いずれの整備事業も、前記の担当係長が中心となって承認図書の内容確認・工場立会い検査・工事監督・竣工検査立会い等を行った結果、特段の問題も無く期限内に完成しています。
 福岡でも神奈川でも、このように合理的かつ的確に事業を遂行できたのは、「福岡県警察本部ヘリコプターTVシステム更新整備仕様書」と「神奈川県警察本部ヘリコプターTVシステム増設整備仕様書」のいずれも、1996年に作成した「宮崎県警察本部ヘリコプターTVシステム整備仕様書」(これは、一般競争入札に用いて価格と技術の両面で競争原理を働かせることができるほどに完成度の高い要求水準書)を下敷として、最新のシーズと個別のニーズに合わせて焼き直す(具体的には、箇条書きしている文言を修正して、システムの概要図を書き直す)ことにより、極めて合理的かつ効率的に的確な整備仕様書(要求水準書)を作成できたことが大きかったと思います。また、このような整備仕様書(要求水準書)であれば、整備を求める内容が箇条書きで分かりやすく必要十分に記載されていたので、整備仕様書(要求水準書)の作成を担った担当係長が中心となって、承認図書の内容確認・工場立会い検査・工事監督・竣工検査立会い等を責任を持って行うことができたと言えます。


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