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認知症の母: 鍵問題その2 鍵なの?鍵じゃないの?

2022年2月。
私は、母の家の合鍵を持っていなかった。

10年以上前、突然
「私のうちの鍵を返しなさい」
「玄関前のメーターボックスにキーボックスを置くから問題ないでしょ」
と母が言い出したからだった。
それまで、犬の世話や届け物、母が旅行中の植木の水やりなどのために母の家に自由に出入りしていた。実家なのだから当然だと思っていたので嫌な気分になったのを覚えている。

メーターボックス内のキーボックス。一度も使ったことかった


認知障害の症状の一つに「物取り」というものがある。

介護の現場で、物が無くなって誰かに盗られたに違いないと思い込むことをそう呼ぶらしい。当時、母は物を見つけられないことが増えたのではないかと思う。物が無いからと家族を疑うようになりたくなかったのではないか。鍵を回収したのは母らしいしっかりした考えだったのだと今は理解している。

つまり、10年以上前の2010年頃には認知障害が進んでいたとも言える。
アルツハイマー型認知症は進行が遅い。

介護上、必要になるので
「鍵のスペアを預かるね」
と母の承諾を得て、無事に鍵を持つことになった。
何でもそうだが、正しいことだからといって、母の了承を得ずに勝手にやらないよう気をつけていた。母は「お願いします」と言った。

ところが直後から、母が部屋の鍵が無いと時々言うようになった。
「え?!ないの?」
と一緒に探すと鍵はバッグの中にある。
「鍵、あるよ。ほら」
と見せると
「あ、ほんとだ。良かった」
と笑顔になる。
そんなやりとりが数回あった。

介護保険利用が始まってから1ヶ月ほど経ったある日。
昼過ぎにデイサービスから電話が来た。
母が鍵を無くしてマンションの中に入れず共同玄関前でオロオロしていると言う。

送迎バスとデイサービス施設に落とし物はないし持ち物の中のどこにも無いと言う。でも….どう聞いても落としてるとは思えなかった。
母が持っているはずだけど無いものは仕方がない。
私が行くしかない。
でも母の家に行くは1時間ほどかかる。
たまたま夫が時間を作ってくれたので車で向かった。
あと15分ほどで到着する頃、スタッフからまた電話。

「鍵、ありました〜〜!」
「え〜〜!ほんとですか〜〜!どこに〜?」
「首からかけてました〜!ニットの脇から黒いものが見えて気になってよく見たら黒い紐で、鍵がくっついてました〜〜!」
「え〜〜!良かったーー!無くしてなくて〜」

こんなに着てたら首から紐がかかってるなんてわからない。
に、しても母はいつもオシャレだ


想像するに、母は絶対に鍵を無くすまいと考えたんだろう。
鍵を首から下げれば無くならない、と。
母らしい知恵と工夫だ。

母はいつも小さい工夫を生活の随所に施す。
少しずつ便利に、ちょっとでも合理的に。
母らしい。
でも、新しく思いついた「紐」のことをもう忘れてしまった。

見つかって良かった。
女性スタッフの観察眼はすごい。
ことなきを得て自宅へUターン。
やれやれだった。

でも本当に鍵を無くしたら私が駆け付けることになるので、その直後に複数のスペアを作った。

母は防犯性の高い種類の鍵に交換していて、スペア1つで4000円もかかった。
オートロック鍵と合わせて1組5000円。
4組作ったので20,000円かかった。
これが介護で初めての大きな出費だった。
(後で知ったが、鍵番号で注文したらもっと安かったのに…)

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