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『長いお別れ』を見て思い出した

『長いお別れ』2019年公開 

認知症のことを「Long Goodbye(長いお別れ)」と表現するらしい。認知症になった人を取り巻く家族や友人の目線からの言葉だろう、と想像する。大切な人が徐々に失われていく気持ちを、後から回想してできた言葉なのだろうか。

認知症になった旦那様を看取った友人から手紙をいただいたことを思い出した。

Leeさんとお会いしたのは、まだ認知症の初期でした。あの頃はお父さんと二人で家庭菜園で作業をするのが一番の楽しみでした。当時、認知症の家族の会でホールでカラオケを歌わせてもらったのは本当に楽しかったです。お父さんがあんなに声が出るとは思わなかった。でも、病気は徐々に進んでしまうので、だんだんとできることが少なくなって不機嫌な状態が多くなっていった頃は一番辛かったです。次に何をするのかわからなくなったのでしょうね。怖さを紛らわせるために興奮することも多くなりました。あのお父さんが、デイサービスやショートステイを利用するようになるのは信じられなかったけど、皆さん親切なので、しばらくしたらなれました。けど、今度は身体に変化が現れてきたのね。食べ物を飲み込むことが難しくなり、歩くこともできなくなっちゃった。悩んだ末に老人ホームに入所したのに、すぐに肺炎を起こしてしまいました。やっぱりお父さん帰りたかったんじゃないかと、またまた悩んだ末に、家に引き取ることにしました。それが本当に良かった。最期を家で過ごせて。孫やこどもたちがかわるがわるお父さんに会いに来ました。お父さんは、みんながばらばらになってるコロナ禍の中で『いのちの教育』をして旅立って行ったんだと思ってます。

もちろんのこと人それぞれ、毎日毎日、世界中で認知症になった方とその周辺の人たちには、喜怒哀楽の絶えないドラマが起こっていると思う。語れないエピソードすらも。

この映画にも様々なエピソードが散りばめられてる。

中でも、人生がうまく行かないと悩む次女(蒼井優)が認知症になったお父さん(山崎努)に悩みを打ち明けるシーンが良かった。お父さんは、正確に言葉を告げられない。けれど、伝えたい思いがあることは通じる。二人のやり取りを通して、人と人とのコミュニケーションが言葉だけでは無いという真実が胸に迫った。

奥さん(松原智恵子)の旦那への忠実な愛、アメリカに住む長女の遠く離れていても結ばれている絆、それぞれの気持ちが響き合う優しい映画。

ホッとする映画はいいね。初めてみた中野監督の映画だった。



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