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ルチャの受け身とウルトラマンの受け身は同じ?

コロナが広がりをみせた頃、アメリカではウルトラマンシリーズのブルーレイ(レオ以降はDVD)BOXが続々とリリースされていた。
一作あたり10ドル~15ドルと手ごろな値段だったため、ちょいちょい買っては見てを繰り返し、先日ウルトラマンティガまで見終えることができた。

ここまでシリーズを見ていて気になったのは、ウルトラマンたちが取る受け身。これは昨年Gスピリッツで書かせてもらったが、特撮ヒーローたちが取る前回り受け身は、日本のプロレスや柔道のそれではなく、ルチャ・リブレの前回り受け身「トレス・クアルトス」とほぼ同じものだ。
ウルトラ兄弟の受け身も、基本的にはこの「トレス・クアルトス」だが、個人差があるのだ。

ルチャ・リブレの基本である「トレス・クアルトス」は一見ただの前転だが、片方の膝を曲げたまま90度外側に倒して起き上がりやすくするものだ。

現役当時の練習ノートより「トレス・クアルトス」のやり方

簡単な動作だが、片足を曲げ、片足を伸ばす日本のプロレスや柔道の前回り受け身が身体にしみついていると、体重のかけ方が違うため、なかなかマスターできない場合がある。

「ウルトラマン」から「帰ってきたウルトラマン(以下新マン)」は、この受け身を取ることは非常に少なかった。
両者は怪獣と組合い、もみ合いの状態になることが多く、ポンポン投げ飛ばされるシーンがあまりないのだ。
「ウルトラセブン」は組み合った戦い自体が少ないうえに、アイスラッガーや光線系の技一発で仕留めるケースが多く、殴る蹴るといった展開があまりみられない。
この3者の中で一番派手なファイトスタイルをあげればウルトラマンで、ドロップキックを放ち、相手を手招きで挑発。不敵な笑い声をあげるといった、完璧なヒールスタイルだ。3者は作品前半ではほぼ見られなかったトレス・クアルトスを、後半になるにしたがって何度かとるようになった。

「ウルトラマンエース」初期は怪獣との膠着状態もあるが、チョップでペースをつかむなど若干派手なスタイルだ。後半になって怪獣の顔面を殴るなどややラフなものになっていった。
エースはここまでの歴代ウルトラマンと違って、「トレス・クアルトス」を頻繁に見せている。しかし作品序盤は、ひざの向きが逆だったり変にひざがおれていたりと受け身が安定していない。後半になってだんだん形がさまになっていった。ちなみに超獣は先に挙げた柔道式の右足を曲げ、左足を伸ばす前回り受け身をみせている。

「ウルトラマンタロウ」はエースの後半の流れを引き継ぎ、派手な動きで怪獣の顔面を容赦なく殴り、首投げで投げ飛ばし、顔面を蹴り上げるといったちょっと怖いケンカ風なスタイルだ。「トレス・クアルトス」は最初から見せているが、頭の角が邪魔なせいか身体が横に流れてしまい、ルチャ教室だったら先生に口酸っぱく注意されるレベルだ。

そして異色なのが「ウルトラマンレオ」で、なんとウルトラ兄弟の中で唯一「トレス・クアルトス」ではなく、日本式の足を伸ばした柔道式前回り受け身を取るのだ。ファイトスタイルは側転で相手の攻撃をかわし、宇宙人と腕の取り合いを見せたり、マイティ井上ばりのサマーソルトやサーフボード、ブレンバスターなどかなりプロレスの技を見せてくれる。怪獣も負けずに、レオをボストンクラブに固めその状態で尻尾で首を絞めつけるといった身体を生かした攻撃をみせることもある。

一番きれいなトレス・クアルトスを見せるのが「ウルトラマン80」。遠くに投げ飛ばされるときは、ルチャ式の受け身「トレス・クアルトス」だが、持ち上げられてその場に叩きつけられるときは日本式の受け身、さらに前宙受け身も使い分けるなど、その場に応じて臨機応変に対応している。ファイトスタイルは前蹴り、回し蹴り、後ろ回し蹴りとチョップでコンビネーションを構成し、側転とバク宙で間合いをとるという進化が見られる。

そして最初にあげた日本式前回り受け身のクセがついてしまい、なかなかうまく「トレス・クアルトス」ができなかったのが「ウルトラマン・ティガ」だ。
作品前半から中盤にかけて、「トレス・クアルトス」の形で受け身はとっているのだが、横に倒した左足に体重がかかってしまうため、スムーズに起き上がることができないのだ。
これって日本スタイルのプロレス経験者がルチャスタイルを学ぶときにぶつかる共通の壁かと思ったら、ウルトラマンにも同じ悩みがあったようだ。ティガは柔道経験者だったのかな、と想像してしまった。
しかしシリーズも終盤に差し掛かると、そのぎこちなさは消えて普通に「トレス・クアルトス」になっていたから、見事に克服できていたということになる。
ティガのファイトスタイルは、パンチ、回し蹴りの連打、後ろ回し蹴りで戦いを構成するという、ちょうどK1人気が上昇している当時を映し出している。

これを書くにあたって、着ぐるみの中の人たちのことは一切考えないようにしていたのだが、たまたまYOUTUBEのおすすめ動画に、初代ウルトラマンを演じた古谷敏さんの紹介動画がでてきたので拝見させてもらうと、古谷さんは大部屋出身の俳優であり、殺陣やアクションはまったく経験がなかったという。当たり前だが昭和41年当時は、スーツアクターという職業はなかったのだ。
最初のウルトラマンの着ぐるみは視界も悪く、身体が締め付けられ、汗だくになり15分着用するのが限界だったという。この状態で演じている人に対し、受け身がどうこう言うのは失礼と思いながらも、時代とともにウルトラマンの動きと受け身が進化していった過程を知っていただきたく、検証させていただきました。


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