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メキシコの郵便屋さん

ぼくがメキシコにいたのは今から17年も前のことだから、現在はだいぶ事情も変わっているとは思うけど、当時の現地郵便事情についてのお話しを紹介します。

「メキシコでは郵便が届かないのは当たり前、ポストにいれても絶対届かないぞ。」

というのが、92年にぼくがメキシコに渡った当時の現地の人の言葉。
実際そのころ街角にあるポストはズタボロで、言われなくてもハガキを入れようとは思えないシロモノだった。

それが94年ごろ、古いものはすべて撤去され、新しいデザインのきれいなポストがお目見えした。試しに知人が市内への郵便を投函したところ、ちゃんと届いたという。
しかしそのクオリティーがいつまで維持できるのか、信用なんてできない。
ぼくたちが日本への郵便を送る際には、郵便局に直接持っていくのが常識だった。

日本からの郵便は届かないこともあったが、小包みは記憶の限りではちゃんと届いていたと思う。
小包みは通知が届き、郵便局まで取りに行かねばならないのだが、不思議なことに直接持って来てくれることもあった。

事前に通知が届くのは、税金支払いのためなのだが、その都度違う郵便局に取りに行ったり、郵便局に行ってみると、支払わずに受け取れたりするから、システムがよくわからないのだ。

日本からの大切な荷物が届かない、という同じ地区に住む知人がいたが、その直前ぼくは我々の生活圏とは全く縁もない、へんぴな場所にある小さな郵便局に荷物を受け取りに行っていたので、試しにそこを教えると、荷物が保管されていたということがあった。通知が彼のもとに届いていなかったのだ。

メキシコにあった、日本人プロレスラー練習生が寮生活をしていた合宿所には、日本の家族から送られた荷物から、金目の物が抜かれるということが頻繁にあった。
また毎年11月に郵便配達員の日というのがあり、その日は彼らにチップを渡す習慣があるのだが、そんな事情を知らないでチップを拒否したら、その後郵便が一切届かなくなった知人もいる。

そんな郵便局の配達員が、直接家まで荷物を持ってきてくれた時のこと。

「おお、あんた日本人か?おれは日本が大好きなんだよ。」

荷物の宛名から日本人と察したのだろう、日本が好きだという彼は、ものすごく饒舌に話しかけてくる。

「いやあ、おれは日本が好きすぎて、生まれてきた娘に「スズキ」って名前をつけたんだけど、どう思う?」

・・・すでにあとの祭りだ。

今更何も説明できない。

できることといえば、彼の差し出す紙に「鈴木」と漢字で書いてやることぐらいだった。

ビバ・メヒコ



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