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わたしが生きた証

誰かが呼んでいるけど

聞こえないふりをして
 
蒼い海岸沿いを歩いている

私の中の 小さな女の子は

まだ見たこともないものを

すくい上げる 怖さに

そっと 目をつむりました

波打ち際に 打ち上げられて

真夏の太陽の下 置いてけぼりになった 

一粒の真っ白な 小さな貝は

この世界の眩しさに

そっと 目を細めました


女の子は

真っ白な砂浜の上で横たわる

その貝の 一瞬の

揺るぎない 確かなきらめきに

胸がただ 熱くなりました


そして

その一瞬 という刹那が

思い出に変わった瞬間、

女の子は その貝を

すくい上げました


女の子は

「わたしが生きた証」

が欲しくなりました


しばらくして

ふと海に目をやると、


船に乗って 釣りをしている人がいました


獲物を狙って ただ静かに待つその人は

その瞬間の「高揚感」を 

今か今かと 待ちわびています


その姿を見ていて

女の子も その船に乗りたくなりました

「わたしも乗っていい?」


そして

見たこともない獲物が釣れるのを

楽しみに待ちました

けれど 待てど暮らせど

獲物はかかりませんでした

空虚な心で 家に帰りました

そして 思い出していました

「わたしの生きた証」は

どこにあるんだろう

翌日

もう一度

蒼い海岸沿いまで

やってきました

「この海に入れば、見つかるはず」

女の子は初めて、

海に入る勇気を持ちました

そして 足を踏み入れた瞬間、


その蒼々とした 水の冷たさに


やっぱり少し 怖くなりました


でも 体ごとつかると、

まるで 海に包まれているような気がしました

気持ち良く ぷかぷか浮いていたら

「何してるの?」

昨日釣りをしていた人が、勘違いをして

大急ぎで 助けにきました

釣り人の手を取って 砂浜に上がりました

「大丈夫?」

釣り人は言いました

「大丈夫じゃない」

女の子は言いました

釣り人は、女の子を抱きしめました

お互いの鼓動を感じました

左胸に「生きている証」が

しっかり動いていました


「ここにあった」


その瞬間


女の子は気がつきました


一人では「生きた証」は


見つけられないことに


翌日


女の子は 海から


まだ見たこともないものを


すくい上げました


それは

両手のひらにいっぱいの


安らぎ でした


すくい上げた瞬間、


ほっと 心が温かくなりました


隣には、釣り人がいましたから

「船に乗って どこか行こうか」

「海の向こうには 見たこともない

        果てしない未来が待ってるよ」


太陽に照らされて 真っ白く光っている


どこまでも美しく広がる 目の前の蒼い波が


女の子の足元を 優しく洗い流しました


そして


繋いだ手と手の間に


静かに満ちてゆくものが


未来を大きく動かし始めました


女の子はもう


「わたしが生きた証」を 探さなくなり


目には見えないけれど、


心の内側に広がっていく たくさんのきらめきに


日々 感謝する人生に変わりました


目には見えない 


人や動物、自然との繋がりが


永遠のきらめき であり


一瞬のきらめき であり


安らぎへの祈り


 
ある日 女の子は 


青空の美しい光を反射して キラキラ輝いている 


目の前の海の 確かなきらめきを


優しく受け止める 心の在り方こそ


わたしの生きた証 だったと悟り


眩しそうに そっと 目を伏せました


その瞬間、

女の子は、後ろから誰かに呼びかけられ


今度はしっかりと 振り返りました


「一緒にこれから

砂浜と海を守る活動をしてくれませんか」


「喜んで」






























  










 

 


 



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