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【映画感想】『PERFECT DAYS』よかったけど、拭えない違和感が同居する

 本当によかった。カセットテープからしか流れない音楽、小気味よい編集、得体の知れないOL、言葉数の多い柄本時生、無口で魅せてくる役所広司。なのに、なぜか納得できない。スッキリしない。だって、俺が知ってる東京のトイレはもっと汚くて、排泄欲に塗れたものだから。

 トイレの清掃員という役柄、汚物が出てくるだろうなと思いながら観ていたけど、結局は柄本時生が登場時にポロッと世間話に出しただけ。他にも女性用トイレを清掃するのに、出てこない生理用品。綺麗すぎる。意図的に映さないようにしているのか、現実との乖離に違和感。一方、人々の視線は冷たく汚いものをみるようだ。迷子の子どもを迎えた母親のテンションがわかりやすい。誰かがやらねばならない仕事にも関わらず…コロナ禍で誰もが感じたエッセンシャルワーカーへの感謝と慰労を忘れてはいけないのに…

 渋谷区の公共プロジェクト『the Tokyo toilet 』のキャンペーンから始まった作品なので、臭いものに蓋をするのは自然かもしれない。僕が担当者だったら、わざわざ描写させなくても、この座組なら素晴らしいものができると思うもんね。だけど、この感覚は、役所広司演じる平山の家族が裕福だとわかったときに、落ちない汚れに変わった。

 平山は職業の選択がなく仕方なく働いているわけではない。いつでも裕福に暮らそうと思えば暮らせる環境にいるのだ。妹との不仲も『トイレ清掃』という職業を介すことで起きているので、なおのことスムーズに。このことについてパンフに記載された特別対談にて作家の川上未映子は「選択的没落貴族」と表現していた。(ちょうど年始に読んだ本が川上未映子の作品だったので、それはそれで驚いた。)そのため平山は、富裕層ら観測者が望むトイレ清掃員像でしかないのだ。そしてこれがまた、富裕層らによる祭典で有終の美を飾るもんだから、困っちゃうんだよね。

 とはいえ、ヴィンダースが描くものは安っぽい作為はなく「自然にしかみえない」。パンフにて共同脚本の高崎が「とてつもない美しい自然を前に、言葉を失い立ち尽くすあの感覚に近いものを映画が手にすることはない。ヴェンダースは、美しい世界をそのまま切り取りたいのだ。」と述べていたのだが、アーティストの星野源が新曲『光の跡』を発表したときにラジオで似たようなことを言っていたのを思い出した。
拭えないものがあるけど、すごくよかったという相反した感想を抱いたので当分忘れられないだろうな。

 あと余談だけど、ヴィンダースが敬愛する小津安二郎の『東京物語』を観た。巨匠として名前しか存じていなかったが、とてもいい機会だと思ってアマプラで鑑賞した。本当にこの機会に出会えてよかった。また感想まとめたい。

 あと柄本時生が「金がないと恋愛もできないのか」と嘆いていたのも印象深かったわ。マジでそれ。少子化だってのに若者に厳しい世の中すぎる…

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