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理想の音楽


ピアノコンサートを終えた。

もう慣れたと思ったコンサートで、こんなに緊張したのは、もしかしたら初めてかもしれない。

コロナが流行ってから久々に大勢の前で素顔を晒し、下ろしていた髪の毛も上げた。

そのせいなのだろうか。

ピアノの椅子に座ると、
心臓が音が聞こえるんじゃないかと思うほど拍動し、外気に晒された腕が赤くなり、心做しか体も熱くなっていった。

持ち上げた指先は、震えを止めることを知らない。

「早く弾かなきゃ」と勝手に急かされた気持ちになって、どこかふわふわした感情のまま、ピアノを弾き始めた。

そうして始まった自分の音はやっぱりいつもと違くて、よくわからないまま、あっというまに演奏は終わった。

結局、理想の音は奏でられることなく死んでいった。


帰ってから、撮ってもらった動画を見た。

そこには、1度も止まることなく、上手く誤魔化して弾き終えた自分がいた。

何となく、素人からしたら良いように弾けたのかもしれない。けれど、動画に対して私が思ったのは、

「自分はこんなもんか。」

それだけだった。

今までのコンサートではそんなこと思わなかった。

「あそこが悪かった。」
「こうしたら良かった。」

反省点や改善点。
それを直した先に、''理想の音''があった。

けど今日のは、

今日のは…

悲しいことに、何も無い。

音が平坦すぎて、躓くところが初歩すぎて、''理想の音''にはほど遠かった。

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