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【週刊消費者情報】         悪質クレームは人権問題

東京都 カスハラ防止条例の方針に期待

東京都は悪質なクレーム対策として「カスタマーハラスメント(カスハラ)」の防止条例を制定する方針を示しました。条例案は年内にも都議会に提出される見込みだそうです。
この悪質クレームに関しては、過去からずっと言われてきた問題でしたが、いまだ企業や行政機関などには「お客様は神様」的な呪縛から抜け出せないところがあるように感じます。
都で条例化が実現されれば大きな一歩になるのではないでしょうか。また、それに続く他の自治体もおそらく多いのではないかと思われます。この全国初のカスハラ防止条例制定に期待が高まります。

「カスハラ」は企業、「対応困難者」は行政機関

いまから5年前、『消費者情報』Web版No.490で「対応困難な相談者の現状を探る」という特集を組みました。この「対応困難(者)な相談者」というのは消費者行政で使われている言葉です。カスハラが顧客による企業(もっぱら従業員に対して)への理不尽な要求など、行き過ぎた迷惑行為をさす言葉であるのに対し、「対応困難者」は行政サービスなどの相談窓口で暴言などを吐く、まさに対応困難な人を指す言葉です。
そのときの特集を要約して紹介することにします。関心のある方は下記URLからバックナンバー(No.490号)をご覧ください。

カスタマーハラスメントは人権問題

2019年5月、国民民主党の泉 健太衆議院議員は「悪質クレーム対策推進法案」を参議院に提出しました。このとき、本法案に関する議論では確か、クレーム=消費者の声(権利)というような意見がどこかの団体からあったように記憶しています。でもそれはちょっと違うんじゃないかと、私なんかは思っていました。たぶん悪質なクレーマーの実態をご存じないのだろうと。

本法案提出からさかのぼること2年。労働組合のUAゼンセンが実施した「悪質クレーム対策アンケート」(2017年10月)によって、流通業界の悪質クレームの実態が明らかになりました。それを受け、立法化の流れが加速していくのですが、結局、本法案は審議にいたらず、当時国会で可決・成立したのは「女性活躍・ハラスメント規制法」でした。その後、コロナ感染症が世界中でまん延し、もはや悪質クレーム対策推進法案どころでは、正直なくなってしまったのでしょう。

UAゼンセンのアンケート(5万人超に及ぶ調査票集計)から迷惑行為を列挙します。
「暴言(2万4107件)」「何回も同じ内容を繰り返すクレーム(1万4268件)」「権威的〈説教〉態度(1万3317件)」「威嚇・脅迫(1万2920件)」
「長時間拘束(9752件)」「セクハラ行為(4953件)」「金品の要求(3002件)」「暴力行為(1792件)」「土下座の強要(1580件)」「SNS・インターネット上での誹謗中傷(465件)」「その他(1431件)」――。

また、「悪質クレームの類型別判断・対応」のなかで、迷惑行為の筆頭である暴言型の判断基準をこう記しています。
「大きな怒鳴り声をあげる」「侮辱的発言(例:『バカ野郎!』『死ね』『殺すぞ』等)」「名誉棄損」「人格否定(例:従業員に対して悪態をつく等)」――。

これら暴力的な言葉を浴びせられ、精神を患い健康を損ねた挙句、退職していく従業員も少なからずいるということです。これはまさに人権問題として取り扱うべきテーマではないでしょうか。
都のカスハラ防止条例が大きな一石となり社会の認識を変えて行けるかどうか、今後注視していきたいと思います。

                『消費者情報』Web版編集室 原田修身
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