自然数に「直感的な」確率測度が入らないことの証明

Xで話題になっているのを発見したので、自分なりに証明を考えてみました。

自然数全体の集合$${\{1,2,3,\cdots\}}$$を$${\mathbb{N}}$$とし、自然数$${m}$$に対し$${m}$$の倍数全体からなる$${\mathbb{N}}$$の部分集合を$${\mathbb{N}_m}$$とします。
可測空間$${\left(\mathbb{N}, 2^\mathbb{N}\right)}$$上の最も「直感的な」確率測度とは何か、考えてみましょう。それは、「自然数全体から完全にランダムに数字を取り出す操作」を表すような確率測度のことだと考えられます。

そのような確率測度$${\mu}$$が存在したとすると、我々の確率についての直感から、以下の条件は自然に要請されると思います。

$$
\mu ({\mathbb{N}_m})=\dfrac{1}{m} \quad\forall m\in\mathbb{N}.\qquad\cdots(*)
$$

しかし、実際には以下が成立します。

命題
$${(*)}$$を満たす$${\left(\mathbb{N}, 2^\mathbb{N}\right)}$$上の確率測度$${\mu}$$は存在しない

(証明)
そのような$${\mu}$$が存在するとする。この時、相異なる素数$${p, q}$$に対して$${\mathbb{N}_p}$$と$${\mathbb{N}_q}$$は互いに独立となることにまず注意する。これは、

$$
\mu\left(\mathbb{N}_p\cap\mathbb{N}_q\right)=\mu\left(\mathbb{N}_{pq}\right)=\dfrac{1}{pq}=\dfrac{1}{p}\times\dfrac{1}{q}=\mu\left(\mathbb{N}_{p}\right)\times\mu\left(\mathbb{N}_{q}\right)
$$

よりわかる。同様にして、$${(\mathbb{N}_p)_{p\in\mathbb{P}}}$$は$${\left(\mathbb{N}, 2^\mathbb{N}, \mu\right)}$$上独立となる。ここで、$${\mathbb{P}}$$は素数全体の集合を表す。

さて、全ての自然数$${n}$$について、$${\mu(\{n\})=0}$$を示そう。これが示せれば、

$$
1=\mu(\mathbb{N})=\displaystyle\sum_{n\in\mathbb{N}}\mu(\{n\})=\displaystyle\sum_{n\in\mathbb{N}}0=0
$$

と矛盾が生じ、背理法から題意が示せる。
$${n}$$を割り切る素数を$${p_1, p_2, \cdots, p_j}$$とし、$${n}$$を割り切らない素数を$${q_1, q_2,\cdots,q_k,\cdots}$$と置く。この時、$${n\in\bigcap_{k\in\mathbb{N}}\mathbb{N}_{q_k}^c}$$より、

$$
\mu(\{n\})\le\mu\left(\displaystyle\bigcap_{k\in\mathbb{N}}\mathbb{N}_{q_k}^c\right)=\displaystyle\prod_{k\in\mathbb{N}}\mu\left(\mathbb{N}_{q_k}^c\right)=\displaystyle\prod_{k\in\mathbb{N}}\left(1-\dfrac{1}{q_k}\right)
$$

が成り立つ、ここで、リーマン・ゼータ関数のオイラー積表示

$$
\zeta(s)=\displaystyle\prod_{p\in\mathbb{P}}\left(1-\dfrac{1}{p^s}\right)^{-1}\qquad \text{Re}(s)>1
$$

を考えると、

$$
\displaystyle\prod_{k\in\mathbb{N}}\left(1-\dfrac{1}{q_k}\right)=\frac{\displaystyle\prod_{p\in\mathbb{P}}\left(1-\dfrac{1}{p}\right)}{\displaystyle\prod_{i=1}^j\left(1-\dfrac{1}{p_i}\right)}=\frac{\displaystyle\lim_{s\downarrow 1}\zeta(s)^{-1}}{\displaystyle\prod_{i=1}^j\left(1-\dfrac{1}{p_i}\right)}=0
$$

が成り立つ。これと上記の不等式より、$${\mu(\{n\})=0}$$を得る。$${\square}$$

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