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11月19日~11月25日 バナナチップス+レコード大賞

バナナチップスの作詞作曲担当のKは一通の履歴書に困惑していた。

去年、またSNSからニュースターが誕生する。そのユニット名は“バナナチップス”。彼らの「若月淳一」という曲がTikTokで脅威の10億回再生を記録し、その年のレコード大賞も獲得した。タイトルの「若月淳一」とは、100円ローソンの履歴書でサンプルとして掲載されている架空の人物である。そこにある経歴から、バナナチップスの二人が彼の人生を想像して創作した。

特にこの曲を有名にしたのは

”東京生まれパソコン育ち、小中高大剣道部、隠れて遊サー出入りしていた、若月淳一~♪
鋭いタッチは剣道ルーツ、恋も仕事も一直線、実はバリバリ港区出身、若月淳一~♪”

このように歌詞の切れ目の最後に必ず出てくる“若月淳一~♪”の独特のリズムが若者から大バズりし、この年の流行語大賞までも獲得した。

そして年が明け、その人気が冷めぬうちに大手音楽レーベルと共同で手を組み始動したのが、”履歴書を歌にするユニット、HITOASOBI”というプロジェクトである。全国から匿名で履歴書を募集し、それをもとにKが曲を創っていくという企画だ。

その第一弾の履歴書が今朝届いた。全国から2万通の応募があり選ぶだけで苦労していたKだが、一通の履歴書を見て彼の手は止まった。

●進学校を卒業。そのまま教育系の大学に入るも、その道が実は親のレールに敷かれていただけなのではないかという遅すぎる自我の芽生えにより中退。
●その後格闘家を目指して上京しようと試みる。しかし、自信がなく親に何だかんだ理由をつけてとりあえず東京の大学に入学。普通の大学生と二つ年齢が違うのが恥ずかしかったため、大学・総合格闘技の道場において一つ年齢のサバを読む。1年は耐えぬくも、泥酔した際学生証を見られ両方の場所で年齢詐称が発覚。あだ名が大学では“サバ先輩”、道場では“なっつん”に確定。(※夏川純が由来。知らない人は「夏川純 サバ読み」で検索)大学生活は、柔道部の練習の後道場に通い、残りの時間はアルバイトに励む。しかし、その努力もむなしく肝心な試合には負け続け、結局夢叶わず卒業。もう一つの夢の大手お笑い事務所への就職もあと一歩のところで届かずじまいに終わる。(※最終面接手前の合宿試験で、激ヤバなケチマインドからの行動が原因。朝ごはんが支給されると思って何も食べずにいったらまさかの実費負担。そのせいで糖分補給ができず頭が回らなかったため、早朝のペーパーテストで撃沈。)
●卒業後、関西の食品メーカーの営業となる。車で二回の交通事故の結果、香川、岡山と飛ばされる。会社員として働く傍ら、夢諦めきれず格闘技は継続。職場付近の中国拳法の道場に通う。そこで何やかんやあって日本代表になり、世界大会に出場決定。そのため練習に専念しようと食品メーカーを退職。厳しい練習を経て会場のマレーシアに乗り込むも、現地で聞かされた衝撃の事実に驚愕する、まさかの出場者二人。対戦相手のトム、女連れだったのでボコボコにする。世界タイトル獲得。
●その後、帰国し学校事務職員として働きながら、コピーライターを目指し…

「もうええ!これワシやないか!」

その履歴書は、レコード大賞を獲りすっかり調子にのったKを戒めるため、母が送ってきたK自身のものだった。Kは憤慨し机上の書類を薙ぎ払った。

しかし、熱いコーヒーを飲みすぐに冷静さを取り戻したK。彼は素直に母からの助言を受け止めることにした。自戒の念を込めて調子に乗って購入してしまった某高級ブランドのブーメランを肩にかけ、自分の危機感を煽るため録画していたプロ野球トライアウト特集の番組を見ようと再生ボタンのスイッチを押すのであった。

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