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導電糸の縫い方による抵抗値を比較してみた結果

はじめに

「導電糸」というものを知っていますか?
導電糸はその名の通り電気を通す糸です。
この記事では導電糸を用いて縫製・刺繍を行い、その刺繍の形によって変化する抵抗値を検証します。

僕はnüno(ニューノ)という導電布モジュールを作っており、
その延長線上で導電布の縫い方による抵抗の変化に興味があり、実際に計測することにしました。

nünoについてはこちら→ http://newno.info


やりたいこと

導電糸を使って家庭用ミシン、刺繍ミシンで縫製・刺繍をし、その抵抗値を計測する。
縫製は家庭用ミシン・刺繍ミシンで行える長さと縫いパターンで行う。

使用する導電糸
フジックス Smart-X

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導電糸スペック

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ミシンに使える長さで、手に入りやすい糸がこれのみだったので今回はこちらを使用します。

洗濯も可能だそうですが何回まで可能かの記載は見つけられませんでした。

機材説明

今回使用した機材はこちら

家庭用ミシン: シンガー モナミヌゥプラス SC217
刺繍ミシン:  シュシュデラックス EU-5
刺繍ソフト: Inkscape + Ink/Stitch


家庭用ミシンでInk/Stitchを使用する詳細は下記の記事
https://qiita.com/tendots/items/e86510f323ea3bc19235

縫い方

検証のために使用した縫い方は下記の3パターンです。

パターン1

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刺繍ミシンを使用した縫製で
同じ線幅、データタイプで、長さを変化させたパターンです。
ちなみにここで「データタイプ」と呼んでいるのは「フィル/ストローク」といういわゆる「塗り/線」のことです。

パターン2:

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刺繍ミシンを使用した縫製で、同じ長さで、線幅とデータタイプを変化させたパターン。
データタイプは半分は塗り、半分は線となっています。
線データの1リピート、2リピート、というのは、
線上を刺繍で何周するかの値です。
1リピートであれば片道1回
2リピートは片道2回
3リピートは片道3回です


パターン3

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家庭用ミシンを使用した縫製。
こちらは刺繍ミシンではなく、通常の家庭用ミシンでのパターンなので、線幅やデータタイプはありません。
長さを変えていった直線縫いと、飾り縫いを2パターン用意しました。


計測結果結果

※上記では説明しませんでしたが実験では上糸だけ導電糸、上下糸ともに導電糸の2パターンを用意しており、その結果も掲載しています。


パターン1

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上糸だけ導電糸の時よりも明らかに抵抗値が減っています。

上糸のみ導電糸の場合と、上下ともに導電糸の場合では、抵抗値におよそ4倍程度の差があることがわかりました。

パターン2

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針が折れてしまったので、リピート3回の縫いはキャンセルしました。
いずれにしてもこの結果をみると、データは線よりも塗りのほうが良さそうです。

また線のデータが少くてあまり参考にならないかもしれませんが、線幅が太いほど抵抗値が下がっています。

パターン3

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上下とも導電糸にしても、飾り縫いの抵抗値は直線縫いよりも高いままでした。上糸のみ導電糸の場合と、上下ともに導電糸の場合では、
抵抗値におよそ6~8倍程の差がありました。

「塗り」と「線」の考察

パターン2で線のデータを「塗り」と「線」の2種類で縫ってみましたが、
明らかに「塗り」のほうが抵抗値が低い結果となりました。
これについては、刺しゅうデータを作る際の設定にも大きく依存しているようです。


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左側が「塗り」の刺しゅうデータ
右側が「線」でリピート2回設定の刺しゅうデータです。

「塗り」のデータは輪郭を一度形作った後、ジグザグに内側を刺繍しているのに対し、「線」のデータはジグザグに縫うのを往復で行っているだけです。

刺繍にかかる時間は圧倒的に「線」が早いのですが、導電糸同士の接点が少ないせいで抵抗値も上がってしまっています。
また、「線」のまま接点を増やそうとリピート回数を増やしても、糸が重なりすぎて針が折れてしまうため、「線」を使って抵抗値が低い刺繍をするのは難しそうです。

よって現時点では以下のことが言えそうです。

- 上糸、下糸両方とも導電糸にするべき
- SVGデータ上は「塗り」のほうが良さそう


(補足)導電糸の酸化について

実はこの実験を行った後、2週間ほど経過して再度抵抗値を図ってみたのですが、全体的に抵抗値が上がっていました。
これについては導電糸の金属メッキ部分が酸化している可能性が考えられます。

そもそも、この糸も僕が購入してから半年ほど経過しており、上に書いた抵抗値は商品のベストな状態ではないのではないかと考えています。

時間経過による抵抗値の変化については、引き続き調査をしていきます。


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