読書感想文『永田鉄山 昭和陸軍「運命の男」』

以前記載した『武藤章 昭和陸軍最後の戦略家』

に続いて、今回は永田鉄山です。
武藤章氏は最後にフィリピンで山下大将と闘って終戦を迎えていますが、永田鉄山は最後までほぼ東京で過ごした軍政家です。士官学校を出た将校の多くは隊付き将校として勤務しますが、一部エリートが参謀本部や陸軍省に勤務します。参謀本部はいわゆる作戦を立案したり作戦の元になる情報を集めたりする一方、陸軍省は厚労省や文科省と変わらない一行政機関です。ただ戦時においては国家予算の7割(海軍も含めてですが)の予算規模のある戦前の一大省庁です。その軍政部門の中心人物にして、のちに皇道派から刺殺された永田鉄山を中心に陸軍や日本の歴史を記載した著作です。

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読んでみた感想ですが、新書なこともあり読みやすかったです。って書こうと思ったのですが、本書は永田鉄山を分かり易くポジションをとることで更に分かりやすくしている側面もありそうです。徹底した合理主義な能吏であるが部下などには人情家の一面があり、家族には子煩悩。そして軍人でありながら平和主義。その面が強調されすぎている傾向はあると思っています。

確かに永田鉄山は皇道派のように急進的にソ連に一撃を加えるような思想の持ち主ではなかったと思いますが、それはあくまで日本の国力が十分ではなかったと分析(それは正しいと思いますが)していただけかと思います。

ただ、今の言葉で言えば徹底したガバナンスを重視していて当時の下剋上(現場の将校が独走した)の雰囲気がある陸軍の中では永田鉄山のような存在は比較的珍しかったと思われます。

陸大受験の合否を操作して当時の陸軍にはびこった長州閥の排除の仕方なども中々面白かったです。

まぁ永田鉄山がいれば太平洋戦争は止められたとありますが、私は否定的です。永田鉄山がいれば永田鉄山の下位互換の東条英機は首相になっていなかったと思いますが、太平洋戦争になっていなかったかは疑問です。あくまで軍人は何かを生産する人ではなく(パイを大きくはしない)、生産したものを分捕る人なので、いずれかのタイミングで日米戦は起きていたと愚行します(アメリカも日露戦争後にオレンジプランをねっていましたし)。

色々書きましたが、永田鉄山という陸軍の中心人物を中心にうまく歴史をまとめていますのでお暇な方は是非読んでくださいね。

最後に思うのは永田鉄山は優秀な官僚で、岸信介のように軍人以外を選んでいたら暗殺されることもなく、総理大臣になっていたかもしれませんね。


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