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リック天文台(カリフォルニア大学) 速報レポート (天文アウトリーチで巡る米国天文台調査の旅(3))

※注意※ 天文アウトリーチに関わる方の目線で書いています。

天文アウトリーチの文脈から見て、一言で表すと…《情熱ある研究者が踏ん張って支える、リサーチ天文台の多様なアウトリーチ》

現在でも世界第2位の大きさを誇る、口径91cm屈折望遠鏡(1888年ファーストライト)

リック天文台って?

・リック天文台はカリフォルニア大学に所属する1887年完成の天文台
・サンノゼの東にあるハミルトン山の標高約1,400mに設けられた天文台であり、「山頂に設けられた世界最初の天文台」である。(それ以前はすべて街中にあるのが普通だった)
・たいへん景色の良い場所で、「カリフォルニアを一望できる屈指のロケーション」、ロードバイク乗りもたくさんいた(リック天文台のショップには天文台オリジナルデザインのウェアまで売っていた、カッコイイ!!)

・施設には3名の大学教員、十数名の学生(変動する)、50名ほどの施設職員で運営している
・現在、全部で10の天体望遠鏡(正確には赤道儀)を所有し、3本を一般公開&教育用に、7本を研究用に運用している。(今回拝見したのはそのうちの3本)

(右)話を伺ったElinor博士。リサーチの専門は望遠鏡の補償光学システムの開発とのこと。

調査の様子

・3人常駐している教員のひとりであり、アウトリーチをマネジメントしているDr. Elinor Gatesさんにロングインタビュー+2つの観測室の案内を受けた
・Dr.Elinorの専門は補償光学システムの開発と超新星に関わることだそうだ
・もちろんElinor博士はリサーチの専門家なので、アウトリーチ活動を主な領域としているわけではない。
・非常に景色が良い場所で、美しいカリフォルニアの山々が広がり、遠くサンノゼのビル群が小さく見えた。
・ここで食べたターキーサンドイッチは最高でした、お弁当を持ってピクニックやトレッキングにも最適!!

リック天文台周囲の美しい景色。所々灰色の箇所は、雷による小規模な山火事の痕跡。

ジェームズ・リック91cm屈折望遠鏡

・1888年ファーストライト、現在でも世界第二位の大きさを誇る屈折望遠鏡(一般公開用)
・その威容は圧倒的で、まるでロケットのブースターを見上げているかのような錯覚に陥る。ブラスの鈍い輝きがシブい、カッコイイ!!
・恒星時追尾用のモーターのみ増設しているが、それ以外はほぼオリジナルのまま運用中
・台座に設けられた螺旋階段をのぼり、地上5mほどの高さの望遠鏡基部にある2つの舵輪風のギア(というか、舵輪そのもの)を回し、望遠鏡を手動制御する
・しかしギアからアイピースまでゆうに5m以上あり、望遠鏡の操作を担当する者がファインダーをのぞくことは不可能
・天体の導入には、ファインダーに1名、ギアに1名の2名のコンビネーションが必須
・現在は使われていないそうだが、効率的な観測のために建造当時はきわめて革新的だった床の昇降システムが組み込まれている。(ヤーキス天文台ではこれに倣い同様のシステムが採用された)

望遠鏡基部(青い長方形の部分)左側にギア操作用の螺旋階段がある。

アンナ・L・ニッケル1m反射望遠鏡、C・ドナルド・シェーン3m反射望遠鏡

・アンナ・L・ニッケル:1m反射望遠鏡
・超新星の確認観測等に完全リモートで制御できる望遠鏡。
・LIGOの中性子星どうしの合体による重力波検出の際、この望遠鏡で即座に光学的な確認観測を行い成果を挙げたとのこと。(実際にLIGOのDr.Davidが確認した、とのこと)
・本望遠鏡は非公開、完全に研究用

1m反射望遠鏡。典型的なリサーチ用のシステム、人が実際にのぞくことはできない。

・C・ドナルド・シェーン:3m反射望遠鏡
・1959年完成、現在も基本的に研究用。補償光学システムを搭載し、リック天文台のシンボル的な望遠鏡。
・今回インタビューしたElinor博士はこの望遠鏡の補償工学システムの開発・メンテナンスを専門としているそうだ
・この望遠鏡もガラス越しの公開のみ、研究用。

3m反射望遠鏡。ガラス越しに見学のみ可能。人が実際にのぞくことはできない。
補償光学システム稼働中の様子

リサーチ専門の天文台が行う天文アウトリーチ活動

・年間来場者数は、コロナ前で約35,000人/年
・歴史的な91cm屈折を解説ツアー付きで楽しめる昼のツアー(常設)、大学院生が案内している
・充実した天文台ショップがあり、魅力的なTシャツやグッズなどが多数販売(店番は大学院生っぽい)
・週末+サマーシーズンに夜間の天体観望イベントを開催、91cmで有名な天体を紹介する、日本の公開天文台のツアーと近い形式:ひとり25ドルで200人程度
・1980年から続けている、月1回程度のミュージックコンサート+天体観察会双方楽しめるツアー 55ドル 150人程度
・アインシュタインを主役にした劇+ディナーをセットにした特別コンテンツ 219ドル ごく少人数

公開部分の館内の様子。建造当時の19世紀の意匠のまま、独特のわくわくする雰囲気がある。

Q:ミュージック(アート)と天文の取り組みを1980年代から続けているが…?

・アートと天文の親和性はとても高い。
・写真家たちを招いて、望遠鏡と夜空のフォトセッションを開くこともある
・アウトリーチにおいて、アートの文脈はとても重要だと考えている

Q:コロナや他のリスクについて、またオンラインの取り組みについて

・コロナで施設は最低人数で管理する必要に迫られ、スタッフの半分以上が現地に来れなくなった
・うまくいっていた人的体制が壊れてしまい、未だうまくいっていない部分がある
・また、山火事の影響が大きい。特に2019年はひどく、天文台の周辺施設が燃えてしまったこともある
・特に大きな影響を受けたのがアウトリーチ分野
・アウトリーチには大学から予算は付かない。ツアーの代金やショップの売り上げでまかなっている・また、基金のお金を上手く使ってやっている。
・しかしこれがコロナで全てストップし、窮地に追い込まれた
・オンラインによる講義を試しにやってみたが、これがかなり好評だった
・しかし、一般的に研究者は、自分の講演がネットに残り続けることを嫌う。なかなか引き受けてくれる人がいない
・現在、ネット上での取り組みはほぼなくなってしまった。

Q:シャボーのようなアウトリーチ専門の公開天文台と、リサーチを専門とするリックのような天文台は、アウトリーチにおいてどのように棲み分けているのか

・シャボーは子どもから大人向け、特に未就学児の受け入れにおいて特筆すべき点がある。言わば、最初のアウトリーチ、人生で初めての天文体験にフォーカスしている。
・我々は、より高度な数学、天文学を用いたアウトリーチに絞っている。実際、リックのアウトリーチは基本的に8歳以上からのものしかない。
・私たちは全年齢をカバーするリソースはないが、低年齢層をシャボーのような博物館が担い、我々はより高い年齢層にリーチするという構図が成り立っている。

Q:あなたは研究者でアウトリーチでは評価されない立場、しかしできる限りアウトリーチに取り組もうとする姿勢を感じる。それはなぜか。

・私は天文を通して人々が笑顔になることが大好きだ。
・実は(貴重な)自分の研究費の一部をアウトリーチ活動に回している。
・困難な状況が続いているが、アウトリーチに対してできる限りのアプローチは続けたい
・もし叶うなら、私はできでば研究に専念したいので、アウトリーチ全体をマネジメントする能力のある人がいたらいいな、と思う

助成 公益財団法人カメイ社会教育振興財団(仙台市)
助成 全国科学博物館協議会(東京都)

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