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17アイス事変

私は時々献血をする。
と言うと、「なんや偉そうに、いい人アピ野郎が」と思われる気がして周りの人には言っていない。

献血をするようになったのは、2020年の初めくらいだった気がする。
コロナ前だったのは覚えている。
そこそこ長く生きているが献血歴は長いと言う訳では無い。
いわばポッと出の献血人(けんけちゅ)だ。←思いついたから書いたけどもう後悔している。消さないぞ。

最初のきっかけは、一人で本通りを歩いていた時、献血ルームが入っているビルの玄関前の立て看板に《血液が不足しています》と献血協力の呼びかけが書いてあるのを目にして、
「血?ここにあるよ」
と思い玄関をくぐった時だ。

いざ初めての献血ルームの受付を緊張しながら挙動不審に訪れたものの、何をどうすれば良いかさっぱりわからない私に、スタッフさんはテキパキと鬼スムーズに案内して下さり、問診、検査を経て無事初めての献血を終えることが出来た。

そしてなんと、献血後にセブンティーンアイスのサービスがあった。
震えた。決して寒かったからでは無い。
私はアイスがもらえた嬉しさのあまり、震えながら食べた。
きっと傍から見れば、小さく震えながら薄笑いを浮かべアイスを頬張る女の光景はさぞ奇妙だったろう。
これが17アイス事変。

その後、いまだにあまり詳しくは無いが、献血には種類がある事、献血の使い道も色々とある事、身体が献血可能な状態でなければ誰でも出来るわけでは無いという事を知った。

過去の病歴、薬の服用歴、海外渡航の有無、当日の血液状態、擦り傷が無いか等、つまり様々な健康条件をクリアしなければ献血というものは出来ないのだ。

私はただ生きているだけ、でも健康。という無駄に感じていた自分の身体の使い道があったのだ!と、謎の喜びに満ちていた。
誰かの役に立ち自己肯定感を得られアイスも食べられるなんてこの上ないwin winじゃないか。

そうして私は献血可能日のメールを心待ちにする様になり、知らせが入ればいそいそと予約をして献血をするようになった。

そして17アイス事変から数年たった今日、今年初めての献血をしに行った。
いつもの血液検査をして、
ヘモグロビンの数値が足りないと告げられ、
献血が、
初めて
出来なかった。

当たり前のように出来ると思っていた。
初めて感じる虚無感に包まれ、献血ルームを後にし、ゲーセンへ入り、太鼓の達人をめいっぱい叩いた。

アイスは食べられず、誰の役にも立てなかった。

ただ、それだけのお話。

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