劇伴作曲家のアシスタントになりたい方へ。ちょっと考えてほしい。

こんにちは。
劇伴作曲家の天休です。

最近国内の有名劇伴作曲家の方のアシスタント募集が相次いでいます。
まだ実績などない劇伴作曲家志望の人にとってはまたとないチャンスかと思います。

しかし、「お、チャンス!」と思って迂闊に手を挙げる前に、ちょっと考えてほしい。

僕は3年間劇伴作曲家のアシスタントを務めましたが、結果、やらなくてもよかったかも、と思いました。

この記事では、作曲家のアシスタントになるメリット・デメリットと、じゃあ作曲家として生きるにはどうすればいいの?という話をしていきたいと思います。

1.劇伴作曲家のアシスタントの業務について

まず、劇伴作曲家のアシスタントの業務ついてお話していきたいと思います。
僕はすべての作曲家さんのアシスタント業務について知っているわけではなく、僕が実際にやっていた業務についてはワケあって話せないので、推測していきたいと思います。

まず横山克さんの募集要項↓

業務内容のところだけ引用すると

主な業務
作曲に関わる一連のアシスト業務をして頂きます。範囲は業務全てに渡ります。アレンジ、オーケストレーション、スコア作成、データ作成などの音楽的な事柄と、タスク管理、文章作成などの事務的な事項の両方になります。のちに、作曲家として独立することを目標とすることができます。

つづいて林ゆうきさん↓


業務内容は不明ですが、

オーケストレーションの知識、コードの知識、PC、モックアップのスキル、その他秀でた長所のある方。
シベリウスもしくはフィナーレを使った楽譜作成できる方。
DAWを使った楽曲作成の経験がある。

とありますので、両者ともに
〇アレンジの手伝い
〇スコアの作成
〇ミックス用データの作成
〇タスク管理
〇メールなど事務作業

といったところでしょうか?

2.劇伴作曲家のアシスタントになるメリットを考える。

以上のことから劇伴作曲家になるメリットを考えます。

①アレンジの手伝いをしてプロから直接チェックしてもらえるという環境
「アレンジの手伝い」というのは作曲家が作ったメロ譜をオーケストレーションしたり、リズムを打ち込んでいく作業のことかと思われます。
アレンジは参考書も少なく、独学が難しい分野なので、プロから直々にチェックしてもらえるのは上達への近道だと思います。

②スコアやミックス用データの素早い制作の仕方が分かる。
これ、地味に重要です。
劇伴作曲家になったら何十曲という曲の譜面とデータを数日で作らなければならないことがザラなので、素早い制作手順が学べるのはプロになるうえで重要です。

③"日本の"劇伴の作り方が分かる。
これも重要ですね。
日本と海外ではサウンドトラックの作り方が根本的に全く違います。
そして日本の劇伴の作り方はほとんど公開されていない。
これを学べるメリットも大きいでしょう。

④事務所とのコネクション
最後にして最も大きいメリットはこれでしょうね。
横山さんの募集要項には、「作曲家として独立することを目標とすることができます。」と書かれていますし。
アシスタントになって数年間修行すれば事務所に入れてもらえる可能性が高まり、ひいてはプロの劇伴作曲家になる道も開けるかもしれません。

3.劇伴作曲家のアシスタントになるデメリットを考える。

では、デメリットは何があるでしょう?

①自分の曲を書く時間が短くなる。
業務内容にもある通り、アレンジの手伝いはするかもしれませんが、曲が書けるようになるわけではありません。
当然、プロの作曲家が作っている姿を間近で見られる可能性はあるので、手法を学ぶことはできるかもしれません。
しかし、作曲家の手法っていまYouTubeでいくらでも見られます。
それこそJohn PowellやJunkie XLだってモックアップ公開してますし、かのHans Zimmerもマスタークラスを開設しています。
結局、曲を書く(書ける)かどうかはアシスタントになるかどうかに全く関係ありません。

②膨大な雑務
先にも述べた通り、劇伴作曲家は1つの案件で30~60曲程度制作するので、膨大な雑務が発生します。
具体的には数十曲分のスコア制作、ミックス用のデータ制作、そしてそのデータをミスがないか全てチェック……。
「メール業務」ともあるので、デモテープや譜面を事務所に送ったり、もしくは事務所と作曲家のパイプをつなぐ作業もあるかもしれません。
ハッキリ言ってアシスタントの仕事の大部分はこれになると思います。
アレンジの手伝いという華やかに見える仕事の裏で、圧倒的な事務作業に追われることになるでしょう。

③給料が言い値
驚くべきことに、横山さんも林ゆうきさんも、募集要項に具体的なお金のことが一切書かれていません。
仮にアシスタントとして採用されたとして、後出しで金額を提示され、それに満足できないなら不採用となる可能性があります。(実際どうだか知りませんが……)
でも、普通の会社で給料額の書かれていない募集要項に応募しますか?
お金よりもやりがいを求めている人たちへの募集要項なのかなと、いやでも邪推してしまいます。
ビジネススキルのない作曲家志望者を狙ったやりがい搾取だと疑われても仕方ないのでは……?

4.結局劇伴作曲家のアシスタントになった方がいいの?

メリット、デメリットを挙げたところで結論へと入ります。

結論から言うと人によります。

「なんじゃそりゃ」とツッコミが聞こえてきそうなので、詳しく説明します。

劇伴作曲家のアシスタントになることの最大のメリットはやはり「事務所とのコネクションが作れる」ことです。

現状では、事務所に入らないと大きな作品に携わることは不可能です。
なぜなら、大きい作品では音楽制作費だけで数百~数千万円という金額が動くので、発注側からすれば「何かあったときに責任を取ってくれる人(会社)」が必要なのです。
ここに作曲能力は関係ありません。
なので、大きな作品に携わりたければ事務所に入る必要があります。

それ以外のメリットについてはぶっちゃけYouTubeで学べます。
アレンジの仕方はJohn PowellやJunkie XLのYouTube見てください。
Marco Beltramiは無料でスコアも公開しています↓

https://marcobeltrami.com/sheet-music/

それに今はたくさんの作曲家が作曲配信をしています。
好きな作曲家を見つけて作曲配信を見れば、時間を奪われず、無料でアレンジは学べます。

日本の劇伴の作り方については今度僕がまとめます。

なのでアシスタントになるメリットはほとんど「事務所とのコネクションが作れる」こと。この一点に尽きます。

逆に最大のデメリットは「自分へ投資する時間が無くなる」ことです。

先にも書いた通り、アシスタントになれば膨大な雑務に追われ、自分の曲を書く時間は圧倒的に少なくなります。
なので、厳しいようですが今曲が作れない人は、いつまで経っても曲が作れるようにはなりません。
作曲家が逐一面倒を見てくれたり、ゴーストライターとして雇われるなら話は別ですが。

というわけでまとめると、「どうしても劇伴事務所に入りたい人」以外は劇伴作曲家のアシスタントになることはデメリットの方が大きいです。


で、いまいちど自分自身に問いかけていただきたいのです。

「劇伴事務所に入ることが本当にあなたの幸せですか?」

あなたは作曲家になってどうなりたいのですか?
作曲家として有名になりたいのか、音楽で稼ぎたいのか、人を感動させる作品を作りたいのか……。

別にどれがダメでどれがイイという話ではありません。
どれも等しく尊く、崇高な目標です。

いちおう釘を刺しておきますが、事務所に入れたからと言って仕事が来るわけではありません。
なぜなら、1年間のドラマやアニメの枠は決まっているからです。
今はその枠を有名作曲家が奪い合っている状態。
アシスタントを卒業しても、その枠が新人のあなたに回ってくる確率はかなり低いです。
ただでさえコロナでドラマが中止や延期になっています。
その激戦を勝ち抜く算段があなたにはありますか?

以上を踏まえて、

作曲家として有名になりたいのなら、劇伴事務所に入ることをお勧めします。
事務所に入ればいつか有名作品に携われて、知名度が上がるかもしれません。それが1年後なのか、5年後なのか、10年後なのか、30年後なのか知りませんが。事務所に入って運に身を任せるのも悪くない人生でしょう。

音楽で稼ぎたいなら、アシスタントになることはお勧めしません。
先にも述べた通り、給料がいくらかも分からないアシスタント業務を経て、運任せの事務所に入るなら、自分で起業した方が稼げるでしょう。
「音楽で稼ぎたい→事務所に入りたい」という短絡的な思考の人はたくさんいるので、そのレッドオーシャンに入っていっては稼げないと思います。
人々が求めているけど、まだ誰もやっていない劇伴音楽ビジネスを見つけた方がはるかに稼ぎやすいです。
というか斜陽といわれているテレビ業界に行くことが最善手とは思えません。
作曲スキルよりビジネススキルを学ぶべきです。

人を感動させる(自分の納得のいく)作品を作りたいのなら、ますますアシスタントになることをお勧めしません。
劇伴作曲は、基本的に「オーダースーツ」と同じです。
クライアントが「身長は175cmで、細身で、パーティーに着ていく派手目なスーツ」を注文したらそれをこしらえるのが仕事です。
「いや、僕は女性向けの地味なスーツが作りたいんだ」などと宣った日には二度と仕事は来ないでしょう。
自分の良いと思える作品が作りたいなら、今すぐにでも作ってください。
インターネットがあればいくらでも仲間を集められます。
それを発表し続ければ、いつかファンが付き、クローズドインターネットで生きていけるかもしれません。

5.まとめ

というわけで、思いついたことを片っ端から書いたので読みづらくなってしまいましたが、読んでいただきありがとうございました。
いまいちど、「作曲家として生きる」ことについて考え直すきっかけとなれば幸いです。

ちなみに僕は人を感動させる作品を作りたいので、アニメを仲間と一緒に作っています。
あとKey/ビジュアルアーツ作品が大好きなので、ビジュアルアーツさんと一緒に仕事ができる算段も考えつつ実行中です。

別に事務所に入らなくてもできることは山ほどあります。
劇伴作曲家志望の人の視野が少しでも広がれが幸いです。

ちなみに、どうすれば音楽業界で生き残っていけるのか考えた記事もありますので、気になった方は是非↓


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