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煙草に夢を馳せる話。

煙草を吸いたい、と思った。

きっかけは閉塞した情勢だったり、何かをしたくてもできないフラストレーションだったり。鬱の波や、立て込んだ忙しさ。それらしい理由は山ほど見つかる。
試しに家のベランダに出てみたけれど、気圧が落下してそうな空模様とひどく涼しげな風に上着が欲しいなと思って、すぐにブランケットがあるソファに戻った。
Twitterやnoteにはこうして少しだけ。知り合いと電話を繋いだ時にはいつもより多めな不満と愚痴がこぼれ出る。それでも少しすっきりすることには違いないから、氾濫しない程度にご機会を頂いている。
以前からあった食いしばりと、最近みしっとなってしまった腰痛に苦しめられる日々。それでも通い始めた行きつけの接骨院の空気は、マスク越しにも変わりなく心地良い。抑えられていない歓談が聞こえてくると、まあ、ちょっとだけ顔を逸らしたくなるけれど。
最近は意識的にほんの小さいものでも、狭い部屋や画面の中から「いいもの」を探すようにした。今のものも、過去のものも。心の中に並べて眺めれば良い気分、にまではいかなくてもわるい気分を少し遠ざけられるような気がして。
そして昔ここにも書いた、煙草への憧憬を思い出した。結局一本の電子の煙草には手を出していない。ただ放って置いているのか、最後の信仰なのか。自分でもよくわからないけれど、それは未だ机の上に鎮座している。
きっとずっと置かれたままだろう。万能の解決策じゃないことくらい、信仰の隙間でわかっている。

それでも、
煙草を吸いたい、と思った。

本当はきっと、きっかけも何もない。ただ少し疲れただけ。
目の前の机から離れて、すっかり僻地になってしまったビルの外階段に出て。吹きつける風から守るように、安いライターで火をともして。
言葉にしても仕方がないものを垂れ流してしまわないように噛みしめていた口を開いて。一本だけ、そっと。
吸い込むものは身体に良くないけれど、僕らを取り巻く空気だって、きっとさほど変わらない。
心の奥から吐き出すわるい煙は、曇天に溶けていく。
今はただ、それを見つめていたい。
次の一本に手を伸ばしてしまわないように、ゆっくりと、大切に。

灰を落とす頃には、全てが素敵な方向に解決してないか。
そんな都合の良い物語と信仰に、祈りを捧げながら。

生まれるのが、一本の吸い殻だけだとしても。

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