体臭に悩むみなさんへ

春がやってきました。あらたな生活が始まる季節です。
期待に胸を高鳴らせている人もいれば、漠然とした不安を抱えている人もいるのではないでしょうか。

私は若かりし頃、あたらしい環境へ身を投じるたび、極度の不安と緊張に苛まれていました。
その理由は、体臭です。

私が体臭を指摘されはじめたのは、十代の半ばでした。
明確なシーンは思い出せません。
いつしか、同級生やクラブ活動のメンバーから体臭について陰口を叩かれるようになっていました。
いじめとは少々質が異なり、嘲笑の対象となっていました。

特に体臭を気にするようになったのは、高校時代です。
私の体臭はいくつかの形容をされていました。もっとも心を抉られたのは「うんこくさい」という言葉です。
いきなり「うんこ」という言葉が出てきたら、笑ってしまう人もいるかもしれませんね。
けれど、想像してください。
からだから排泄物と同じにおいを発しているといわれ、平常心を保てる人はいるでしょうか。
私は保てませんでした。日に日に自尊心は削られていき、高校へ通うのがつらくなっていきました。
私は何度も自分のからだのにおいを嗅ぎました。けれど、自分の体臭は自分ではわからないものです。
家族にたずねると、「くさくない」といわれます。一方、高校では体臭をもの笑いのタネにされます。
数少ない友人にたしかめるという方法もありましたが、私にはできませんでした。
もし友人に体臭を指摘されたのなら、わずかな希望が絶たれ、高校へ通えなくなるのではないかと考えたからです。
自尊心が大きな障壁となっていました。

当時の私は、においの原因を突き止めるための努力を惜しみませんでした。
インターネットが普及していなかった九十年代半ば、テレビや雑誌、書籍で体臭に関する情報を収集し、解決への糸を手繰り寄せようと必死でした。
起床後にシャワーを浴びる、制汗剤やマウスウォッシュを使う、肉類を控えるといった一般的な方法に加え、排便をした際におしりを入念に拭いたり、少々あやしげな消臭サプリメントに手を出したりもしました。しまいには、ワキガの手術もしました。
それでも、「くさい」といわれる機会は稀にありました。
いわゆる自臭症ではないかと思い、心療内科にも足を運びましたが、問題は解決しませんでした。

社会人になると、周囲にいるのは他者に気遣える「おとな」です。においを嘲笑される機会は格段に減りました。
けれど、その数がゼロになったわけではありません。面と向かって指摘されるケースはありませんでしたが、ニヤニヤ笑って「なんかくさくない?」などという人もいれば、陰で噂を立てる人もいました。

このままでは心が壊れてしまうと思った私は、個人事業主への道を模索し始めました。
私が選んだ職業は、パソコン一台で仕事を完結できます。
在宅ワークができるようになれば、ひとりでいられます。
ひとりでいられれば、周囲に対し体臭について気を揉まずに済むため、ストレスを減らせるのはあきらかでした。

私は二十代半ばに独立しました。
突出した才能があったわけではありませんが、出会いと縁に恵まれ、フリーランスとして十五年の時を経てました。
もちろん、まったく人と会わないわけにはいきません。
ミーティングや出張などで他者と同席する機会もありますが、毎日職場で同僚に囲まれるよりは安定したメンタルを維持できています。
根本から問題を解決できたわけではありませんが、自分を受け入れて生きる日々を楽しんでいます。

ノートを書こうと思ったきっかけは、かつての私のように、体臭に思い悩む若い世代の方々に向けて何かできないかと考えたからです。
十代の感受性が豊かな時期は、本来であれば誰もが――人種や障碍などにかかわらず――充実した毎日を過ごしてしかるべきです。
しかし、体臭について悩んでいる人はそれどころではないはずです。
体臭を嘲笑されると目の前が真っ暗になり、自分の居場所がどこにもないような思いに駆られます。
学校に通うのはもちろん、外出するのさえ怖くなってしまってもおかしくありません。

私がこれから書くのは、体臭を根本的に改善する方法ではありません。
医療的なアプローチや体臭の予防・対処方法を知りたい方の期待には応えられないと思います。
現状は、個人の経験に基づき、体臭の悩みをさまざまな観点から考察していきたいと考えています。
読者層は、十代後半の方々を想定しています。先ほど述べたとおり、私自身、十代後半のころがもっともとつらかったからです。
十代の方が収入を得るのは難しい場合もあると思いますので、記事は無料で公開します。私と同じような境遇のみなさんが、いつでも気軽にアクセスできる環境を維持していきます。
もちろん、幅広い年代の方々に読んでいただけたのなら、これほどうれしいことはありません。

ここまで書いて、はたと思いました。
はたして、私は若い方々に有益な情報を発信できるのだろうか、と。
正直、自信はありません。高校時代から三十年を経ているため、若いみなさんとの感覚のずれ、ジェネレーションギャップもあるはずです。
そんな中で、ひとりにでも「読んで良かった」と思っていただけるのであれば、文章をつづる意味があると信じています。

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