ひとがご機嫌になるとき
下りののぞみに乗っている。
進行方向右側に富士山がご覧いただけます。
短い時間ではございますが、美しい富士山をお楽しみください。
列車のアナウンスがそう告げる。
慌てて体を捻る。
左側3列席真ん中に座る私は、ちょっと見づらいけれど、体を縮めて反対側の窓の外を覗き見る。
アナウンス内容に違わず、見事なブルーの快晴を背景に、富士山がキリリと自信ありげにそこに立っている。
心に光が差す。良い日になりそうな気がする。
そんな風に心が動いているのは私だけじゃないらしく、ひとり乗車しているおじさんが携帯でこそっと写真を撮っている。寡黙そうな人、撮ってもSNSにあげたりすることもないんだろうな、というひとたちもパシャリと。
右側に見えます富士山をお楽しみください、の一言は本来の業務に必要ない。けれどその一言が一瞬でも心を照らす。1日を少し晴れやかにする。みんなの心がほんの少しご機嫌になっている。
短い時間ではございますが美しい富士山をお楽しみください。
その言葉選びも感情が乗ってて良いんだろうな。短い時間ではございますが、ってとこ、美しい、の形容詞を添えるとこがなんかいい。
人生ってそういう小さなことでぐんと豊かになるんだろうな。
誰かをご機嫌にする一言、私も伝えられると良いな。
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