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短いお別れ

本日、いぬうた市を離れる人がいます。
それは、きゅん君と、ぐーちゃんの家に、
しばらく滞在していた、いとこさんです。
きゅん君も、ぐーちゃんも、いとこさんが大好きなので、
何とも悲しくて仕方ありません。
今は、いとこさんが海外の自宅に向かう飛行機に乗るため、
空港近くのホテルまでお見送りの車中なのでありました。
ママが運転する車の助手席に、いとこさんは座っていて、
ふたりは楽しそうに話していますが、
後ろの席にひとりいる、ぐーちゃんは、
とってもしょんぼりです。
「あーあ、ぐーも、このまま、いとこさんと海外行きたいなあ」
助手席の、いとこさんにちゃっかり抱っこさせている、
きゅん君に、そう声をかけます。
「僕も行ってみたいけど、飛行機乗るのは大変なんじゃないかなあ」
いとこさんに甘えながら、きゅん君はシビアなことを言います。
「とにかく何十時間も狭いゲージの中にいないといけないみたいだよ。今みたいに抱っこしてもらって行けないのは、ちょっとね」
「そもそも歩いていけないかしら?ぐー、がんばって歩くから」
「海外だから海を超えないとダメだよ。だから泳ぐことにもなるよ。ぐーは水が苦手だろ?」
「我慢する。ぐー、がんばる。だっていとこさんと一緒にいたいから」
そう言った、ぐーちゃんの目には涙がいっぱい溜まっています。
それを聞いた、きゅん君も涙が出そうになって、
ふたりはそれっきり黙りこくってしまいました。
「でもさ」
しばらくして、きゅん君が言います。
「でもさ、今から、しょんぼりするのは、何かおかしくない?せっかくまだ、いとこさんと一緒にいるんだから、本当は楽しいはずじゃない?」
それを聞いた、ぐーちゃんは、ハッとして、
「本当よね!まだお別れしてないのに、元気がなくなるのは変だわ。いとこさんだって、ぐーの笑顔を見たいわよね」
と言ってから、前の助手席に移動して、
きゅん君のいる、いとこさんのヒザに、
ぐーちゃんも無理矢理座りました。
きゅん君は、
「邪魔だよ、ぐー、後ろに戻れよ!」
「きゅんこそ、後ろ行きなさいよ!次は、ぐーの番だから」
と、いとこさんのヒザ上の取り合いをして、
自分のヒザ上で繰り広げられている争奪戦に、
いとこさんは、窮屈ながらも楽しそうに笑って、
ホテルに着くまで、きゅん君と、
ぐーちゃんは笑って、その時を過ごしました。
でもその後、お別れした時は、わんわん泣いたふたりですが、
それまでは、がんばって笑ったりした、
きゅん君と、ぐーちゃんなのでした。
そして、いとこさんが、海を越えた数日後、
ママが、帰宅した、いとこさんとの、
テレビ電話をしてくれました。
ほんの数日前まで、一緒にいたのに、今は海の向こうだなんて、何か不思議な気分で、
本当はまだ帰っていなくて、隣の部屋にいるんじゃないか?
と、思って、ぐーちゃんは確認にいったくらいです。
それでも、こうやって顔を見れるのは、やっぱり嬉しくて、
「これだったら、いつでも会えるわね。テレビ電話さんには、がんばってもらって」
と、ぐーちゃんは、きゅん君に言って、
きゅん君も、「そうだね」と頷いて、
「でも、撫でてはくれないけどね」
と、きゅん君は言いますが、
「いとこさんの手のひらの温かさは、ぐー覚えているから大丈夫!そう、こうすれば」
ぐーちゃんは、そう言うと、目を閉じました。
「まずは、ジッと目を閉じて、いとこさんの感触を思い出して、次にパッと目を開ける!すると、ぐーの目の前には、画面の中のいとこさんの顔が!このジッパッを何度も繰り返せば、あら不思議!ぐーはまるで、今、いとこさんに撫でられているようだわあ!」
と、ぐーちゃんは「ジッパッ!ジッパッ!」
と言いながらそれを実演して見せて、
きゅん君もすぐにマネをして、
そのふたりの、目を大げさに閉じたり、開いたりする表情が、
何とも面白くて、可愛くて、テレビ電話の画面上の、
いとこさんは大笑いをするのでした。

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