インスタグラム運用における「価値観」と「スタイル」について
インスタグラム運用において、「価値観」と「スタイル」は重要な要素です。
全ての企業が意識すべきだとは言いませんが、ほとんどの企業が意識するべきことです。
価値観とスタイルを意識すべきかどうかの見極めについてはこちらの記事で簡単にまとめています。
今回の記事では「価値観とスタイルって何?」「価値観とスタイルを意識すると何が嬉しいの?」について説明をしていきます。
価値観とは何か?
価値観とは「ある物事に対する個人的な視点」です。
例えば、「選挙に行くべきである」という発信は価値観の発信です。
「選挙に(=ある物事)行くべきである(個人的な視点)」
どの物事を指定し、その物事に対してどんな視点を付与するかは企業のパーパスから生まれます。
実際そのような価値観を発信して、支持を集めている企業があります。
こちらの投稿をご覧ください。
Nagi(@nagi_official_jp)はサニタリーショーツを販売する注目のフェムテックブランドとして若年層を中心に人気を集めています。
インスタグラムでは、ジェンダー問題や政治的な課題についての価値観を発信しています。
サニタリーショーツのブランドとしてはフォロワーも多く、2022.11月時点で2.5万人にフォローされています。
「Nagiは買ったことないけど、好き」と言う人が私の周りにもいます。
Nagiの価値観発信を話題にしている人をTwitterで見かけることも少なくありません。
価値観の発信が、明確に新たな出会いを生んでいる事例です。
次は、BOTANIST(@botanist)の投稿です。
BOTANISTは「毎日の生活(=ある物事)に、植物は必要だ(=個人的な視点)」という「価値観の発信」をしています。
現代において、「植物と共に過ごすべき」という価値観を好む人は増えています。
共感する人が多ければ多いほど、価値観の発信は新しい人との出会いを生み出します。
実際に「#植物と暮らす」「#植物の癒し」というハッシュタグで検索すると、 BOTANISTの投稿が上位に出てきました。
ハッシュタグで自分の価値観に合う出会いを探している人は少なくありません。
このような価値観と価値観のマッチングを作ることで、企業は新たな顧客へ情報をリーチすることができるのです。
スタイルとは何か?
スタイルとは、「見た目で表現したもの」です。
インスタグラムでは色、写真のトーンマナー、フォンド、モデル、キャッチコピーなどさまざまな要素で「価値観」を表現することができます。
インスタグラムにおけるスタイルの表現は「フィード」に集約されます。
商品情報の表現方法、価値観の言語化、フォロワーへの問いかけなど、いくつものアウトプットの連なりが「スタイル」を作っていきます。
インスタグラムでフィードを眺めて、スタイルを研究することは私の趣味の一つです。
ここで、アカウントのスタイルを参考事例としてみていきましょう。
以下3つのアカウントのフィードをご覧ください。
みなさんはどのスタイルが好きですか?
これら全てシャンプーメーカーのアカウントです。
いま、これらのフィードを見た方はきっと「感覚」で好みを判断したと思います。
感覚は「なんとなく好き」というイメージに近いのではないかと思います。
そして、この「なんとなく好き」という感情はこれからのマーケティングにおいて重要な要素となってくると思います。
私はセブンコーヒーが好きです。
家から5分で行けますし、110円で買えて美味しい。
だけど、家から3分でいけて90円で帰る美味しいコーヒーが出てきたら、私は迷わずそちらのコーヒーを選ぶと思います。
ちなみに私は出張先では必ずスターバックスで仕事をします。
なぜか?と言われても、上手く答えれません。
なんとなく、スタバが好きだからです。
おそらく、多少値段が上がったところでスタバを選び続けるだろうなと思います。
この「なんとなく」を顧客に言わせる企業は明確なブランド価値に繋がります。
私は「セブンコーヒー」を機能だけで選んでいます。
機能だけで選ぶ場合、人は機能を理由に離れやすい状態になります。
一方で、「スターバックス」は機能だけでなく、スタイルを含めて選んでいます。
これは音楽やファッションを選ぶときのイメージに近いです。競合と比較はされにくく、簡単に顧客は簡単には離れなくなります。
この関係性を構築するのは簡単ではありません。
しかしながら、インスタグラムで「スタイル」を表現することは少なからず影響をしていくものだと私は考えます。
もちろん、「機能」はブランドにとって非常に重要な要素です。
実際に機能的価値は人から人へ伝達がしやすく、マーケティングの観点から見ても最も欠かせない要素の一つです。
しかしながら、近年あらゆるサービスの標準機能が向上し、差別化要素はどんどん少なくなってきているのも事実です。
現代のビジネスにおいて、顧客と長く繋がることは多くの企業にとって重要なテーマであることは承知の通り。
しかしながら、「機能的価値」だけでは心通う繋がりを継続させることはできません。
スタイルをつくることで、「なんとなく好き」という感情における繋がりを生み出していきましょう。
価値観とスタイルを確立させると何が嬉しいのか?
価値観とスタイルは以下の点でビジネス的メリットをもたらしてくれます。
・ブランド力が手に入る
・他者と差別化できる
・繋がりを作れる
・共感者による口コミ増
・共感者である新規層の集客
どうでしょう?
なかなか魅力的ですよね。
価値観とスタイルそれぞれの箇所で少し触れた部分もありますが、改めて説明をしていきます。
・ブランド力が手に入る
セブンコーヒーの例でも少し触れましたが、機能や値段というのは交換可能な要素です。
Aという商品の機能が10点満点中8点で値段が1000円だった場合、機能が10点満点中9点で値段が800円の商品Bに負けてしまいます。
しかしながら、「価値観」や「スタイル」は交換不可能な要素です。
「Aというブランドのスタイルが好き」というのは、あなたとブランドAとの関係性にのみに成立する事象です。
Bというブランドが魅力的なスタイルだったとしてもブランドAの魅力は損なわれることはありません。
音楽を例にとるとわかりやすいです。
私は大学生の時からノラ・ジョーンズが好きです。
最近はブルーノ・マーズの曲も聴くようになり、そのスタイルが気に入っています。
しかし、ノラ・ジョーンズが好きであるという感情は一つも失われません。
おそらく、多くの人も私と同じ状況なのではないかと思います。
価値観やスタイルで惹き付ければ、競合の状況に作用されることはなくなります。
機能と値段だけの関係では、いつ取って代わられるかわかりません。
企業はこのことを強く認識しておく必要があります。
・他者と差別化できる
多くの企業は「機能」「値段」「デザイン」で差別化をしようと考えています。
インターネットであらゆる情報が共有されることで、それらの差別化はどんどん難しくなっています。
「なんかちょっと洒落ててイマドキのコスパが良い化粧品」みたいなものは巷に溢れかえっています。
(インスタグラムを10分眺めると、30回くらいそれらの情報がでてきます)
しかしながら、価値観やスタイルは簡単に作ることはできません。
そこには一貫性やストーリーテリングが必要だからです。
「なんかちょっと好きかも」という気持ちを引き出せる商品は、インスタグラム上で多くの数字を獲得できます。
そのステージ上がるために必要なのが、「価値観とスタイル」であり、これからの時代の最も重要な差別化要素になるのです。
・繋がりを作れる
「刈り取りの広告運用こそがもっとも売上につながる」という話はあちこちで聞きます。
実際にこれは事実だと思います。
人間の本能に刺さるコピーやビジュアルで指を止めさせ、「買うか買わないか今決めて!!!」と急かしてくる広告は短期的に効果を生み出します。
今の広告は性能が良いため、課題がある人にめがけて広告を配信することができます。
そのため、「今すごく悩んでいた」という人にリーチできれば売り上げにつながることは間違いありません。
これはビジネスにおいてとても価値のある方法です。
しかし、この方法はひとつ落とし穴があります。
それは、「買わない選択肢をした人との繋がり」を切り捨ててしまうということです。
本来、顧客を「今買う人」「今買わない人」で二択に分けることなんてできません。
「今買わない人」の中には、
・欲しくなりそうだけど、いますぐ判断できない
・買ってもいいけど、今日は買わない
・他の商品と検討したら、欲しくなるかも
・今いらんけど、魅力的だと思う
など、およそ120種類の顧客タイプがいるのではないかと推測します。(おそらく)
そのため、「今買う人」をめがけて行う広告は、実は長期的に見て非効率なことがあると思ってきます。
「価値観」と「スタイル」を確立させて、その一部を切り取って広告をかけてみてください。
この広告は「今買わない人」に向けた広告です。
その広告はすぐには売上につながらないかもしれません。
しかしながら、その広告は「繋がり」を生み出し、その繋がりは「売上」を作り出すきっかけになるでしょう。
・共感者による口コミ増
価値観とスタイルと発信すると、共感者による口コミが増えます。
これに関しては実際に口コミをされているとの投稿を見てみると早いと思うので、リンクを貼っておきます。
「このブランドの価値観が好き」という共感は、新たなトラフィックを確実に生み出してくれます。
「Nagi」の価値観発信への共感者
「パタゴニア」の価値観発信への共感者
「LUSH」の価値観発信への共感者
・共感者である新規層の集客
「この商品気になるなあ」
そんなふうに思ってくれる顧客との出会いは、どの企業にとっても嬉しいものです。
あなたのサービスについて、そのようなセリフを言ってくれる人を想像できますか?
もし、想像できないのであれば「価値観とスタイル」を作れていないのが原因かもしれません。
私が好きなブランドに「ブルーボトルコーヒー」があります。
初めて訪れたのは確か2021年の夏頃だっと思います。
行列ができていたのですが、じっくりと時間をかけ、とても丁寧に接客してくれたことを今でも鮮明に覚えています。
コーヒーはとても美味しく、洗練された店内は実に気持ちが良いものでした。私は以前にも増して、さらにブルーボトルコーヒーを好きになりました。
ここで注目していただきたいのは、私は「初めて」ブルーボトルコーヒーを飲んだのに、「さらに」ブルーボトルコーヒーを好きになったということです。
つまり、私は店を訪れる以前から「ブルーボトルコーヒーが好き」という感情を抱いてしまっていたのです。
それはなぜか?
おそらくSNSで彼らの価値観とスタイルについて、見聞きしていたことが理由だと考えます。
このページに彼らの価値観とスタイルが示されています。
「デリシャスネス、ホスピタリティ、サステナビリティ」の3つを自分たちのスタイルとして挙げています。
そして、彼らはこのスタイルを忠実にサービスに反映させています。
それは口コミからも伝わってきますし、インスタグラムのアカウントでもしっかりと表現されています。
ブルーボトルコーヒー(@bluebottlejapan)
私はこれらの情報を見て、ブルーボトルコーヒーのスタイルにとても共感しました。
マインドセットとして「素晴らしいに違いない!」という前提がすでに私の中に出来上がっていたんですね。
もちろん、ブルーボトルコーヒーは期待通りのサービス価値を私に提供してくれました。(ホスピタリティは期待以上でした)
私は特別コーヒー好きであるわけではありません。
店舗に行った時も、「コーヒーが飲みたい」という気持ちは50%ほどで、50%は「ブルーボトルコーヒーに行きたい」という気持ちだったと思います。
もし、「美味しいコーヒーがある」という情報だけであれば、店舗に足を運ぶことはなかったかもしれません。
ブルーボトルコーヒーが発信する「価値観とスタイル」が、私の足を店舗に運ばせたのです。
このような体験は決して私だけではないはず。
企業の価値観とスタイルは、今日も多くの共感者の行動に変化を及ぼしていることでしょう。
「価値観」と「スタイル」を確立させる上で気を付けてほしいこと
価値観とスタイルの発信は、付け焼き刃でやっても意味がありません。
「SDGs流行りだから乗っかろう」的な思想は確実にフォロワーにバレますし、顧客の共感を呼び起こせません。
パーパスから考え抜かれた「思想」があってこそ、価値観とスタイルは研ぎ澄まされていきます。
ここの「思想」がないままインスタグラムを推進していっても、なんの意味もありません。
まずはこの点をしっかりしていただけると嬉しいです。
付け焼き刃で嘘っぱちの価値観やスタイルはやめましょう。
しかしながら、このような話をすると「じゃあうちは無理ですね」とため息をつく人がいます。
話を聞くと、「うちの会社のプロダクトには思想がない。売れれば何でも良いと考えているから、インスタグラムでどのようなスタイルを作っていけば良いかの指針がないんです。」というように続けます。
このような悩みを抱える運用担当者は少なくありません。
ただ、このような「どうせ無理」という思考は良くありません。
そこには見過ごすことのできない「勘違い」が含まれています。
それは、「価値観とスタイルは、最初に一発考えたもの以外はあり得ない」という勘違いです。
かっこいいブランドを見ると創業者が圧倒的なこだわりを持っている場合が多いです。
Nagiやブルーボトルコーヒーもそうですよね。
でも、今の時代、顧客とコミュニーケーションを日々取ることができます。
つまり、顧客が自分たちのブランドにどのような認識を持っているのか?をウォッチする中で「価値観とスタイル」を作り込んでいくことは十分に可能なのです。
私がコンサルをしているブランドでも、顧客との対話の中で価値観やスタイルを確立させていっているブランドがあります。
そのブランドはお世辞にもパーパスから生まれた思想があるとは言えませんでした。
価値観とスタイルを確立させようとディスカッションしましたが、こだわりがあまり出てこないのです。
そのため、一旦は無難なやり方でブランドを訴求をしていきました。
市場から受けるフィードバックをテコにして、考えていけば良いと思ったからです。
アカウントで発信したコンテンツの中でどういったものが反応されるのか?口コミを上げてくれる人はどういったスタイルの人が多いのか。
そういったことを細かくチェックしていきました。
そうすると、「この商品はこういう人たちに支持されやすい」ということがわかってくるのです。
市場からすぐにフィードバックを受けられるのもインスタグラムの良さです。
そのようなフィードバックを受けることで、粘土をこねるみたいに価値観とスタイルを確立させていきました。
このように今は空っぽのブランドであっても、インスタグラムを活用すれば顧客との対話の中で見出していくことが十分に可能なのです。
インスタグラムで「ブランドを作る」というのは並大抵のことではありません。
しかしながら、やり方と考え方はあります。
あきらめず、顧客とコミュニケーションをとり続ければ、顧客の中にブランドは必ず立ち上がってきます。
そういうものなのです。
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