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エンジェル投資家に聞く『投資したくなるディープテック・スタートアップ』とは?

スタートアップの創業時を支えるエンジェル投資家

技術や実績が認められてビジネスが軌道に乗るまでのあいだ、スタートアップは厳しい資金繰りを余儀なくされます。実績も技術もまだ磨き上げていく段階では、金融機関からの借入や、VCやCVCからの投資もあまり期待できず、資金調達は大変難しいのが現状です。

VCなどの投資検討以前の時期に、スタートアップへ出資を行うのがエンジェル投資家です。エンジェル投資家(個人投資家)は、まだ実績がないスタートアップに対して数百万から数千万円の投資を行います。エンジェルからの出資で成長したスタートアップは、実績を重ね、VCからの数千万円~数億円規模の調達へと段階を進めていくのが一般的です。

特に研究開発を中心とするディープテック・スタートアップは、起業時(シード期)は対象市場や事業モデルがあいまいなことも多く、VCや金融機関からの資金調達が難いことが多いのです。加えて研究開発期間は長く、収益化までより多くの資金が必要となります。
 
私たちTEPは、コア技術を持ちながらも資金が集まりづらい創業期のディープテック・スタートアップを中心に支援を行っています。現在TEPには20名を超えるエンジェル会員が所属しており、これまで合計で約2億1240万円の投資を行ってきました(2020年6月時点)。

今回は、TEPのエンジェル会員の声をご紹介します。コア技術をもつスタートアップに投資を検討する際にどういった点を見ているのか、実際の声をヒアリングしました。

「やり切れる人なのか。人とビジョンを見る」

田島 修一 / TEP理事、コーポレート会員代表世話人 

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GE CapitalやLone Star Fundをはじめとした海外での企業投資の経験が豊かな田島氏。これまで、ディープテックやファイナンスサービス系スタートアップへのエンジェル投資を行なってきました。IT、エネルギー、HRテック系スタートアップへのアドバイスを多く行なっています。

「シード期のディープテック・スタートアップが持っている技術は、そのままでは事業として成立せず、すぐに社会に価値を提供をできるものではありません。事業計画を作ることは大切ですが、サービスや製品もプロト段階で、不確定なことばかりです。

その段階で判断基準になるのは、起業家がどのような「ビジョン」を持っているかだと考えています。私が一番大切にしている基準は「人とビジョンに共感できるか」です。事業が軌道に乗るまでに起業家は数多くの苦労を経験することになります。途中で投げ出さず「やりきれる人なのか」、「チームを作れる人か」を大切に見ています。

もちろんマーケットポテンシャルも大きな判断軸ですが、リターンはエンジェル投資を継続できる、シードマネーをリサイクルできる程度あればよいと考えています。逆にいうと、どんなにビジネスとして大きくなりそうなスタートアップをみつけても、ビジョンと人に共感できなければ私は支援しません。スタートアップに投資することの魅力は、彼らのジャーニーに何らかの形で参加できることだと思っています。」

田島 修一:旧日本長期信用銀行でニューヨーク支店営業部長。GE Capital Japanマネージング・ディレクター、Lone Star Fundでパートナーとして主に企業投資を主導。2012年よりフリーランスの立場で事業再生(事業再生実務家協会理事)、リンカーン・インターナショナル(株)のクロスボーダーM&Aビジネスに係る支援を行っている。2020年より千葉商科大学会計大学院MBA課程 客員教授。シカゴ大学MBA。

「ハンズオンで支援して、一緒に会社を大きくしたい」

久保 惠一 / TEP理事、アントレプレナー代表世話人

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公認会計士である久保氏は、監査法人時代に多くの企業の上場前の監査やコンサルティングに携わってきました。マクロミル、フジマックなど計5社の株式上場の支援をしてきた経歴があります。そうした経験から、ハンズオンを重視したスタートアップ支援を行っています。

「ディープテックをもとに起業される方は「どうやって会社を経営すればいいのか」といったビジネスの基礎的なことを知らずに始める方も多いと思います。そうした方も積極的に支援したいと思っています。ビジネスプランの作成方法、資金調達の仕方、VCの紹介など、足場となる部分から支援させていただきたいです。

投資の際に一番大切にしている基準は「自分が事業にコミットできるか」です。一緒にこの会社を大きくしたいと思える会社に投資したいと考えています。ですから「お金だけ出してください」というスタートアップへの投資は難しいですね。たとえば出資した百万円が一千万円になったり一億円になったりという、ハイリターンはほとんど期待していません。

具体的には、エンジェル投資家の話をちゃんと聞いて助言を受け入れる姿勢があるような経営陣が嬉しいです。頻繁に会社の状況をヒアリングしながら、ハンズオンでの支援を行いたいと思っています。出資したら株主になるわけですが、株主総会に年に一回出席するだけであれば、私が支援する意味はないと思っています。」

久保 惠一:有限責任監査法人トーマツのボードメンバー、デロイトトーマツリスクサービス社長、トーマツ企業リスク研究所所長、日本内部統制研究学会理事を歴任。トーマツにおいて、リスクコンサルティング事業を立ち上げ、15名から450名の組織に拡大、同サービスの一部をデロイトトーマツリスクサービス株式会社として子会社化。マクロミル、フジマックなど計5社の株式上場支援を経験。著書に『東芝事件総決算』などがある。

「VCから投資をうけるレベルまで、スタートアップをブラッシュアップするのが私たちの役割」

加藤 晴洋 / TEP理事、エンジェル会員代表世話人

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シリコンバレーのVCで10年以上の投資経験がある加藤氏。現在はNECキャピタルソリューション社とSMBC VC社が設立した「イノベーティブ・ベンチャー・ファンド」というVCに所属しています。エンジェル投資の際も、プロの投資家として、スタートアップの持つ技術や市場のポテンシャルをシビアに判断し、投資や支援を行なっているといいます。

「失敗してしまうスタートアップは、マーケットの可能性がない分野で戦っていることがほとんどです。その市場がどれくらい大きくなるのか、どんな速さで市場が開けていくのかを見極めた上で、事業の方向性を決めていくことが大切です。

ですから、私は「売上高の成長性」を大切にしています。私の投資の判断軸は、マーケットポテンシャルが7割で、残りの3割が「人」です。最近投資したのはIoTのスタートアップです。新しい潮流であり、マーケットポテンシャルも感じたため、投資を決めました。

「企業は人なり」とよく言いますが、経営陣がどれだけしっかりしている人たちかも見極めさせてもらいます。今までどういうキャリアを積んできたのか、これからやろうとしている事業に対して専門的な知識や経験をどれぐらい持っているか、などです。チームワークも大切です。

投資には至らなくても、アドバイスなどの形で支援しているスタートアップはたくさんあります。その際に大切にしているのは「VCが投資判断をするレベルまで、スタートアップをブラッシュアップする」ということ。それがエンジェル投資家のあるべき姿だと思っているからです。」

加藤 晴洋:日本電気 (NEC) の経営情報システム本部、本社企画部を経てNECのアメリカ事業統括会社に出向、Strategy and Business Development Division等のGeneral Managerを歴任。その後、ベンチャーキャピタル会社Dali Hook Partnersを経てKeyNote VenturesにGeneral Partnerとして参画。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。NECからマサチューセッツ工科大学経営大学院 (スローンスクール) に留学。情報通信分野が専門。

「自分と同じような失敗をしてほしくない」

國土 晋吾 / TEP代表理事

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TEP代表の國土氏は半導体分野でのシリコンバレーでの起業、バイアウトの経験があります。基幹技術をいかにビジネスにブーストさせ、グローバルに市場展開させていくか。そのノウハウを熟知している、ディープテック・スタートアップの専門家です。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)をはじめとした研究機関や、全国の大学や行政と連携した起業家育成支援にも数多く関わっています。

「自分と同じような失敗をしてほしくないーー私がエンジェル投資家として活動している原点には、この思いがあります。私自身ディープテック・スタートアップを起業した経験がありますが、過去に数々の痛い目に遭ってきました。その度に「事前にアドバイスしてくれる先輩がいたら」とよく思ったものです。

だからこそ、私が一番大切にしている投資基準は「私の経験を生かせるスタートアップかどうか」です。助言を真摯に聞いてくれる経営者であり、かつお互いに信頼関係が築けそうかどうかを重要視しています。経営者もエンジェル投資家も「人」です。会社と事業をともに大きくしていくには、多くの困難を乗り越えなければいけません。その点で、相性が合わない人と一緒に高いハードルに挑戦できるかと言えば難しいと思っています。

もちろん、スタートアップの持つコア技術がどう優れており、どの市場にいかに応用できる可能性があるかも大切です。しかし、人と人の相性が合えば、ビジネスを組み立てて行くことは一緒に走りながら考えていけると考えています。

TEPはVCではありません。そのため、リターンを最重要とは思っていません。一方で、サスティナブルな投資を実現するためには、ある程度のリターンが必要なのも事実です。リターンを次の投資に繋げ、またそのリターンを次の未来あるスタートアップにつなげる。このサイクルを続けることが、エコシステムを構築する事になると思います。

TEPには多くのエンジェル会員がいますが、今回のnoteで紹介した4名だけでも専門や経験は異なり、投資の基準やスタートアップへの思いは各人各様です。価値観の異なる多様なエンジェルがいる状況は、とても健全なことだと考えています。1社ずつ価値観や形態の異なるスタートアップに並走するには、エンジェル側も様々な価値観を持つ必要があるからです。

私たちTEPは、投資の有無に関わらず、スタートアップから様々な相談を受けてつけています。その中で、スタートアップの皆さんからの依頼があれば、ハンズオン支援も積極的に行っています。お気軽にご相談ください。」

國土 晋吾:1984年にインテルジャパンに入社し、半導体技術と市場開発における豊かな経験を蓄積。1997年にNuCORE Technology 社を米国シリコンバレーで共同創業し、同社副社長兼日本法人代表に就任。2007年より株式会社S&C Associates代表取締役、 2011年よりNSマテリアル株式会社取締役を務める。
これまでに、海外ベンチャー企業の取締役会アドバイザーや技術アドバイザーなど、 ベンチャーの経営戦略に携わる。2014年よりTEP代表理事。

TEPは、スタートアップとエンジェル投資家をはじめとした支援者をつなぐ、様々な機会を提供しています。毎月行なっているプレゼン会、ワークショップ型のビジネスプラン作成セミナー、国内の有望なディープテック・スタートアップを認定する「J-TECH STARTUP」などなど。ご興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。


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