見出し画像

「第8回 J-TECH STARTUP SUMMIT」レポート|未来をつくる技術を持った5社が集結!新設の「大学・研究機関発スタートアップ賞」にはFerroptoCureが選出!

2024年で第8回を迎えた「J-TECH STARTUP SUMMIT」。技術系スタートアップの支援組織「TEP」が、成長が期待されるスタートアップとして認定した「J-TECH STARTUP 2023」が一同に揃い、ピッチを行うイベントです。

今回は、2024年2月7日に、浅草橋ヒューリックホールで開催された本イベントの模様をレポート。「J-TECH STARTUP 2023」認定企業のプレゼンテーションをはじめ、パネルディスカッションの様子をお届けします。


J-TECH STARTUP SUMMITとは

TEPは、技術をコアコンピタンスとした事業で、今後グローバルな成長が期待される技術系スタートアップを選定し、「J-TECH STARTUP」として毎年認定しています。「J-TECH STARTUP」認定企業は、事業の革新性、経済的な規模、社会的影響力、事業の実行力などの基準で評価され、認定を受けた企業はTEPや各協賛企業による多彩なサポートを受ける権利を得て、さらなる事業成長をめざすことができます。

「J-TECH STARTUP SUMMIT」は、その年に認定された「J-TECH STARTUP」がピッチを行うイベントで、技術系スタートアップ経営者やこれから起業をめざす研究者、そして出資や提携を考えている大手企業の皆様との橋渡しの場の役割も担っています。

J-TECH STARTUP 2023認定企業 事業紹介プレゼンテーション【シード枠】

側わん症の早期発見を可能とする検査システムの実現「株式会社SMILE CURVE」

登壇者:代表取締役 野口昌克氏

思春期側わん症の早期発見・治療の実現を目指す株式会社SMILE CURVE
側わん症は背骨のねじれが無痛で進行し、肺や神経を圧迫して呼吸障害や痛みを生じる障害で、14歳女児の2~3%が発症すると言われています。早期発見による治療が重要であり、世界各国が検診を実施あるいは推奨しています。そのうえで、同社では、側弯症の早期発見から治療、経過観察に至る全体・プロセス・サービスにたいして再構築を目指しています。

J-TECH STARTUPでは、「側わん症は海外でも多くの児童が発症しており、発展途上国を含む多くの国に展開できる可能性がある。また、これらを実現するために、検診から治療全体に対する新しいシステム・サービスの再構築を検討しており、高齢者への対応など他市場へも応用や展開が見込まれる。」ことが評価され、認定されました。

J-TECH STARTUP 2023認定企業 事業紹介プレゼンテーション【アーリー枠】

AIを用いた内視鏡外科手術支援サービスの開発「株式会社Jmees」

登壇者:代表取締役 松崎博貴氏

AIを用いた内視鏡外科手術支援システムを開発する株式会社Jmees
内視鏡外科手術(腹腔鏡外科手術)は、腹部に小さな穴をあけ、小型カメラと手術器具を挿入し、モニターを見ながら行う手術で、従来の開腹手術より患者への負担が少ないことから近年実施件数が増加しています。一方で、内視鏡外科手術においても臓器の状態や位置を把握することが難しく、誤って損傷してしまう事故が続いています。同社のシステムではAIが映像を解析し、傷つけてはいけない臓器を光らせて画面上に表示させることで、事故削減および患者のQOL向上に貢献します。

J-TECH STARTUPでは、「患者のみならず手術にかかわる関係者すべてに利益をもたらすAIを使った神経、尿管、血管などを認識表示する内視鏡手術支援システムであり、医師、エンジニア、病院が連携して取り組む医工連携のモデルケースである。また、AI学習に重要な要素である質の高い学習用映像ソースの確保や専門医がアノテーション監修を行う体制を構築しており、精度の高い認識が期待できる。国際医療画像認識コンペティションにて高い評価を得るなど製品としての競争力が高い。」ことが評価され、認定されました。

従来の物質とは異質な電子構造を持ち、常識を超える物理的効果を生じさせるトポロジカル物質の社会実装を目指す「TopoLogic株式会社」

登壇者:代表取締役 佐藤太紀氏

トポロジカル物質の社会実装を目指すTopoLogic株式会社
従来の半導体や絶縁体といった物質とは電子の流れやスピンの挙動が異なるトポロジカル物質の特性を活用し、同社では、従来の1/10以下の低消費電力で2桁速い高速書き込みを実現する半導体メモリや、従来の1/1000以下の薄膜構造かつ、微細な熱の変化を捉える高速熱センシング技術の開発を進めています。

J-TECH STARTUPでは、「磁性体材料の一種である新たなトポロジカル物質を見出した。この新物質は高い熱電能特性を持つことから異常ネルンスト効果を利用して様々な分野に活用できる高感度で高速計測が可能な小型温度センサを低価格で実現できる可能性がある。また、磁気を活用したメモリは40年前から実用化に向けた開発がなされているが、高集積化や信頼性確保への難易度が高く、いまだに実用的な製品が上市されていない中で磁気抵抗メモリの実用化開発に果敢に挑戦して半導体に新たな革新をもたらそうとしている。」ことが評価され、認定されました。

再生可能原料(バイオマス)を原料とした芳香族バイオ化学品の生産技術開発「BioPhenolics株式会社」

登壇者:CTO/筑波大学生命環境系・教授 高谷直樹氏

再生可能原料(バイオマス)を原料として芳香族バイオ化学品の生産技術開発を行うBioPhenolics株式会社
世界的にカーボンニュートラルが叫ばれる昨今、2050年には石油の使用量が4分の1まで減るとも予想される一方で、世界人口は増加し続けており、近い将来に石油を原料にした化学製品が不足するとされています。同社では植物由来のバイオマス原料の製造技術を活用し、ものづくり企業の支援を進めることで、CO2排出の削減や化学製品の安定供給実現へ貢献します。

J-TECH STARTUPでは、「豊富な微生物のライブラリを保有しており、それらを活用してターゲットとなる化学物質を効率的に作り出す微生物の選定と環境条件を特定し、ラボスケールで高い成果を出している。この取り組みが実用化できれば、再生可能なバイオマス原材料から化学品を作り出すことでカーボンニュートラルを実現することが可能となる。また、事業化のポイントとなる量と質を両立させることに当初より取り組み、スケールアップを見据えた量産化技術開発に取り組んでいる。」ことが評価され、認定されました。

フェロトーシスに着目した抗がんの剤の開発「株式会社FerroptoCure」

登壇者:代表取締役CEO 大槻雄士氏

フェロトーシスに着目した治療薬の開発を行う株式会社FerroptoCure
現在の日本で2人に1人が罹るとされる「がん」の再発や関連死の9割は、抗がん剤が効かなくなることで発生しています。同社では、細胞が増える際に発生する酸化ストレスの蓄積により起きる細胞死(フェロトーシス)に着目し、がん細胞特有の抗酸化作用を持つ分子をピンポイントで阻害することで、副作用が少なくがん細胞を減らすことができる薬剤の開発を進めています。

J-TECH STARTUPでは、「注目されていなかった細胞のストレス死に着目した新たなアプローチの抗がん剤であり、がん細胞のストレス抑制分子を阻害することでフェロトーシス誘導を起こすことから多くの固形がん種に対応できる。また、阻害薬は薬事認証済みの経口既存薬をリポジショニングして使用するため安全性の担保を図りつつ、臨床試験を進めることが期待できる。新薬と比べれば臨床試験の負荷も軽く、スタートアップが薬事承認まで取り組める開発案件であり、事業化の可能性も高い。」ことが評価され、認定されました。

〈本年度新設〉『大学・研究機関発スタートアップ賞』を受賞!
J-TECH STARTUP SUMMITでは、TEPの支援先の多くを占める大学・研究機関発の技術系スタートアップに改めて着目し、『大学・研究機関発スタートアップ賞』を新設。J-TECH STARTUP 2023認定企業のうち、大学・研究機関発スタートアップで、最も評価の高いスタートアップとして株式会社FerroptoCureを選出しました。

【パネルディスカッション】『大学・研究機関発スタートアップと大企業 共存共栄に向けた関係づくり』

J-TECH STARTUP 2023認定企業によるピッチの後は、「大学・研究機関発スタートアップと大企業 共存共栄に向けた関係づくり」をテーマにパネルディスカッションを行いました。大学発スタートアップの当事者であるBioPhenolics株式会社の高谷直樹氏や株式会社FerroptoCureの大槻雄士氏からは実体験を元にした現在感じている課題などのお話、J-TECHの先輩企業である株式会社アルガルバイオの木村周氏からこれまで大企業との協業を進めるなかで学んだことや後輩企業へのヒントを、大手企業に所属しながら数多くのスタートアップを見てきた峯藤健司氏からはCVC側の姿勢のお話などを伺いました。

パネリスト:
・高谷直樹氏(BioPhenolics株式会社 CTO/筑波大学生命環境系・教授)
・大槻雄士氏(株式会社FerroptoCure 代表取締役CEO)
・木村周氏(
株式会社アルガルバイオ 代表取締役CEO)
三井物産株式会社にて主に「食と農」「健康」領域での事業投資・経営に携わる。ペルー肥料資源事業、米国飼料添加物事業、米国サプリメント事業などに加えて、代替タンパクベンチャー企業のBeyond Meat社への出資参画(取締役会オブザーバー)などウェルネス・フードテック・バイオ領域での海外事業経験も豊富。2020年当社COOとして入社し、2021年代表取締役社長CEOに就任。一橋大学商学部卒。『藻類』の可能性を解き放つ研究開発で、社会課題を解決し、人々と地球の未来に貢献する世界No.1のクリーンテックカンパニーを目指す。
・峯藤健司氏(三菱電機株式会社 ビジネスイノベーション本部)
2011年に新卒で三菱電機に入社。開発本部 情報技術総合研究所にて光通信技術の研究開発に従事。その後、同所開発戦略部 企画グループにて研究開発の戦略策定、資源配分と実行支援を担当。2017年より同本部 デザイン研究所 未来イノベーションセンターにてオープンイノベーションを起点とした新規事業の開発と既存事業の強化に従事。2021年4月より、ビジネスイノベーション本部にて、コーポレートベンチャーキャピタル「MEイノベーションファンド」の立ち上げを主導。ベンチャーファイナンスに精通しており、メンターとして数多くのスタートアップのハンズオン支援を経験。

モデレーター:尾﨑 典明(TEP副代表理事)

大企業との協業では知財や期待値コントロールがポイント

尾﨑:まずはスタートアップの立場から、大企業との協業で難しかった点などお話しいただけますか。

高谷:今は様々な規模の企業様と協業させていただいていますが、背景としては色んな企業様がCO2の削減に取り組まなければならないなか、「どうしていいか分からない」ということでご相談をいただき、コンサルをしたりマッチングをするなかで協業の落としどころを見つけています。なかなか「これだ!」という解決法がないなか、一緒に解決策を模索している段階です。

大槻:抗がん剤の開発で製薬会社から求められるのは、動物でなく人で行われた初期の臨床データです。そこを取れないと協業の話が前に進んでいかないので、特殊な部分かもしれません。大企業側からすると臨床試験を行うのは大したことないかもしれないですが、我々スタートアップからすると1つ臨床試験に入るのはコストの面でも大ごとです。一方で、VCからは製薬会社と話を進めていることを求められたりするので、予め様々な製薬会社と話を進めておき、VCから求められたときに情報を提出できるよう手を打っています。

尾﨑:スタートアップとしては高谷さん・大槻さんより先を行く木村さんですが、VCからの資金や顧客として企業が入ってきているなかで、どのように大企業とつながり、それをマネジメントしていくかといった点でお話しいただけますか。

木村:大企業との協業という点では、大きく2つのアプローチがあります。1つは我々が持っている技術の顧客・ユーザーになっていただくという方法で、もう1つは我々が持っていない技術を補完する形で戦略パートナーになっていただく方法があります。
アルガルバイオとしてはコアコンピタンスである藻類の研究開発にフォーカスするために、用途開発にあたる応用部分についてはパートナー企業さんを呼び込むというのが基本的な考え方です。例えば食品やサプリメントを作りましょう、となったときにはその業界でご活躍される企業さんと一緒に進めていきます。

この枠組みにおいて苦労する点は、やはり共同開発の成果となる知財や権利関係でコンフリクトが生じやすく、共同開発契約に落とし込むのにとても時間がかかる点です。無論、スタートアップとの協業を多くご経験されているオープンイノベーション推進部署の方には弊社意向をご理解いただき契約条件に納得・合意いただくことができるのですが、この契約書がいざ契約締結に向けて社内稟議にまわるとリーガルやコーポレートより権利関係は大企業側に帰属すべき、といった指摘が入り、すでに一度ご担当いただく部署の方と実施した議論がもう一度・二度起きて、契約書締結までに3~4ヶ月かかったりすることが多々あります。スタートアップは18ヶ月から24ヶ月の資金ランウェイで活動しているので、この3~4ヶ月の遅れは死活問題になりますので、その辺は苦労します。

一方で、当社が持っていない技術補完を受ける場合はこうした契約面は大丈夫ですが、我々の技術レディネス観点での開発ステージやそのリソース配分などの観点で、大企業へのエクスペクテーションコントロール(期待値の調整)は気を遣います。無論、スタートアップとして夢を語る部分がありますが、あまり大きく風呂敷を広げすぎても大企業さん側での社内検討・社内説明の中でそれが更に膨張して万が一にも協業成果として回収ができないような期待値になってしまえば、一緒にやろうと言っていただいたご担当者の方々の大企業の中で立場を微妙なものにしてしまうこともあります。それは巡り巡って当社にとってもプラスに働くことはないので、その辺の期待値コントロールはすごく大事だなと思います。

そういう意味では、ディープテックのスタートアップは研究開発バックグラウンドの方が多いですが、ビジネスサイドの経験者を早い段階から社内に入れていくことで、研究開発メンバーは研究開発に集中して、大企業との事業面でのブリッジングはビジネスサイドに任せるみたいな役割分担も重要になってくると思います。

尾﨑:この辺りは峯藤さんに聞いていきたいですね。CVCとして既に6社出資されていますが、今話してきたような部分などはどのようにやられていますか。

峯藤:先ほどの知財という切り口で切っていくと、我々のファンドを通じてオープンイノベーションを始める場合は、知財を含む契約のフロント交渉も我々がやっています。手続きとして回してしまうと、相手の会社がどんな規模で何をやっているかという点が片隅に置かれてしまい、契約の条件や書面上としてそれが正しいかどうかという議論になってしまうからです。どうしてもそこで背景や経緯が飛んでしまうので、直接スタートアップとリーガルが交渉するのではなく、一旦我々が社内でプッシュバックし、線引きの調整をしています。
期待値の調整もおっしゃる通りで、我々ファンドメンバーも現実的に何ができるのかを理解してもらうために事業部ないし経営陣に対して、ファクトを説明するのがすごく大事だと思っています。すぐに成果が欲しいと言ってなかったはずなのに、時間の経過と共に、事業部や経営陣の期待がどんどん大きくなっていくので、それを抑制するのも我々ファンドメンバーの役割です。

スタートアップと大企業。できることと立ち位置を明確にして話そう

尾﨑:CVCやオープンイノベーションの観点では、企業内での評価もあると思います。例えば長軸でしか成果が出てこない対象に対し、社内ではどういうコンセンサスがなされるんですか。

峯藤:そこはほとんどの事業会社が人事評価制度に悩んでいると思います。明確な答えはないですが、事業会社の中でオープンイノベーションを推進する役割の人が報われるとか、その人が評価されるロールモデルがないと、その場にとどまりたいと考える担当者はいないんじゃないかと思います。わが身を犠牲にして会社のためにっていう精神ももちろん大事ですけど、ずっとそんなことを続けられる人もそういないと思います。

木村:私自身も大企業に身を置いていたので致し方ないところではあるのですが、いざスタートアップ側へ身を移すと、大企業の担当者の方がどうしても3年とかで社内異動される点については「勘弁してほしいな」と正直に感じます。ディープテックは特に「死の谷」を2~3度乗り越えなければいけないですし、VCが一般的にもっている10年というファンド償還期間内にExit Pointをつくれるかどうか、という時間との闘いの中で、2~3年で大企業の担当者が変わると、過去2~3年間の協業経緯の変遷に関する引継ぎ説明などとても体力がいる作業になりますので、なんとかうまく長期間スタートアップと大企業がお付き合いできるような仕組みができると嬉しいですよね。

尾﨑:異動の善し悪しもあるんでしょうけれども、スタートアップにリソースがない中で、そこに時間を費やしたり分断されるというのはちょっと困りますよね。大槻さんは峯藤さんみたいな熱い魂を持った企業の方とこれまでお会いされたことってありますか。

大槻:我々は基本的に製薬の人に会うことが多いですが、我々のカウンターパートに立つような人たちは、1日に何件もそういう依頼があって、1件1件に対してその場で熱い思いを出すことは少ないのかなと思います。たまにそういう方がいらっしゃって、長く付き合えたらいいなと思いますが、相手もグローバル企業なので異動が本当に多くて。気づいたらいなくなってて、その都度またイチから話をしなきゃいけなくなったりしています。

尾﨑:峯藤さんはどちらかというとスタートアップファーストみたいなスタンスなのかなと思いますが、他の皆さんはどんな感じなんですか。

峯藤:非常に難しい質問ですね。僕は三菱電機でいうところの王道のキャリアを歩んでいないので、少し特殊なケースだと思います。そこには企業のカルチャーがあるかと思いますが、正直なところ、ザ三菱電機な社員、つまり社内の王道キャリアを歩んできたヒトがローテーションで異動してきた場合、環境にすぐ適応することは難しいかもしれません。なぜなら、スタートアップ企業とのオープンイノベーションを推進する役割を担うと、これまでの経験で積み上げてきた仕事術や価値観では対応しきれない部分が出てくるはずだからです。これまで評価されてきたことに自信や誇りを持つことは大切ですが、今まで見えていた景色とまったく違う景色が見えたときに、ちゃんと動けるヒトかどうかはすごく大事になってきます。オペレーションとイノベーションでは求められるものが違いますからね。

私自身キャリアが大きく変わったと自己認識した際は、いわゆる片道切符で「お前何とかしろ」という状態だったので、自分なりに頑張って今までやってきました。それぐらい、自分の中でキャリアを作っていくとか、死に物狂いでしがみついていく、自分のバリューを発揮できる場所を自ら作っていくことに集中できる人が合ってると思います。

ファンドメンバーがオープンイノベーションでスタートアップと大企業をブリッジする役割のバリューが何かというと、やはりスタートアップの良さを社内に理解してもらうこと、そして一緒に協業したときに何かしら新しいものを生み出すということだと思います。
大企業とスタートアップのどちらの立場に立つかというときに、主役側に立たないと何のバリューも発揮できない。会社の事業なのか技術なのか、何かしらに貢献していくことが私のアウトプットになります。だとしたらやっぱり主役であるスタートアップの皆さん側に立たないと何も生まれないんじゃないかなと思っています。

尾﨑:峯藤さんは最初にスタートアップと方向性などを合わせる作業をされると聞きましたが、どういうふうにやってらっしゃるんですか。

峯藤:スタートアップのやりたい方向性を聞くときに、大企業側の我々は支えるのか、共同開発するのか、あるいはユーザーとして使うのか、立ち位置をはっきりさせます。スタートアップの皆さんに何を期待するのか伺い、我々が提供できるバリューがそこに一致してるか、投資の前に確認します。我々が提供できないものを求められても困りますし、我々が提供できる価値、技術支援なのかお客さんなのか、チャネルなのかみたいなところのメニューを提示して、そこの期待が一致して初めて、投資検討のフェーズに上がっていくという進め方をしています。

尾﨑:木村さんは、プラットフォーム的な事業ですが、企業さんには自ら働きかけるケースが多いですか。それともプル型というか向こうからが多いですか。

木村:基本的には全てインバウンドになります。ピッチイベントなどでユースケースを広く知っていただく機会を創出する中で、大企業の方から「こういうことをやれないかと考えているのだけど」とご相談いただくのを最初のステップにしますね。

実は、我々の創業者が技術を売り歩いた時期もあったのですが、クライアントのペインポイントがなにか、こちらからはそう簡単には見えないので、あちら側から「こういうペインがあるんです」と言ってもらう方が、共同開発に向けた協議のスタートとして一番いいなと感じてプル型に変えました。
あと、スタートアップ側も、自分たちができることを、例えば松竹梅の様に並べた方がいいと思います。「ロングショットになるが世界をひっくり返す様なテーマはこれです。ちょっとハードルは高いけど、3年から5年程度、研究開発を頑張ればこれができそうです。1年ぐらいで事業化を望まれるのであればこれです。」というのを並べるようにしていて、その中で企業さんがなにを目指したいのか、どのぐらいの時間軸で実績をつくりたいのか、というのは注意深く確認するようにしています。

これは前職時代にアメリカでベンチャー投資をさせてもらったことが学びになっていて、VCと投資受け入れ側の経営者が最初のミーティングでお互い何を期待しているのか、それをしっかりと擦り合わせます。逆にそれが合わないと今回はタイミングがあわなかったので1回離れようかとお互いになりますが、日本ではズルズルと協議に向けた協議・ディスカッション時間をとりがちです。「あれもこれもありますね、どうしましょう」と会議室で悩みながら放談する時間は、スタートアップや大企業にとって結果論として何も生産性を産まない時間なので、そこは心を鬼にして、少し話して合わないなってなったら、1回協議を止めてしばらく離れる勇気はとても大事だと思います。私たちはようやくこの1年ぐらい、もちろん失礼がないようにしつつですが、そういった判断をできるようになってきました。

尾﨑:この辺高谷さんは身につまされることも大学人としてもあると思います。大学だと、すごく安い金額での共同研究というのがあると思うんですけど、お断りするのもなかなか難しそうです。この辺りは大学人としてはどうお考えですか。

高谷:大学人としては昔から「公のために尽くす」みたいな感覚があって、無料で対応したりしてきました。でもそれは良くないなと分かってきたし、この1年間で、大企業が技術支援をしてくれるのか、協業するのか、お客さんになるのかというのをぼんやり意識していました。今のお話しを聞いてすごくクリアになりましたし、実際に1年・3年・5年でやれるレパートリーがいくつかあるので、それをちゃんと明確にしてるというのは、すごく勉強になりました。大学の人間としても、こういういいところを取り入れて、発展させていきたいですね。

尾﨑:大槻さんは創薬なので高谷さんとは全然違う分野かと思いますが、大企業と付き合っていくのは事業成長には必須だと思います。おそらくはアルガルバイオのモデルはペプチドリームのスキームとほとんど同じだと思うのですが、大槻さんの場合は動物に関しての話があると思います。そこが今どんな状況になっているのか教えてもらえますか。

大槻:そうですね。例えばペプチドリームみたいな創薬基盤技術があって、アルガルバイオさんみたいにいろんなライブラリがあるというわけではないので、どちらかというと基盤技術ありつつもパイプライン型なので、そこは少し違うのかなと。やり方がだいぶ違ってくるので考え方も変えなきゃいけないかなと思うんですけど、その上で動物に関しては扱ってくれる企業がグローバルに見ても少ないので、純粋に全部当たって砕けて、うまくいったところと組むというのが、やり方になっているかなと思います。
何件か今検討いただいているところはあって、盛り上がっているマーケットが日本よりはアメリカ、ヨーロッパだったりするので、国内の企業でもそういうマーケットを取れる企業、もしくは米国やEUの企業との話が今は増えていますね。

CVC活用のコツは「一気にみんな入れる」

尾﨑:NEDOのDTSUという大きなお金をテック系のスタートアップに出したりとか、AMEDだとかJST、Dグローバルとかいろんなプログラムが出てきてるんですね。その審査のとき、知財ももちろん見るんですが、大企業とのパートナーリングとか、VCがしっかりサポートする体制があるかみたいな評価を、結構高くするんですよね。
なのでこれから成長していくにあたっては大企業とのコミュニケーションって、切っても切り離せないような状況なのかなと思います。その観点では独立系のVCから入れるケースが多いけど、CVCの活用という観点で峯藤さんの意見を聞きたいですね。

峯藤:まず最初にネガティブサイドから言うと、どんなに純投資、財務リターンをアピールしているCVCファンドであろうとも、やっぱり企業の色がついてしまうっていうところは、絶対に気をつけなきゃいけないと思います。
そのファンドさんがどういうアクティビティをしようが、うちのコンペティターが入ってるんだからって言ってしまう役員さんとか経営幹部さんとかいた瞬間にオジャンになるなんてことも多々ありますから、株主は選び直しができないので、CVCを入れるときにはご注意ください。
CVCに投資をしてもらった後の最大の有効活用という意味では、その事業会社の持っているアセットをしゃぶり尽くすまで使い倒すのがメリットかなと思いますので、アセットを使えないCVCっていうのも除かれた方がいいんじゃないかと思います。

私自身こういうこと言ってるのも確実にブーメランで返ってくるので、これは有言実行・生涯現役でやっていかなきゃいけないなと思っています。CVCから投資を受ける際には、その事業会社に対して求めるものを明確に持っていただいた方がいいと思いますし、そのアセットを使わせてもらえるっていうコミットがないなら、そう簡単に受け入れなくていいんじゃないかなと思います。

木村:少し言い方を変えると、スタートアップ側がCVCをうまく活用できるようにちゃんと学ばなきゃいけないなと思います。僕らシリーズAは独立系のVCさんに入っていただきました。当時は当社のステージ的にそもそも「会社の経営とは」というところでした。特にディープテック系の大学発ベンチャーは研究者が創業するケースが多いので、どうチームを作るか、どう会社としての体制を整えるか、といった点は独立系VCの力を活用させていただくということですね。

当社はシリーズB資金調達が終わりましたが、シリーズBは独立系VCさんに加えて金融系のCVCさんに多く入ってもらいました。これは事業開発において自分たちではアクセスできない企業さんへのチャネルをやはりメガバンクや地銀さんは深いネットワークをお持ちであるメリットがあったからです。ステージごとにどういうCVCを入れるかというのも一つテクニックかなと思います。
また今回はメガバンク系CVCや地銀系CVCなど可能なところには全部入ってもらいましたが、もしCVCを入れる場合は「一気にみんな入れる」のが「色を消す」には結構大事だと思います。

質疑応答

Q、成長まで時間がかかるディープテック領域では、資金調達のタイミングも大きな影響があると思います。早い時期のエクイティファイナンスの良し悪しや、どのような状況や内容だと良いか、もしくは避けた方がいいのか、どのようなケースかなどアドバイスをください。

木村:先日東大のアントレプレナーシップ講座でもお話しした内容なのですが、これまでのスタートアップ起業とそのファイナンスの定説よりも、1段2段ぐっと前倒しして資本政策を考え直した方がいいと考えています。例えば一般的に創業してPoCを実施する為にシード調達をしたりしますが、創業するタイミングはMVPができたタイミングぐらいで考えた方がいいと思います。ディープテックスタートアップにとって事業を花開かせるまでに創業者や経営陣が想定している以上に時間がかかることを念頭に置くと、エクイティを入れるタイミングは後々すごく響きますし、とても大事だと思います。
あとは適正なバリエーションも大事ですね。バリエーションを上げすぎてしまうと次の資金調達ラウンド組成がより一層難易度が高まることもあるので、次の次のラウンドまで見据えて適正な価額にしておくのも大事だと思います。

高谷:ただ、起業後ちゃんと仕事を回していくためには、ある程度のお金は絶対必要なので、そんなこと言ってられないでここまで1年きてしまいました…これから気をつけたいです。

尾﨑:ディープテック系スタートアップは、シリーズが進むとダイリュージョンが起きてしまうものです。これはもうある程度はしょうがないと思うので、逆に実装を念頭に置いてもらいながら、スピーディーにやってもらう。とはいえこちらから無理にバリエーションを上げるようなやり方をすると木村さんの言われた通り、後で困ることにもなってくるので、正確に見積もってやる必要があるだろうなと思います。

Q、現在様々な成長助成金事業などがあるが、企業にとって何が一番意味があったか?助成金で助かったというのはありますか?

高谷:JST、NEDOなどをいただきました。あとは大学発スタートアップなので、大学から研究費を外部資金としていただいたりしました。どれも助かりました。

大槻:我々は創薬なのでNEDOは一切使えず、基本AMEDしか使えない。AMEDは幸いアカデミアの時代に取って、ギリギリまで引っ張って起業したのもあって助かった。
手前味噌ながら、起業して1年半ぐらいで治験までいけるのは、なかなか創薬ベンチャーとしては早い方だと思います。アカデミアで助成金を取って、ギリギリの「もうここしかない」というタイミングで起業できたのは良かったです。

尾﨑:先ほどの質問のエクイティのタイミングも、まさしく大学発・研究機関発は引っ張って起業できるからいいんじゃないかという話ですね。
大槻:そうですね。お金もそうだし、研究施設、設備、消耗品なども大学のものを使ってやってきたものを、起業して社会実装するまでに時間がかかるなか、大学のリソースを使い倒して起業まで持ってこれたのは、非常にありがたいことだったなと思います。

尾﨑:木村さんもだいぶステージ進んでるけど、いろんなもの使ってそうですね。

木村:そうですね、文科省・JSTさん、経産省・NEDOさんにお世話になっています。他にもまだ取れているわけではないですけど農水省・環境省といろいろな領域テーマを手がけている分、いろいろな可能性があるのはとても有難いです。加えて国だけでなく県や市もありますね。

これも先ほどのCVCの話と共通していて、それぞれいいところをスタートアップ側がしっかりと理解して使うのがいいなと思います。例えば当社はNEDO/STSを活用させていただきました。研究開発用の規模が大きな設備投資にお金を充てられるのは大変魅力的です。一方で取得資産は原則5年間処分できない処分制限財産になるので、例えばステージがあがって拠点を移動させる際には手続きが煩雑になる点などは要注意です。またディープテック系スタートアップとしては必ずPMFを実施する必要がでてくるかと思いますが、「試験的に作ったプロダクトを販売してはならない」などの制限も補助金枠組みによってはありますので、ステージによって使い分けが必要になってきますね。

認定証授与式&ネットワーキング

パネルディスカッションの後は、「J-TECH STARTUP」認定証の授与、「大学・研究機関発スタートアップ賞」の表彰、共催の日本能率協会による「日本能率協会 産業振興賞」の発表・授与が行われました。会の最後にはスタートアップ各社がブース展示を行い、来場者が思い思いのスタートアップと話すネットワーキングの時間となり、会場の各所で熱気あふれる会話が閉会まで続きました。

「日本能率協会 産業振興賞」にはTopoLogic株式会社が選出
各所で盛り上がる会話は閉会まで続きました

以上、イベントレポートでした。
TEPでは引き続き、技術系スタートアップのエコシステム構築に向けて活動していきます。ぜひご注目ください!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?