スペイン日誌5

さてさて、延長戦は続いております。ぼくはとうの産まれるべき赤ちゃんなわけでもないのに、苦しむ妻(サイ)のことを「ただ指をちゅぱちゅぱくわえて見ているだけ」の男である。この状況は、本来は女を守るべきものとして、「実に不甲斐ない状況」なわけだが、本当に不謹慎を承知に、しかし、あえて正直にいわせてもらえば、「女に産まれなくてよかった…」と心の片隅にも関わらず、ゼッタイに誰にも聞かれてはならないようにつぶやいてしまう。
「だいじょうぶ? サイ。クルピい?」
などとふざけてしまえば、ぼくの顔面にはすぐさま鉄拳が飛ぶだろうし、それをぼくも「正当な暴力」だと思う。それほど「お産」とはタイヘンなのだ。おそらくその苦しみに比べれば、ぼくの人生で味わってきたこれまでの苦しみなど(指の先をちっこく差して)「これーーーーーーーーーぽっち」でもないのだ。
とはいえども、究極のところでいえば、けっきょくぼくたち男にその辛さはわからない。わからないから昨夜もスースー寝てしまったし、今日も朝からガツガツ食べてしまったし、いまも昼食をまえに腹が減って、「今日はせっかくのパエーリャだから白ワインでも飲みてーなア」なんて考えてしまうのだ。
ああ、早く息子が大きくなって、一緒に飲みに行けねえかなあ。

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