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『五等分の花嫁』へのキモチ〜三玖の場合〜

『五等分の花嫁』を振り返った時に、一番成長という言葉が似合うのは三玖だ。

もちろん、一花、二乃、四葉、五月、そしてフータローもそれぞれに悩みを抱えていて、それを乗り越えていくという点では成長している。だが、一番共感できる「成長」なのが三玖だと思っている。勉強、フータローへの恋心、そして文化祭と様々なイベントを通じて、目覚ましい成長を遂げていく彼女の姿にこちらも何だか勇気を貰っているくらいに共感が止まらない。

そんな彼女の成長を実感できるのが今回の映画『五等分の花嫁』だ。作品の中で、文化祭での喧嘩の仲裁とフータローとの恋愛に注目して、その姿を見ていきたい。

まず、文化祭での喧嘩の仲裁から。文化祭でのフータローのクラスの出し物は、三玖の提案からの提案もあり、パンケーキに決まる。ただ、すんなり決まった訳ではない。パンケーキ案に反対するたこ焼き派の男子生徒の意見もあり、パンケーキ屋と同時にたこ焼き屋も出店する事になる。そんな出店を巡って、男子と女子でクラスは対立してしまい、楽しいはずの文化祭もピリピリしたムードで準備を進めていく事になってしまう。

結局、その溝は埋まる事のないまま文化祭当日を迎えてしまう。三玖は自分が提案したパンケーキがクラスを対立させてしまった事を気にかけている。そういう心持ちもあってか、彼女はクラスの女の子に「喧嘩してないで男の子と一緒にやろうよ」と伝えたいのだけど、勇気が出なくて言い出せない。それでもフータローから「対立してしまったクラスを一つにまとめられるのは三玖だけ」というアドバイスを貰った事もあり、彼女は説得を試みる。

当日になってこんなこと言ってごめんなさい でもこのまま終わりたくないのは同じ気持ちなはず
全部終わって卒業したあともいい学園祭だったねって皆で喜べるものにしよう

(注1)

と伝えて、男子生徒の説得にも成功する。だが、肝心のたこ焼き屋が火災トラブルで2日目以降の出店が停止となってしまう。彼女の説得も虚しく、この出店停止が男女の対立を余計に険悪なものにしてしまい、溝は埋まらない。フータローは今度ばかりはどうしようもないと和解を諦めてしまっているのだが、三玖は諦めない。そんな彼女は文化祭最終日にフータローに屋上へ来るように声をかける。

屋上では、パンケーキ派・女子生徒のたこ焼き屋派・男子生徒が呼び出されて、いがみ合っている。衝突する事は間違いない両者を呼び出したのは三玖自身。そんな状況に戸惑うフータローを尻目に、彼女はその間に飛び込んでいく。

仲!良く!して!(中略)学園祭…準備からずっと…楽しくない…居心地悪い… ずっと我慢してた!もう限界!

(注2)

任せて 私が説得するから 私を信じて

(注3)

先ほどの説得とは違い、ここには一切の遠慮がない。変に言葉を選ばずに、率直に自分の気持ちをぶつけていく。自分の想いを誰かに伝える勇気が出ないでいた三玖が、こんなにも自分の気持ちをぶつけていく姿にはグッと来る。思わずこちらも気持ちが動かされていくくらいの熱量だ。当然、そんな熱量はクラスの対立を埋めていく。間違いなく彼女の気持ちが誰かの気持ちを動かした瞬間だ。クラスを和解させた自信もあってか、三玖の勢いは止まらず、ある事をフータローに問いかける。

と言うのも、実はこのシーンの前に、フータローが幼馴染の女の子・竹林と文化祭を歩いている所を三玖と四葉は目撃しており、「五つ子たちを好きだ」と言った彼の事を不安視していた。そういった事情もあり、「竹林とはどういう関係なのか?」「異性として好きなのか?」を三玖は問い詰める。思わぬ彼女の追求にたじろぐフータローは、竹林は異性として好きではないと否定し、自分に対して遠慮はするなよと返答する。ここからの三玖の積極性が凄い。

キスしたい(中略)あ ごめん 返事は後で聞くね

(注4)

不意にやってくるキスシーンに見ているこちらもドキドキしてしまうし、かつてフータローへのアプローチで悩んでいた姿を思い出すと、その積極性に驚かされる。自分で勝ち得た自信を恋愛にも繋げていくその姿に何だかこちらも嬉しくなる。ここも三玖の成長を実感できるシーンだろう。

そんな恋愛面でも成長を見せている三玖ではあるけれど、その結果はどうだったのか?先に物語の展開を書いておくと、残念ながら彼女は選ばれない。当然ショックなはずなんだけど、むしろ、その悔しさをしっかり受け止められている強さが良い。ここからはフータローとの恋愛を通じての彼女の成長を見ていきたい。文化祭でのクラスメイトの気持ちを動かしたように、その気持ちの強さはフータローも動かしていく。

文化祭の準備期間に、三玖は文化祭が始まる前に彼に伝えておきたい事があるので、水族館に誘い出す。水族館で彼女が伝えたのは進路の話だ。家庭教師をしてくれていたフータローには申し訳ないが、料理の勉強をしたいから大学はなく、専門学校に行きたいと話す。そして、

もう自分の夢に進みたくて仕方ない それを伝えたかった フータローは私にとって特別な人だから(中略)もちろん変な意味で

(注5)

私は伝えたよ じゃあ 次 フータローの番ね

(注6)

とフータローの気持ちを確かめたり、ちょっと誘惑したりするような言葉をかける。特に、2つ目の台詞は、他にも色んなきっかけはあっただろうけれど、

このタイミングで三玖がなぜあんな話をしたのか 決して進路だけの話ではないはずだ 次は俺の番 俺の伝えなければいけないことは…

(注7)

というフータローの言葉と、文化祭で五つ子の誰かに想いを告げると決意した展開を思うと、三玖の言葉が彼の気持ちを動かしたのは1つのきっかけになったのは間違いない。そして、作品全体を振り返った時に、この言葉が物語を動かした大きな要因の1つだとも言えるだろう。そういった理由もあって、映画の予告編でもこの台詞がピックアップされているのだと思う。

少し話は逸れるが、引用した2つの台詞には他の五つ子らしさを感じられるのも良い。ちょっと上から目線とも取れる台詞には一花を感じさせるし、積極的にぶつかっていく部分には二乃らしさも感じさせる。フータローへの恋心を巡って、五つ子同士が影響し合っている事のも十分に想像できるという意味でもお気に入りの台詞だ。

話を戻すと、先ほども書いたように、フータローは四葉を選ぶ。だが、そんな四葉は五つ子と変わらない関係性でいたいものの、フータローへの気持ちも抑えきれない葛藤で苦しんでいたり、そんな彼の気持ちを素直に受け止めきれない四葉の態度に対して、二乃は複雑な気持ちを持っていたりと、五つ子の関係性はギクシャクしてしまう。自分の気持ちに迷う四葉を三玖はカラオケに誘い、自分の本音を吐露する。

どうしても感情が荒だってしまう それだけ本気だった もし四葉がそうだったなら 私たちのこの感情も受け止めて欲しい

(注8)

二乃が言ってた 恋愛で私たちは敵でも仲間でもないって(中略)せめてもの抵抗 絶対に背中を押してなんてあげない

(注9)

選ばれなかった悔しさを滲ませながら、それでも四葉の背中を押さないという言葉で励ます。失恋してからまだ間もないのにこういう言葉を伝えられる所に三玖の強さは十分に感じられるだろう。それでも、もっと注目したいシーンがある。四葉とのオールカラオケを終えて、帰宅途中で三玖はある事に気が付く。

私は四葉になれなかったけれど 四葉だって私になれない ようやくそう思えるほどに… 私は私を好きになれたんだ

(注10)

確かに願っていた気持ちは報われなかった。それでも、誰かを好きになっていく中で自分自身を好きになる事ができた。好きな人に選ばれなかったショックを乗り越えて、そんな自分をしっかり肯定できる三玖の強さは本当に凄い。何度このシーンを観ても、しっかり自分を受け止め切れるこの三玖の自己肯定にグッと来るのだ。

冒頭でも書いたように、『五等分の花嫁』では、五つ子&フータローそれぞれが色んな出来事を乗り越えて、成長していく。それでも、こうして映画を振り返った時に、その成長が一番顕著なのはやっぱり三玖なのだ。文化祭、そして恋愛を通じて、まず自分が変わり、その気持ちが人を動かしていく。そして、その度に自分をちゃんと肯定できる強さも身に付けていく。だからこそ、僕は三玖というキャラクターが好きだし、推したいという気持ちを超えて純粋に憧れてしまう。やっぱり三玖が一番だ。

▼注釈
注1 春場ねぎ 『五等分の花嫁』フルカラー版 13巻  2021年 講談社 p 19
注2 同上 p34〜35
注3 同上 p37〜38
注4 同上 p41〜42
注5 春場ねぎ 『五等分の花嫁』フルカラー版 12巻  2021年 講談社 p56〜57
注6 同上 p57
注7 同上 p58
注8 春場ねぎ 『五等分の花嫁』フルカラー版 14巻  2021年 講談社 p56
注9 同上 p57〜58
注10 同上 p65〜66

▼参考資料
春場ねぎ 『五等分の花嫁』フルカラー版 2021年 講談社
神保昌登監督 映画 五等分の花嫁 松岡禎丞 花澤香菜 竹達彩奈 伊藤美来 佐倉綾音 水瀬いのり出演 2022年 ポニーキャニオン

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