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日本の監査人がアングロサクソン文化の下に生まれた監査に適応するために【監査ガチ勢向け】

監査という仕事はアングロサクソン育ち。道理で日本の会計士は苦労するわけですね。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

先日、若手会計士の監査離れが日経の記事になっていました。そこで紹介されていた監査への不満について、私の意見をツイートしました。

監査はイギリスとアメリカで発展してきました。今もBig 4を仕切るのはアメリカ人とイギリス人が多く、監査基準の設定や会計事務所の監督もアメリカとイギリスがリードしています。
監査は、いわばアングロサクソン文化の下で生まれ、今も育てられています。それが最も色濃く出ているのが、文書化の要求だと思います。

今回の記事では、日本から見た異文化で育ってきたことが、監査にどのように影響しているのか、文書化を中心に見ていきたいと思います。
なお、以下では、私の経験や知識を踏まえて、監査ガチ勢の皆さんが監査をよりよく理解するためのヒントとして書いていますので、学術的に正確でない部分があれば申し訳ありません。


日本とアングロサクソン、根本的な文化の違い

監査について議論する前に、アメリカ人の発想が根本的に違うところを二つ挙げます。
なお、私はイギリスには住んだことがないのですが、出張やリモートでイギリス人と接してみて、アメリカ人と共通するところが多いと考えています。

ローコンテクスト社会

文化の違いは、コミュニケーションのスタイルにも影響します。
ローコンテクストとは、話し手と聞き手との間の暗黙の了解が少なく、あいまいさを排除して必要な背景知識や詳細をすべて伝えようとするスタイルです。
ハイコンテクストはこの逆で、暗黙の了解が多く、分かっているはずのことを事細かに説明しないスタイルです。

世界の文化の中でも、アメリカはかなり極端なローコンテクスト社会、日本はかなり極端なハイコンテクスト社会と言われます。

理屈で勝つ者が強い社会

日本人の間で議論していると、どこかに真実があって、その真実を探し当てようとしているように感じます。理屈が通っていても真実でなければ「屁理屈」で、理屈をうまく説明できなくても真実が正しい、と考えます。
一方、アメリカ人は、理屈を戦わせて勝った方を正しいものとみなそう、という前提で議論しているようです。誰にとっても該当する絶対的な真実などあるかどうか分からない、ということが前提になっています。


この二つのことは過去にnoteに書いていますので、詳しくはそちらをご覧ください。


アングロサクソン人が求める文書化とは?

今や監査はアメリカやアングロサクソンのものではなく、世界のもの。
日本の野球がアメリカのベースボールに勝ったように、日本流でいいじゃないか。
私もそう思いたいのですが、ちょっと分が悪いところがあります。それは、いずれの文化からも離れて客観的に見たときに、どちらが理解しやすいか、という点です。

ローコンテクストの方は、とにかく言葉にはなっています。異なる文化の人がそれを読めば、冗長に感じても理解はできるはず。
ハイコンテクストのコミュニケーションでは言葉になっていない部分や言葉通りでない部分が多すぎて、ほかの文化の人には理解できません。
理不尽に思いながらも、ハイコンテクストに歩み寄らざるをえないのが実情です。

それでは、ローコンテクストなアングロサクソン人にも分かる調書を作成するには、どうすればよいのでしょうか?

❶ 言葉で説明する

まさに"No paper, no work"。書いていないものはないのと同じ。
くどいと思っても書き言葉で説明する必要があります。

❷ 理論に矛盾や飛躍があってはいけない

「理屈が通っているか」が重要なので、理屈が通っていないとアウトになります。
調書をレビューしていると気づくのが、同じ調書の中に矛盾したことが書いてあったり、なぜAならBになるかの説明がなかったり。
行間を補って読んでくれることは期待せず、最初から書いておきましょう。

❸ 反論に耐えられないといけない

調書上は理屈が通っていても、調書に書いていないことでノックアウトされてしまってはいけません。
「ここには書いていないが、当期に一度円安になってから円高に振れたことを考慮するとどうなるのか」
「ここには引用されていないが、この会計基準のこの部分を適用するべきではないのか」
といったことです。

❹ 全体感からもやっと結論を出してはいけない

「上記を総合的に勘案して」と言いたいときには要注意。
「上記」のどの部分がどのように効いて結論に至ったのか、ていねいに説明を組み立てる必要があります。

❺ 部分点を寄せ集めて合格点、という発想はない?

正確性・網羅性を十分に検証できていない企業作成情報、外部証拠の入手に時間がかかるためとりあえずの内部証拠、ネットに転がっていた信憑性の分からないデータ、裏付けがない会社の説明。
寄せ集めでぎりぎり合格点を狙ったつもりが、「どれも監査証拠にならない」とまさかの0点、ということがありえます。


おわりに

「アングロサクソンへの服従のすすめ」のようになってしまいましたが、しっかり文書化することは、監査品質の向上にも役立ちます。
会社の方から説明を受けて、資料も見て、大丈夫そうだなと思っても、調書を書いていると矛盾点や不足する点に気づくことが結構あります。

とは言え、純和風のクライアント相手にけなげにがんばっている監査人。もう少しほめてもらいたいところですね。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはTwitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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