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日本の国際収支統計から見える為替需給とドル円相場の行方

日本の8月国際収支統計が発表され、7ヵ月連続経常収支黒字が維持されたが、市場の予想以上に、貿易赤字が拡大したことで、経常収支黒字は前月比減少の2兆2千億円にとどまった。国際収支統計から、ドル円相場の今後を探った。


1.日本の経常収支動向

図表1の通り、日本の経常黒字は、第一次所得収支の大幅黒字が続いていることで2月以降、安定的に黒字を維持しているが、図表2の通り、足元の原油価格の上昇により、来月も大幅な貿易赤字が続くことが予想される。

(図表1 日本の経常収支推移チャート 財務省ホームページからの引用)
(図表2 WTI原油価格推移チャート 右軸:単位 ドル Trading Viewからの引用)

2.日本の直接投資動向

日本の金融収支の中で、為替需給において大きな影響を与える直接投資動向を見ると、8月は、前月と同様3兆円を超える資産増を記録しており、日本企業による積極的な対外直接投資が続いていることが判明した。
図表3の通り、日本からの対外直接投資は、過去数年高水準に推移しており、今年も過去最高の30兆円に迫る可能性もある。日本の経常黒字が毎年20兆円程度で推移していることと比較すると、日本への資本還流より、日本からの資本流出の方が大きい状況が発生していることになる。
足元の円安傾向にもかかわらず、日本の対外直接投資が持続的に拡大していることは、日本の少子高齢化による国内市場の縮小により、日本企業が海外市場に活路を見出している証左であり、この動きは構造的な資本流出である蓋然性が高い。

(図表3 日本の対外直接投資推移チャート 左軸:単位 億円 株式会社ファイナンシャルスターからの引用)

3.今後の為替市場動向

今後、米国の景気後退により、来年以降、米国が利下げ局面に移行すると、日米金利差縮小観測から、円買い圧力が高まり、現行の円安トレンドが反転することもあり得る。しかし来年以降、新NISA開始により、日本国内に過剰に滞留している円預金が海外株式市場などへ流出していくと直接投資と合わせて、金融収支の赤字が、経常収支の黒字を大幅に上回ることも考えられ、かつてのような急激な円高圧力は緩和され、ドルが対ユーロなど他通貨で下落トレンドに入っても、対円での下落幅は限定的となる公算が大きい。図表4の通り、ドル円相場は、かつての構造的な円高トレンドから円安トレンドに転換していく可能性には留意していきたい。

(図表4 ドル円長期チャート 単位:右軸 円 Trading Viewからの引用)

前回の為替需給に関する記事はこちら

20231011執筆 チーフストラテジスト 林 哲久 


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