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スイス国立銀行の外貨準備高操作がドル相場に思わぬ影響を及ぼす!

スイス国立銀行(以下、スイス中銀)が、積み上がった外貨準備高の残高を落とすために、断続的にユーロ売りスイスフラン買いのオペレーションを実行している様に思われる。これが世界の為替市場に思わぬ影響を与える可能性があり、今後の為替市場動向を占った。


1.スイス中銀による為替介入の実態

スイスフランは、安定した経常収支黒字を背景に、対ユーロで歴史的に堅調推移を続けてきた。特に、図表1の通り、リーマンショックなどの世界的な金融危機発生時には、逃避通貨としてスイスフランが選好される度合いが顕著になる動きが見てとれる。直近でも、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻による地政学リスクの高まりを背景に安全資産としてのスイスフランの位置付けは変わらず、足元でもスイスフラン高トレンドが持続している状況がみてとれる。
しかし、その一方で、行き過ぎたスイスフラン高は、スイス経済の輸出競争力を削ぐため、スイス中銀は断続的にユーロ買いスイスフラン売りの介入を繰り返してきた。その結果、図表2の通り、スイス中銀の外貨準備高は、一時9,000億スイスフランを超える水準まで膨らむことになった。

(図表1ユーロスイスフラン推移チャート右軸:単位 スイスフラン Trading Viewからの引用)
(図表2 スイス中銀外貨準備高推移チャート右軸:単位百万スイスフラン Trading Economicsからの引用)

2.スイス中銀の外貨準備高の評価損益の実態

ユーロ資産の積み上がりは、ユーロ安スイスフラン高によりスイス中銀は、外貨準備高で巨額な含み損を抱えることになり、図表3の通り、2022年度は、過去最高の1,000億スイスフランを超える評価損を計上した。スイス中銀は、こうした評価損の発生を抑えるために、2022年から断続的にユーロ売りスイスフラン買いのオペレーションを開始している。スイス中銀の公式見解としては、コロナ禍で上昇したインフレ率を抑制するために、スイスフラン高誘導の為替介入を実施していると発表しているが、実態は、外貨準備高の圧縮である。そのため、スイスのCPIが2%を下回った今でも、外貨準備高が依然6,000億スイスフラン以上あるため、スイスフラン買いの為替介入を継続せざるをえない状況にある。

(図表3 スイス中銀年間評価損益推移チャート Swissinfoからの引用)

3.スイス中銀の介入操作が世界の為替市場に与える影響

スイス中銀は、外貨準備高の残高を落とすために、外為市場でユーロが反発する局面をとらえ、ユーロ売りスイスフラン買い操作を行っているものと推定できる。図表4の通り、10/24の海外市場において、前日にユーロが対スイスフランで上昇した後、ユーロが対スイスフランで急落しているのは、こうした為替介入が入った蓋然性が高い。
その結果、ユーロは、対ドル、対円でも大きく下落することになった。米国長期金利がピークアウトし、下落局面に入り、通常では、ユーロが上昇する局面において、ユーロが下落したことは為替市場に少なからず長期的な影響を与えるものと思われる。即ち、今後、米国経済が後退局面を迎え、ドルが対ユーロ中心に下落局面に入るはずが、スイス中銀による為替介入で、ユーロが上昇しない傾向が継続することになる。現在、世界の為替市場取引において、ドル対ユーロ取引が占めるシェアが一番大きいため、ユーロが下落すると、当然、ドル円相場に上昇圧力に働くことになる。

(図表4 ユーロスイスフラン短期チャート 右軸:単位 スイスフランTrading Viewからの引用)

4.日銀の金融政策正常化後のドル円相場の行方

今後、日銀が現行の大規模金融緩和政策を修正し、YCCの撤廃や、マイナス金利解除に向かう過程では、日米金利差縮小の思惑から、円高圧力が働くはずであるが、スイス中銀の為替介入により、ドル全般に上昇圧力が加わると、ドル円の下落速度は抑制されることになる。日本の国際収支の構造転換に加え、対ユーロでのドル買い圧力が加わると、益々、ドル円相場は底堅さを増すことが予想される。

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20231026執筆 チーフストラテジスト 林 哲久



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