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自国通貨安に悩むグローバルサウスの雄、インド経済の行方!

今年世界一の人口大国に躍り出たと思われるインドだが、国内の旺盛な内需に引っ張られ恒常的な経常赤字に見舞われた結果、インドルピーの下落が止まらない状況にある。今後の対応とインドルピーの行方を占った。


1.インド経済の現状と課題

インドのGDP成長率は、コロナ禍の2020年こそマイナス成長に陥ったが、その後は、素早い回復軌道に乗り、今年も6%台の高成長が見込まれている。高成長を牽引するのは、GDPの6割を占める個人消費で、強い内需が成長のドライバーになっている。しかし、14億人の人口を抱えるインドにとって、国内の雇用を確保することは容易ではなく、図表1の通り、慢性的な経常赤字に歯止めをかけるには、国内での製造業育成が雇用の拡大と輸出振興の観点から必須な状況にある。そのためインド政府は、海外からの直接投資誘致のため、欧米各国に積極的な働きかけを行っている。

(図表1 インド経常収支推移チャート 単位:右軸 百万ドル Trading Economicsからの引用)

2.チャイナプラスワンとしてのインドの取り組み

今まで世界経済成長を牽引してきた中国経済に陰りが見られ、また、米中対立の深刻化から世界企業の中国離れが指摘されている状況も、グローバルサウスの雄、インドにとって追い風となっている。こうした経済安全保障の観点から、チャイナプラスワンとして、世界最大の民主国家であるインドへの期待がかつてないほど高まっている。インドは、欧米によるグローバルサプライチェーン再構築の受け皿とされつつあり、アップルによるインドからのiPhone輸出が、昨年、前年比2倍の25億ドルに達するなど、ITソフトウエア関連の海外からインドへの投資が着実に増加している。今後も、テスラが生産拠点の設立を検討するなど、継続的な投資が期待されている。

3.モディ政権の取り組みと為替市場動向

国内の旺盛な内需に支えられ高成長を続けるインド経済だが、強い内需が経常収支を悪化させ、インドルピーの下落が止まらないことで、インフレ率が高止まる悪循環に陥っている。
現在のモディ政権は、「メーク・イン・インディア政策」を掲げ、GDPに占める製造業の割合を25%まで高める政策を打ち出しているが、直近でも17%程度と目標には距離がある状況にある。海外からの製造業誘致により、国内からの輸出振興を高めることで、経常収支を改善させ、史上最安値を更新するインドルピーの下落に歯止めをかけることが、インド経済の最大の課題となっている。

4.インドルピー下落の抑制策と今後の行方

現在、インドルピーは図表2の通り、今年に入り、対ドルで83ルピー前後の水準で、小康状態を続け、2021年以降のルピー安に一定の歯止めがかかっている。その理由は、インド中銀によるルピー買い介入によるものと思われる。そのため、図表3の通り、インドの外貨準備高が、今年に入り一時6,000億ドルを上回っていたのが、ここに来て減少に転じている。
また、インド中銀は、ルピー買い介入に、外為市場でドルキャッシュを利用して売却すると即日外貨準備高が減少することになることから、外貨準備高の減少を極力抑え、また、減少のスピードを遅らせる手段として、NDF(ノンデリバラブル・フォワード)取引を利用している模様だ。
NDFを利用すると、決済は期日に為替差損益を受払いするだけのため、元本の数パーセントのドル価※ですみ、かつ、先物取引のため、外貨準備高の減少を先延ばしにできるメリットがある。こうした取引により、インド中銀は、外貨準備高の減少を極力抑えることに成功している。
しかし、こうした対処療法では、長期的にインドルピーの下落を止めることは難しく、国内製造業の育成による輸出競争力の拡大が何よりも望まれる。

(※通常のドルインドルピーの直物取引では、為替差損益はインドルピー建となるが、NDFでは、インドルピー相当のドル価で決済を行う。)

(図表2 ドルインドルピー推移チャート 右軸:単位 ルピー Trading Viewからの引用)
(図表3 インドの外貨準備高推移チャート 右軸:単位 百万ドル Trading Economicsからの引用)

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20231013執筆 チーフストラテジスト 林 哲久


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