見出し画像

トルコリラの反転はあり得るのか?

注目の6月22日のトルコ中央銀行による金融政策決定会合では、2年3か月ぶりの利上げに転換し、政策金利を15%に引き上げたが、市場の期待値が20%以上であったため、失望のリラ売りが出回り、一気に市場最安値の1ドル=25リラ台まで急落している。果たして、トルコリラが反転できるのか、考察する。

1.トルコ経済を取り巻く現状と課題

エルドアン政権は、図表1の政策金利推移チャートの通り、2021年以降、「利下げがインフレ率を抑制させる」との合理的ではない金融政策を採ったことで、リラ安が続き、昨年のインフレ率が80%に達するなど、経済状況は、急速に悪化している。また、リラ安が経常収支を急速に悪化させており、リラ安防止のために、リラ買い介入を継続したことで、外貨準備高の減少に歯止めがかかっていない。
先月、再選を果たしたエルドアン大統領は、今月に入り、エルカン新中銀総裁を任命し、経済破綻回避のために、政策転換が行われるか注目されたが、
事前の期待通り、6月22日利上げ政策への転換を発表、今後の金融引き締めプロセスの開始を宣言した。
しかし、本来であれば、足元のインフレ率が40%近くまで高騰している以上、より積極的な利上げが必要と判断する市場との温度差が露呈し、今回のリラ急落となった。
また、エルドアン大統領が、どこまで金融引き締めに賛同しているのかについては、明確でなく、過去、意に沿わない中銀総裁を解任してきた経緯を考慮すると、いつまで金融引き締めを継続できるか不透明な部分も多い。

図表1 (トルコ政策金利推移チャート CEICからの引用)

2.トルコリラの歴史と今後の展望

トルコのインフレ率の歴史を振り返ると、図表2の通り、今世紀に入ってから20年弱の間は、10%を下回る比較的低インフレの時代であったが、その前の30年を振り返ると、年率100%を超える高インフレの時代もあり、昨年来のインフレ率急騰も、過去に戻っただけで、異常値とは言えないのかもしれない。
その一方で、図表3の経常収支状況を見ると、今年の経常赤字額は、2011年の750億ドルを大幅に上回り、1,000億ドルを超える可能性がある。
また、外貨準備高も、図表4の通り、この10年で半減しており、このペースでのリラ安加速局面でのリラ買い介入の余力が乏しくなっていることは間違いない。
むしろ、今月に入ってからの急激なリラ安進行は、リラ買い介入を放棄した結果ともいえる。
更に図表5の通り、トルコの為替相場は、過去一貫して下落を続けており、エルドアン政権になってからの不合理な金融政策によるものとだけ結論付けられるものではない。
構造的な高インフレ体質により、常にリラ売り圧力がかかり続けている中での濃淡に過ぎないともいえる。
今後、地中海に新たに油田が発見され、トルコがエネルギー輸出国になり、経常収支が黒字化するなど、貿易構造の大きな転換がない限り、趨勢的なリラ安を留めることは難しいともいえる。
次回金融政策決定会合は、9月に予定されており、市場では年末までに30%までの利上げを予想しているが、順調に金融引き締めが持続できるのか、注目したい。
また、持続したとしても、金融引き締めのスピードが、遅いがために、インフレ抑制の効果が出るのに時間がかかる中、景気後退が先に来てしまうリスクにも注意が必要だ。現在の困難な経済状況下、インフレを早期に収束させ、経済をソフトランディングさせていく道筋は、かなりなナローパスであり、その先にリラ反転が見えてくるとすると、安易に買い場が近いと判断するのは早計であり、反転の可能性は容易ではない状況が続こう。
しかし、このような相場変動が激しい国でありながら、資本規制がなく、海外からのアクセスが可能な通貨は世界に珍しく、これからもハイリスクハイリターンの世界で最もボラタイルな通貨の一つとしての魅力は消えないと思われる。

図表2(トルコインフレ率長期チャート Trading Economicsからの引用)
図表3(トルコ経常収支推移チャート CEICからの引用)
図表4 (トルコの外貨準備高推移チャート Trading Economicsからの引用)
図表5 (ドルトルコリラ長期チャート  XE currencyチャートからの引用)

過去の記事はこちら

20230627執筆 為替アナリスト 林 哲久






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?