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為替介入の真実―円買い介入は電撃戦!

10/3の海外時間帯において、ドル円相場が一時150円台から147円台に急落する局面があり、為替介入が実施されたのではないかとの観測が広がっている。為替介入の舞台裏と今後の展開を探ってみた。


1.2種類の為替介入

為替介入は、日銀が直接の取引相手となって、為替市場に参入する場合と、銀行に為替介入を委託する、いわゆる覆面介入の2種類がある。前者は、日銀が直接の取引相手となるので、日銀が為替介入を実施したことが瞬時に為替市場に伝わることで、為替市場への影響を大きくするアナウンスメント効果がある。その一方で、為替決済事務などの後続処理を日銀自らが行う必要がある。後者の覆面介入は、銀行に介入実務を委託することで、実際に介入が行われても、すぐにはわからず、財務省が認めて初めて為替介入と認識される。一方、外為取引に精通した銀行に為替介入を委託することで、介入効果を最大限に発揮させることも可能になり、決済事務を銀行に委託できるメリットもある。

2.円売り介入と円買い介入の違い

為替介入には、円売り介入と円買い介入の2種類がある。歴史的には、日本は、大幅な経常黒字国として円高デフレに苦しんできた時間が長く、円高を抑止するために、円売り介入を断続的に実施してきた経緯があり、その結果、1兆3千億ドル近い外貨準備を積み上げている。しかし、1998年の円安局面など、行き過ぎた円安を阻止するために、稀に円買い介入を実施することがある。しかし、円売り介入であれば、円国債を発行すれば、ある意味無制限にドル買い介入を実施出来るのに対し、円買い介入は外貨準備高の制約から、限られた期間、限られた金額で最大限の効果を上げる必要がある。図表1の通り、10/3の動きが、為替介入とすれば、150円という節目を超えて市場が加熱した段階で、いっきに電撃介入を実施した可能性がある。

(図表1 ドル円短期チャート 右軸:単位 円 Trading Viewからの引用)

3.為替介入の効果と今後の展開

昨年の円買い介入が功を奏し、行き過ぎた円安に歯止めをかけられた要因として、米国の消費者物価指数の上昇がピークアウトし、米国長期金利が低下傾向に入るというマクロ経済状況の変化を伴ったことが大きい。一方、現在はどうかというと、米国の長期金利の上昇が止まらず、年末に向け、米国の追加利上げが想定される状況下では、日米の金利差拡大というファンダメンタルズに変化がない以上、昨年のようなトレンド転換に繋げられるかは不透明感が残る。
但し、行き過ぎたドル高が、新興国市場の金融不安を惹起し、世界の株式市場が同時に下落するような事態に陥れば、リスクオフの円買いに繋がる可能性もあり、今後の世界の金融市場の動向には注目していきたい。

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20231005執筆 チーフストラテジスト 林 哲久


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