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米国地銀破綻は、また起こるのか?

ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(以下、NYCB)の株価が急落している。2023年3月のシリコンバレー・バンク(以下、SVB)の破綻を連想する向きも多いと思うが、今後の金融市場への影響を探った。


1.NYCB株価急落の背景

2023年に起きた地銀危機の勝ち組と目されていたNYCBは、同年10-12月(第4四半期)決算が予想外の赤字となり、配当を引き下げた。商業用不動産ローンに対する貸倒引当金積み増しが主因である。NYCBの貸倒引当金は5億5200万ドル(約810億円)に急増し、市場に衝撃を与えた。昨年破綻したシグネチャー・バンクの部分買収による規模拡大に伴い、当局の規制が強化されたことが影響した。

2.金融市場の反応

1/31のニューヨーク株式市場で、図表1の通り、NYCBは一時46%下落。終値は38%安だった。他の地銀株も下落。KBW地方銀行株指数(以下、KBW)は6%下げ、SVBに取り付け騒動が起きて以来の大幅な下落となった。
米国2年債利回りが直後に15bp(0.15%)低下。10年債利回りも一時8bp(0.08%)以上の低下となった。
その後もNYCBの株価下落は止まらず、2/6に22%下落し、1997年の以来の安値で取引を終えた。これで1/31の決算発表以降の下落率は約60%に達し、時価総額は約45億ドル(約6660億円)失われた
KBWは同日1.4%安となり、年初来の下落率は約12%に達した。バレー・ナショナル・バンク(VLY)は8%安と、米地銀の同指数構成銘柄でNYCBに次ぐ2番目の下落率となった。

(図表1 NYCB株価推移チャート 右軸:単位 ドル Trading Viewからの引用)

3.SVB破綻時との類似点・相違点

SVB、NYCBとも信用不安から株価急落となった点は類似点であり、SVBはその後破綻に至り、地銀2行も相次いで連鎖破綻。いずれも長期金利の上昇で保有国債の価格が下がったことが背景にあった。特にSVBは、特定のスタートアップ企業による預金の大口引き出しにより、流動性危機に陥り、一層の国債売却を迫られたことで、追加損失が発生したことが大きかった。
NYCBの場合、今のところ、流動性危機は伝えられていないが、同行株の下落は止まらず、格付け会社フィッチ、ムーディーズによる格付け引き下げが実施されたこともあり、KBWが続落する悪循環に陥っている。商業用不動産市場の低迷は、コロナ禍以降リモートワークが定着したこともあり、米国では深刻な問題となっており、他の地銀株にも連鎖売りが発生している。

4.SVB破綻後の金融市場の反応から、想定される市場シナリオ

SVB破綻は、米国の1、2月雇用統計が大幅上振れとなったことを受け、米国経済に対する楽観的見方が強まり、図表2の通り、米長期金利が上昇トレンドにあったタイミングでの突然の出来事であった。そのため、長期金利急低下(4.0%→3.3%)、ニューヨークダウ急落(33,500ドル→31,400ドル)、ドル円急落(138円→129円)となった。
今回も年初来、好調な米国経済指標の発表を受け、米長期金利が反騰局面にあったタイミングでの赤字決算発表であったため、もし経営状況の更なる悪化や他の地銀への伝播が発生すれば昨年同様、金融市場では、長期金利低下・ニューヨークダウ下落・ドル円下落の反応を呼ぶことはあり得よう。
特にドル円相場に関しては、図表3の通り、昨年末の140円台から148円台まで上昇して来たタイミングでの赤字決算発表となっており、ドル安円高進行リスクには留意したい。

(図表2 米国10年国債金利推移チャート 右軸:単位 % Trading Viewから筆者作成)
(図表3 ドル円推移チャート 単位:右軸 円 Trading Viewからの引用)

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20240208執筆 チーフストラテジスト 林 哲久


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