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Ⅰ-#3 知識経営の考え方

SECIプロセスとは

 前回は学校の「カリキュラムとはサビるものだ」という話をしました。カタチだけ同じことをやっても教員や児童生徒に取っての意味は変化せざるを得ないからです。

知識経営(広義のナレッジマネジメント)とは「知識の創造、浸透(共有・移転)活用のプロセスデザインから生み出される価値を最大限に発揮させるための、プロセスのデザイン、資産の整備、環境の整備、それらを導くビジョンとリーダーシップ」(野中郁次郎、紺野登 知識経営のすすめ-ナレッジマネジメントとその時代 ちくま新書 1999 p.53)と定義されます。

国内外を問わず、企業をはじめ、研究施設や公官庁など、新しい発想やイノベーション必要とする組織開発のモデルとして広く活用されています。

知識経営の考え方は、組織における知識創造について、暗黙知と形式知の相互作用、個人と集団の相互作用を前提としたつぎのようなSECIプロセスを基本にモデル化されています。

SECIプロセスはSocializaiton(共同化)、Externalization(表出化)、Combination(連結化)、Internalization(内面化)の頭文字をとったものです。詳しくは上記の著作などをぜひお読みください。
(要点は下記のサイトなどでも説明されています)

ここでは、その要点を著者なりにあなたの営むラーメン店のたとえ話で説明してみましょう。

例えば、あなたの店の近所に人気のラーメン屋ができ、あなたの店の売り上げが深刻に落ちてきているとします。このままでは潰れると危機感を募らせたあなたはしばらく店を閉めて、店のスタッフとともに競合店にラーメンを偵察に行きます。

まず何もいわずに皆で競合店のラーメンを食べます。皆で黙々とラーメンを食べながら共通の体験をするのです。このように五感をつかって現状を把握するのがSocializaiton(共同化)です。

次に競合店から帰ってきて、皆で感想を出し合いますExternalization(表出化)。これがある人は自分の店の味は古くなっていると感じ、ある人は接客が丁寧であると感じるかも知れません。またある人は競合店の店のレイアウトが目にとまるかも知れませんし、セットメニューやポイントなど売り方に人気店のひみつがあると考えるかも知れません。

そして、自分の店のリニューアル案を考えます。このときには皆が感じた様々な感想を相互に関連つげて、リニューアルオープンに向けて店のスタイルを作り上げます。客層を想定してコンセプトを作り、味・食器・メニューのネーミング・内装をどうデザインしていったらいいのか、その組み合わせを考えます。これがCombination(連結化)です。

新しいメニューや店舗の内外装が決まったら、いよいよリニューアルオープンに向け、そして本当にこのかたちでお客さんは喜んでくれるのか、心の中で自問自答を繰り返します。これがInternalization(内面化)です。

こうしたプロセスを繰り返すことによって、「組織の知」を更新していく仕組みが知識経営です。こう説明すると組織を当たり前のことのように見えるかもしれませんが、学校でも企業でも案外これができません。

組織の長がこれまでのやり方に固執して新しいやり方を受け入れられなかったり、組織のメンバーの誰かがこのままではまずいと感じていても上司の手前言い出しづらかったり、様々な改善意見をビジョンなく取り入れてコンセプトのわからない改革になってしまったり。

小洒落た喫茶店風の内装に、がっつりタイプの家系ラーメンを組み合わせても来客は見込めないでしょう。

学校カリキュラムについてもこれと同じことが言えます。まず組織や活動の現状について共通の経験を増やし共に感じることや豊かにしていく(共同化)、そしてお互いに感じていることを様々な場面で表現して他者の経験と交流させ(表出化)、そこから具体的改善等の新しいかたちを生み出し(結合化)、それを個々の教師が自分の中で租借し意味づけていく(内面化)そしてこれをもとに新たな共同化へとつなげていくというものです。

知識経営のポイント

筆者の経験によれば、このSECIプロセスの枠組みは、その杓子定規に共同化、表出化、結合化、内面化の一つ一つを組織プロセスに位置付けなければ効果が上がらいなという種類のものではありません。
①一人一人が経験の中でなんとなく感じていること

②組織でカタチを与えられ(言語化され)て共有化されていること
の往還関係を作っていくことです。

ところが現在の学校組織の中でこれを実現していくのは容易ではありません。現在の学校では、それぞれの教員が同じ教育活動を経験すること自体が少なく、またそれぞれの教員の実践にはお互いに口を出しにくいので、結果として前年度踏襲が常態化しているからです。

そこで研修等を活用して、比較的簡単に地域経営のモチーフを学校の回きゅらむ改善にいかせるように工夫してみたのが次回紹介するカリキュラム分析シートです。

次回はこのシートについて解説します。