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気仙沼の旅館「大鍋屋」は、『おかえりモネ』が始まる前から〝聖地〟だった

そもそも、「気嵐」を見ることしか頭になかった私は、どこに宿泊するか全く調べもしていなかった。「大鍋屋」さんにお世話になったきっかけも、気嵐の写真を撮られている大井賢一さんに声をかけて頂いたからだった。

毎日、朝焼けの中で「ラジオ体操」をするのが、気仙沼の日課になっていた。ラジオ体操が終わって、今後のことを聞かれたので「気仙沼が気に入ったので、気が済むまでいます」と答えた。「どこで泊まってるの?」に、「明日は、大島の民宿で泊まるけれど、明後日以降は決めていない」と答えたら、「じゃぁ、あそこの旅館にしたらいい。大女将が、ラジオ体操のメンバーだから、そこにいる。話してくる」と言ってくれた。

大女将さんは「今は若女将が受け付けているから、話しといてあげる」と言ってくれたので、そこに泊まることになった。PIER7の前の、ラジオ体操をしているところから見えるところにある。片道20分弱歩かなくてもいいのが、ちょっと嬉しかった。旅館の名前は「大鍋屋」。しっかり覚えて、駅前ホテルに戻った。

大島での1泊の後、「大鍋屋」さんにチェックインしたのは、もう日が落ちてしばらく経った頃だった。入口の階段の脇には、見覚えのある候補者のポスターが貼ってあった。前防衛大臣だ。気仙沼が選挙区だったんだなと分かった。そうだ、明日は総選挙だった。でも地元で期日前投票はしてきたから大丈夫。すっかり選挙のことは忘れていた。

「大女将から聞いています」と若女将に言われて案内されたのは、2階の「凪」と言う名前のついた部屋だった。

話が横に外れてしまうが、私はNHK朝ドラに何度も出演している「辻凪子」という、女優であり、映画監督であり、ある種のパフォーマーでもある彼女を4年ほど前から推している。上のスクショは、『わろてんか』の時の、葵わかなさん、濱田岳さんとの共演シーン。部屋の名前が『凪』だったのは、ほんとに嬉しかった。

上から『べっぴんさん』『なつぞら』『まんぷく』『スカーレット』。

ところで「大鍋屋」という旅館は、小野寺五典議員の御実家だった。しかもこの時。選挙期間でここに戻られていた。

「凪」の間で、当選されたことをちゃんと見せて頂くことになった。これもまた、あんまり無いことだろうなと思った。

さてさて、話をテーマに戻すが、この「大鍋屋」という旅館、すでにここは〝聖地〟であったことを、不覚にも2階の廊下の突き当たりで知ることになる。

2014年1月に放送が始まったアニメ『Wake Up, Girls!』の7人のメンバーのひとり「菊間夏夜」が、気仙沼市出身の設定。声優は奥野香耶。

テレビアニメシリーズの第9話で、彼女の気仙沼のおばさんが女将をやってる旅館に、メンバー全員が合宿のためにやって来る場面があり、その旅館が「大鍋屋」だった。

震災後、数年しか経っていない気仙沼の内湾が、詳細に描かれていて、現在の景色と比べると、その変わりように驚く。

表通りに面して玄関があり、4枚の透明なガラス戸が見える。これが本館だ。左の方の新しく見える建物が新館。女の子たちがウォームアップしてる辺りに階段がある。本館と新館の床の高さには、1mを超える差があるように見える。

これが現在の「大鍋屋」。本館が建て替えられたようだ。窓の位置からも、床の高さを新館にあわせているのが分かる。

本館全体をかさ上げしたため、通りに面していた玄関は、方向を90度駐車場側に向けて作られた。表通りに出るには、階段、または駐車場の入り口を使うことになった。しかし、透明な4枚のガラス戸は、その意匠を残している。大きく変わったのは、むしろ周りの景色の方だ。

アニメで、以前の本館の玄関から外が見えるカットがこれ。建物が見えない。若女将さんが教えてくれたが、このアニメの舞台となった頃は、玄関から内湾が一望できたという。

船着場も、かさ上げされた様子は無く、海の中には、コンクリートの四角い柱が2本、剥き出しのまま立っているが、これは桟橋を係留するためのもの。

今はこんな感じ。まだここに、桟橋は造られてなかったようだ。

「大鍋屋」から、そう離れていないところでも、まだこんな感じだったんだ。胸が痛むが、それでも登場人物は「以前より、ずっと良くなったね」と微笑む。生きることへの前向きな感情を抱かせてくれる。

星空が美しいのは、今と全く同じ。気仙沼に来て、気仙沼をよく観て、感じて作られたアニメだなぁと、当時、観ていなかった私は、恥ずかしながらも、そう思った。

かつての「大鍋屋」からなら、あの時は無かったPIER7の全景も、ちゃんと見えるはずなんだけど、今はそうではない。

こんな感じ。こんなふうに家が立ち、かつてのように船着場を含め、内湾全体は見えない。若女将さんは、ちょっと残念そうに言ったが、こうやって街が生き生きしてくることの方を、嬉しく感じているように見えた。

ただ、『おかえりモネ』ファンには朗報もある。モネが毎朝、早起きして、天気予報などの放送の準備をする、FMラジオのスタジオだけは、通り越しに、はっきり見えるのだ。

私が泊まった「凪」の間や、朝夕の食事をする部屋の大きな窓からも、モネが勤めてるはずのFM局のスタジオだけは、いつでも見える。これからもずっと。『モネ』ファンには嬉しい。

実際、FMスタジオには24時間、明かりが灯ってる。朝日を受けて輝く。早朝の食事を頂きながらその光を見ていると、なんだかモネの姿が、その中にあるような気がして、PIER7が、とても愛おしく思えた。

あ、そうだ。ひとつ忘れていたけれど、早朝に「凪」の間の窓から、モネがスタジオにいることを妄想していると、「大鍋屋」さんの駐車場を、悠然とカモシカが歩いて行った。この辺でも、よく見かけるとのこと。運が良ければ会えるかも。

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