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扇田 昭彦『才能の森―現代演劇の創り手たち』(朝日選書、2005年)を読みました。

演劇評論家扇田昭彦さんはおそらく唐十郎はじめ60年代演劇や蜷川明夫さんあたりとのインタビュー集や評論が多い印象ですが本書ではそれ以外の演劇人中心の24名(ただ、唐十郎、蜷川明夫も入っています)の評伝になっています。扇田さんが幅広く演劇を取材し演劇人と深く交流してきたことがよく分かります。(プライベートエピソードが随所に書かれています。)これだけのインテリジェンスが戦後日本演劇にあったことは幸せなことだったのでしょう。ただ、ご自身安部公房の大ファンであったにも関わらず、演劇評論家としては安部公房の演劇を高く評価できず、安倍氏から遠ざけられたというのは、演劇/文学の評論家であり熱烈なファンである扇田さんにとっては痛切な痛みだったのでしょうが真摯な評論家であったことの少佐でもあると思います。個人的には東由多加さんのことを知れたのがよかったです。お名前を聞いたことはありましたがどういう人か知りませんでした。柳美里さんの作品は学生時代よく読んでいましたが東さんとの関係がわかるとより深く理解できますね。

本書より…

だが、この世界的作家と親交があったかといえば、むしろ逆である。私が何度か新聞に書いた劇評のせいで、私は安部公房に嫌われたのだ。それでもここで安倍氏について書くのは、私が今もこの作家が好きで、その演劇に関心があるためだ。
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学生のころから、私は安部公房氏の熱烈なファンだった。
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新聞社の演劇記者のつらいところは、演劇関係者の取材をすると同時に、劇評も書かなければならないことである。舞台を肯定的に評価する劇評を書ければいいが、評価しがたい舞台の場合は、故意に筆を曲げるわけにもいかないから、辛口の評になる。それが続くと、相手との関係は悪化する。すでの国際的な大作家で、ノーベル文学賞の候補にも上がっていた安倍氏は、文壇ではすでに批判されることがほとんどなくなっていた。にもかかわらず。演劇畑では私のような駆け出し記者の批判的劇評を受けることに、氏は明らかにいらだっていた。

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