生きつつ、現実性のフレームに関する問い

 私はよく反省が停止しなくなることがある。そのようなときというのは、最近は敢えて体を動かしコンビニか散歩にでも行くようにしている。そうすると切り替えができることが多い。私は当然そのような卑小な人生哲学について反省を巡らしているわけではなく、いつもかなり大きな問いか或いは問いにもならない思索を一生懸命誠実に巡らしている。そのような思索をしていた折、とりあえずコンビニに朝食を買いに出かけた。そうして歩き出して想到した。ある友達の顔が思い浮かび、どうせその友達にこのような思索を投げかけたところで、例えば凡庸な5歳児に位相幾何学を習得させるくらい難しいことだろうから、諦めをもって人には優しく接するのが一番だろうと思えた。これは決して優劣のことを言っているのではなく、人の考えていることが違いすぎるということに由来している。例えば哲学者に仲睦まじく愛し合う者がいたとして、その相手に対して情緒的交流ではなく哲学的思索を理解し合うようになってほしいなどと思うだろうか。これは、仕事での苦労感ではなく、仕事での苦労の内実まで全面的にわかってもらいたいというほど筋の悪いことである。そのような自己と引き比べて、相手を貶めてはならない。女性の家庭料理には女性の家庭料理の経験的奥深さがある。家庭を守ることに専念するということは、その者にとっての「どう生きるか」という問いへの、背中での、俎板に向かうあの背中でのアンサーなのだ。アンサーは意図的であるイワレはなく、人間は生まれてきたこととその後の人生を通してその基本態が「不本意」である。しかし不本意な逢着はやがてその人の生き方になる。付言しておきたいこととして、役割はたとえ果たせなくてもいいということである。たとえ重圧に耐えきれなかったとしても、そう生きている姿そのものが完璧なその人なのだから。訓育は常に個体のために為されるべきだという準則を設定しなければ、訓育は全体主義のディシプリンに堕落する。たとえ既存の社会秩序や共同体が解体しようともこのことが守られなければ、その暴力は端的に暴力である。私には長らくの夢がある。それは、他者危害の原則を超克することである。いっときの私のように自傷他害の恐れありであっても、私は徹底して全体性の暴力に抵抗したい。それとともに、私は善き生のためのパターナリズムは擁護したいのである。それは個体の苦にのみ関わり、個体の自由意志への信仰がないから。すなわち問題はこうである。「誰も何も知らないが、既に社会はこうである」。待ったなしの現実には、反省待ったなしの行動が要請されるのである。我々は生まれること待ったなしに存在した途端世界という海に投げ込まれているのである。

 解釈学的循環という考え方がある。部分を理解しなければ全体は理解できない。しかし、全体を理解していないと部分は理解できない、というものである。これは実際上は解釈学的螺旋である。世界解釈学において、現実性の形成は螺旋の形をとり進行する。そこで、待ったなしに思えるこの世界で蓋然的な信念しか許されていないように思えるこの局面で、いかにして進んでいくかが課題となるだろう。(ところで私は書きつつ日頃の考えや新たな考えを次々と繰り出して記述するスタイルをとっているのだが、今回はここに至りとても重要な議論になりそうである。)現実性のフレームはいつも人が考える際に決定的に重要な要素となっているようであるが、ここで問題は経験論と合理論における生得観念の議論に接続する。すなわち、存在開始時点の個体は、現実性のフレームを有しているのか?この問いは明らかに哲学の抱える最大の課題の一つである。そこから容易に思い做せるように、たとえ認知科学や心理学の知見をもってしてもどうも単純に答えられないようだ。この問いに単純に応答した哲学者は山ほどいたが、もっともらしい応答に留まっている。経験論を中心として合理論や観念論を巻き込んだのみならず、それ以前やそれ以後の哲学もこの問いに果敢に挑んでいるのだが、どうも答えが見つかっていない。一応私的なことを述べおこうと思う。私は失敗しつつ、時に溺れつつ進んでいく。進む方向さえわからず、泳ぎにも慣れていないが、進みつつ学ぶのである。さらに言えば、もしかするとこの問いは悪問かもしれないということも念頭に置いておく。幸せに生きることはピュアに生きることの方にあるのかもしれない。しかし私がピュアに生きることを苦手とするのは私自身がよく知っていることであり、向いていないと思うから、答えるために生きるのではなくむしろ問いにおいて生きることが私の徳なのかもしれない。今回は答えが出せなかったが、言ったように答えを出すためにではなく問いにおいて行為するのであるから、これは決して失敗ではないと思い、今回は問いを明確化したことを収穫として、一旦区切りとして文章を締めたい。

2023年7月26日

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