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車掌さんは何を見ている?

「ドア!ホーム!オーライ!!」
JR東海在来線の、車掌さんの歓呼の一つです。

ドアが完全に閉まりきったこと、ホーム上の危険な位置に旅客が立っていないことを確認しています。

ところで、ほかにはどんなことを確認してるのでしょうか。
ざっと、書き出してみたいと思います。

※趣味人による書き出しのため、誤りなどを見つけた際はコメント等でご指摘いただけますと幸いです。


時刻の確認

列車のダイヤは秒単位で指定されています。
JR東海の在来線の場合、発着時刻は15秒単位です。(会社によっては本当に1秒刻みのダイヤを施行してるところもあります。)

たとえば発車時刻が9時00分00秒と指定されていた場合、その時刻には列車が動き出せるように準備をしないといけません。

ドア閉めを予告する放送や、ドアが閉まりきるまでの秒数。
さらに安全確認をし、運転士に合図を送るまでの秒数。

これらを逆算しながらドア閉めのタイミングを見計らいます。

進路の確認

信号がある駅では、信号の確認も行います。
信号がない駅なんてあるのかとも思われそうですが、厳密に言うと信号に挟まれた区間で、かつ視認できる位置に信号機がない駅というのは往々にして存在します。

車掌の位置から信号が確認できない駅の場合、信号反応灯(レピータ)というのが設けられます。
レピータは信号機と連動して動作するほか、進路が分岐する駅では進路数に応じて複数設置されます。

▲東海道線 熱海駅簡易図
レピータの[伊]は伊東線、[東]は東海道線を示す
東海道線神戸方の進路が構成され、信号が開通すると、[東]のレピータが点灯する

駅によって多少の差異はありますが、定時で運行していた場合、だいたい発車時刻の1分前くらいに進路が構成され、信号が開きます。
もちろん進路の確認は運転士さんも行いますが、車掌も同様に、開通している進路に誤りがないかの確認をします。

乗降の確認

発車時刻が近づくと、旅客の乗降を看視しつつ、ドア閉めのタイミングを伺います。
先にも述べた通り、列車の動き出す秒数から逆算した目安はありますが、乗降の具合は日によって異なります。

場合によっては、死角となる位置の映像を映し出すモニタ(ITV)の映像も確認しつつ、ちょうどいいタイミングを探ります。

「乗降終了、ドア閉」、車掌スイッチを扱います。

ドア閉の確認

ドアを閉めたら、ドアが閉まりきったことも確認します。
電車の側面には「車側灯」と呼ばれるランプが複数ついており、そのうちの一つがドアの状態を示します。
ドアが閉まりきると、赤く灯っていたランプが消え、いよいよ発車の準備が整います。

逆に荷物が挟まっていた場合には車側灯が灯り続けますので、該当ドアだけを開閉するなどし、支障となる問題を解消します。
ただ、傘や杖など、挟まりを検知せず車側灯が消えてしまう場合もありますので、そういった支障物がないかを確認することも欠かせません。

出発看視

ドア、ホームの安全が確認できたら、いよいよ発車です。
JR東海の在来線の場合、①車掌が乗り込み、②乗務員扉を閉め切り、③安全が確保できたタイミングで、車掌は運転士へブザー合図を送ります。
ブザーを受けた運転士は、必要な確認をそれぞれ行い、ようやく列車を起動させます。

列車が動き出したら、車掌はホーム看視へと移ります。
万が一の際はすぐ停車できるよう、非常引きスイッチに手を添えながら、ホームと列車の状態を見守ります。

ホームを抜けたら後方を振り返り、ホームや線路状態を確認します。
すべてに異常がなく、「後方よし!」と確認したところで、ようやく旅客への案内放送が取れるタイミングとなります。

案内放送や車内看視

いまは案内放送を自動で行ってくれる車両も増えましたが、そういった設備がない場合には案内放送を行います。
駅間が長いところでは車内を巡回し、必要に応じては車内清算等の対応なども行います。

とはいえ停車駅が近づけば、また案内放送や到着看視をする必要がありますので、切り上げるタイミングも見計らいつつ、旅客の対応に入ります。

到着看視と停止位置確認

車掌さんは人それぞれ、次の停車駅に対しての目標物を持っています。
最初のうちは指導の人がついて、民家や道路、陸橋や踏切など、駅ごとの目標物を教わりますが、独り立ち後の経験や景色の変化の中で、自分に合わせた目標物を変えたりもするんだとか。

到着放送時、必要に応じては乗り換えの案内も行いますが、時間によっては接続を取らない場合もありますので、誤案内がないよう注意を払います。

やがてホームに差し掛かるころ、再び目線を車外に移し、到着看視へ。
JR東海の在来線の場合、ホームの床面に、両数を○で囲った車掌用の停止位置目標があります。

「○両、停止位置オーライ」
停止位置に誤りがないかの確認を行い、ドアスイッチを操作します。
ドア横に半自動スイッチがある車両の場合には、その機能の有無を鍵で操作する必要があり、ドア扱いも単純ではありません。

ドアが開いたことを示す車側灯を確認したら、続いて進路や時刻を確認。
次の区間に向けて、準備を始めます。

ちなみに万が一所定の停止位置と異なる場合には、運転士や指令と打ち合わせの上、停止位置修正などの手筈を取るそうです。

車掌業務の見直し

2023年1月より、JR関西線(名古屋↔亀山)では、新型車両315系を使用した車両側面カメラの稼働を開始しました。
車両の側面に取り付けられたカメラからの映像を、運転台上のモニターに映し安全を確保するシステムです。(“車両側面にカメラを設置した315系の営業運転開始及び画像認識技術の検証について”.JR東海.公開:2023/05/16.参照:2024/2/12.

このほか315系では、ホームを外れて停車した際にドアが開くことを防止する赤外線センサや、防犯カメラ、非常通話装置の設置など、異常時に向けた対策が強化されました。

JR他社でも類似した装備を持つ車両が徐々に登場していますが、それらの車両が投入された線区のほとんどはワンマン化(車掌の廃止)の対象となりました。

既にJR東海でも3両編成以上のワンマン化導入を進めると明言しており、少しずつ車掌の姿を見る機会は減っていくことが予想されます。(“在来線における車両側面に設置したカメラを用いた安全確認の検証について”.JR東海.公開:2022/12/12.参照:2024/2/12.

時代の変化とともに

かつて駅ごとにいた信号掛が、CTC化によって職を移したように。
改札機ごとにいた改札掛が、自動改札と共に職を移したように。
システムの進化につれて、要する人手は減少していきました。

しかし、そのシステムを構成するための安全を守ってくれていた職人たちがいたことを忘れないためにも、より日々の記録を充実させていきたいと感じます。

そうした職人たちの手を煩わせないためにも、改めて節度を持った趣味行動を心がけていきたいところです。

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