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イラスト生成AIの是非について意見を述べる前に読むnote

【注意事項】
本記事は著作権法を主とした法令についての説明を含んでいますが、記載内容を信頼したことで法的問題が生じた場合(例:イラスト生成AIを用いたコンテンツを販売しても問題ないものと解釈し、告訴された等)、筆者はその責任を負いかねます。

ゆっくりしていってね!


前々から、いわゆる「イラスト生成AI」の是非については、ソーシャルメディア等で活発な議論が交わされている(婉曲表現)わね!

とはいえ、活発だというだけで、あまり生産的な議論にはなっていないわ……。

イラスト生成AIについて憤慨している一般オタクさんは、ほとんどの場合において、まず著作権法の基礎知識に乏しく、更に生成AIが関係してくる「著作権法30条の4」の問題が加わるとほぼお手上げになっているわ。

しかも、これまた民間ガイドライン問題と同じく、オタク文化を愛好する界隈にいる人ほど、かえって理解が妨げられ、結果、論理ミスを犯しやすい状態なのよね。

というわけで、これを見ている読者の方がイラスト生成AIの利用に賛成か反対かはさておき、「議論に参加する前に押さえておきたい基礎知識」を僭越ながら本記事でご提供させて頂くのだわ!

その前に少しだけ注意。

本記事、次の項からしばらくは、生成AIを批判するオタク側、特に二次創作界隈を強めにシバいているわ。

普段はお仲間だから気は進まないんだけど、法令の話をするなら論理的整合性を保つためにシバかざるを得ないのよね。

イラスト生成AIに反対するにせよ、「オタク界隈の共感のみで通用している"その程度の理屈"」では、著作権法30条の4の立法趣旨を理解し、文化庁資料等を読み込んでいる「AI推進派」にネット議論でボロ負けする未来しかないので、ワクチン接種で注射される時の痛みだとでも思ってちょうだい。(注射が痛すぎたら、最後の「イラスト生成AIに無断学習されたくない場合」の見出しまで飛ぶことをお勧めするわ。)

一応、本記事は努めて中立的に書き、あえて「私の意見」(手嶋海嶺としてイラスト生成AIに賛成か反対か)は入れてないわ。

さあ諸君、「ゆっくり」を始めましょう!

二次創作界隈は「ブーメラン」を喰らいやすい

まずはイラスト生成AI反対派のオタクさんが引っかかりやすいトラップについて注意喚起しておきましょう。

私もそうなんだけど、ほら、私たちオタクってけっこうな割合で二次創作物が好きじゃない? いいわよね、二次創作。私もそこそこの冊数を買っては楽しんでいるのだわ。スーパー百合スキーとしては当然のたしなみ。十分なキマシタワーを建設するには、公式からの供給だけでは全然足りないのだわ。

でも、二次創作はほとんどの場合において、著作権法上はふつうにアウト。二次創作物の頒布・販売は、「親告罪のためほとんど訴えられていないが、本来は著作権者の許諾なく翻案権を侵害した時点で罪は成立しているので、裁判になったら刑事でも民事でもまず負ける」という意味では、名誉毀損罪・侮辱罪や器物損壊罪と変わらないわ。

確かに自分のコップを一個でも壊されたら器物損壊罪だけど、ふつう「まぁ……刑事告訴するほどでもないかぁ……」って親告せずに済ませるわよね。よっぽど高級なコップでもない限りは。

これを「黙認してもらえてる! セーフ!」って考えて、人の家にある食器を怒られるまで壊しまくる、または壊しまくって良いものと解するのは違うわよね?(「親告罪というのは公訴提起の要件であって犯罪の要件ではない」と言われている通りよ。)

ポケモン同人誌事件では、警告なしに刑事告訴されてそのまま有罪判決、罰金刑が課されたわね。ポケモン二次創作の同人マンガ(1部600円)を発行し、チラシで宣伝、希望者に合計「5部」も郵送で販売したからよ。22日も勾留されて当然ながら仕事はやめざるを得なくなり、交通費その他もろもろも「刑事犯罪者」なので自己負担で、百万単位のお金が消し飛んだそうよ。

これは警察が海賊版かと疑い、普段より入れ込んだ捜査をしていたとか、色々背景事情はあるのだけど、本質的には、日本国民の総意によって定められた法律が、定められた通りに執行されただけ。不当判決が出たとかいう問題じゃないわ。


まあ言うてね? 私もイラスト生成AI文化よりも二次創作同人文化の方が「好き」だから、後者を大事にしてぇなぁ~って気持ちはあるんだけど、「法令に基づいて後者のみの擁護論をロジカルに構築せよ」と言われたら、「不可能」が答え。

比較してどうこうっていうか、そもそも二次創作は、明確な許諾がない限り、著作権のうち翻案権の侵害等にあたるだろうとしか言えない。

二次創作を善意で黙認してくれてありがとうと言うことすら、私には厚顔無恥が過ぎて出来ないわ。現実問題、二次創作について、著作権者が「泣き寝入り」を我慢して選んでいるだけというケースもあるからね……。

こういう「都合の悪いケース」を考えない(何なら頭をよぎりもしない)のも一部のオタクさんの悪いところよ。「黙認」と「歯ぎしりしながらガマンしてる」って私たち読者からは区別つかないでしょ。

次のようなAIイラスト反対派さんのnoteも読んだけれども、うーん、残念ながら駄目ね。

間違いその8)二次創作(同人)も人の絵を真似しているのだから生成AIも問題ない
⇒二次創作にも問題は全くないわけではない。公式のガイドラインを守らない者がいたりもするが、そういう者はバッシングされたり、同人界にはそのような自浄作用が少なからずある。

【生成AI】騙されないように…これらは間違ったデマや詭弁です


記事の方は、他にも色々頑張って書いてはいるのだけれど、いずれも二次創作擁護として(あるいはイラスト生成AIへの間接的な批判として)成立していないわ。

まず「公式のガイドラインを守らない者がいたりもする」というけれど、「公式のガイドラインなど、(ガイドライン本文を普通の日本語として解釈するなら)守っていない者が圧倒的多数である」が現実よ。

たとえば、「翻案」について触れられている集英社の公式ページを見てみましょう。


■著作権・著作物の複製等について
集英社の出版物およびウェブサイト、SNS等で提供している文章・写真その他画像、漫画・キャラクター等の著作物は、著作権法で守られており、それぞれの著作権は、各著作権者に帰属します。
法律で認められた場合を除き、無断で以下のような行為をすることは禁じられています。

・出版物の表紙やカバー・文章・漫画その他イラスト等の絵柄・写真・キャラクター等の全部または一部を複製・翻案等して印刷物に掲載する、(有償・無償を問わず)物品の表面等に表示する、あるいはSNS・動画などを通じてインターネット上に掲載すること。
・ウェブサイト上の文章・漫画その他イラスト等の絵柄・画像・動画・キャラクター等の全部または一部を複製・翻案等して印刷物に掲載する、(有償・無償を問わず)物品の表面等に表示する、あるいはSNS・動画などを通じてインターネット上に掲載すること。
・出版物やサイト上の文章・漫画その他イラスト等の絵柄・画像・動画・キャラクター等を利用してロゴ・アイコン・壁紙・コンピュータソフト・動画等を作成しインターネット上に掲載・頒布すること。
・出版物を、代行業者等の第三者に依頼してコピーやデジタル化を行うこと。

著作権者の権利を保護するためにも、上記のような行為はおやめください。

集英社:よくあるお問い合わせ「集英社の出版物のキャラクター等のグッズを個人で作りたい」
※強調太字は引用者による。


ジャンプマンガのエロ同人誌をよく出版している某先生とか、「翻案についての集英社公式回答への違反」を理由として、そんなにバッシングされて「自浄」されてたかしら? 私から見る限り、むしろ今もご健勝であり大人気っぽいわよ。

また、エックスでLINEスタンプのごとく漫画のコマを貼りまくるポストについて、「ガイドライン違反だ! さあ自浄だ!」とかやってたかしら。どっちかっちゅうと、セリフ改変までしたクソコラでげらげら笑っているのが一般オタクではないかしら?

ちなみに他の出版社の二次創作ガイドラインも大同小異で、一見許可しているように見えても「その他、弊社が不適切と考えるものは駄目とする」というような包括的な項目が必ずあるわ。

前々回、前回記事で「法的拘束力のないガイドライン」を扱ってきたけれど、利用許諾のない二次創作(翻案権の侵害)を禁じるのは、法令をほとんどそのまま書き出しているだけだから、たいてい有効、法的拘束力ありよ。(そもそもガイドラインとしてわざわざ提示してなくても「法令に書いてあるだろ」だけでオッケー。)

「自浄作用の有無」も同様に、法律論的には関係無くて、「著作権者に無断でできる翻案」(例:視覚障害者に向けて活字を点字にすること, 著作権法第37条など)の要件になってないのよね。

その他、上記記事では、二次創作にはリスペクトがあるとか、公式の宣伝になってるとか、二次創作の作者やファンが原作やそのグッズを買ってて経済的に還元していること多いとか書いてあるのだけど……。



いずれも裁判所的には「いや知らんけど? 許諾なく翻案してよくなる要件として法令に書かれてねえよ、それ。」で一括処理よ。

そもそもエロ同人でよくある「ヒロインキャラがレイプされる二次創作」のどのへんに「原作へのリスペクト」を感じればいいのか、私の感覚だとよくわからないのだわ。(だから二次創作は消えろと主張しているのではなく、無理筋であるという話よ。繰り返すけれど、私は二次創作物かなり好きだからね。)

ともあれ、裁判官さんは(一応)法令に基づいてしか判断が下せないから、法令に書いてない根拠を持ち出しても擁護にはならないのよね。翻案権の侵害で怒られたら、何とか和解示談に持ち込めないか、全力土下座してどーにかこーにか「マシ」にする……というのが限界よ。

とはいえ、元記事の人もちょっとフォローしておくと、「二次創作(同人)も人の絵を真似しているのだから生成AIも問題ない」という主張は、もしもこのまま言われているのなら、論理的ではないし、正しくもないわね。シンプルに「AがXだから、BもXである」が成立してない。

正確には、「二次創作(同人)は、明確な許諾がある場合を除き、訴えられれば翻案権の侵害に該当するケースが多いと推察されるが、生成AIの著作権侵害性は、現状、ただちに明らかではない。」ね。

だから、元記事の人がイラスト生成AIを排除したいと考え、そのために必要と思われる法的規制を作るためのアクションを起こす――これは何ら民主主義的に間違ったアプローチではないわ。署名活動をやっていらっしゃるみたいだから、主張内容に納得し、賛同したい人はすればいいでしょう。


イラスト生成AIの法的位置づけ

ともあれ、二次創作同人誌の問題と絡めてしまうのは悪手よ。

二次創作について私たちオタクから何か述べるとしたら、

「二次創作については、翻案権を侵害されたかもしれない著作権者と、二次創作者との間における、個別具体的な問題であり、当事者間での協議および必要に応じて行なわれる裁判によって、適切に対応されるべきことと存じます。第三者から言えることはございません。」

「私自身が制作した二次創作物につきましても、現在、著作権者から警告や訴状等も届いておりませんので、コメント致しかねます。」

と、イラスト生成AIの問題とは分けて論じるのが良いわね。


はい社会人仕草! 混ぜるな危険!
二次創作界隈が唱えていい呪文はこれだけ!

――はい、そして本題ね。

イラスト生成AIについて論じる場合、とりあえず著作権法(特に30条の4)はもちろん、文化庁の文化審議会著作権分科会法制度小委員会が出している「AIと著作権に関する考え方について(素案)」くらい基礎知識として叩きこんでおく必要があるでしょう。

ただし、これはお勉強としてであって、法文ですら裁判官の思い次第なところがある上、後者は「素案」「骨子案」と文書中にゴリゴリ念入りに書いてある通り、もしあなたがイラスト生成AIの利用で訴えられた場合に、裁判で文化庁がケツモチをしてくれる訳じゃないわ。単なる資料だし。

でも議論したり、色々な人の意見を理解したりするのには役立つでしょう。

細かいから、大事なところをざっくり要約をするわね。「ざっくり要約」よ? では、法令周りの記事を書く時にはいつもの出すゆっくり宣言よ。冒頭にも置いたけど、もう一度。

【注意事項】
本記事は著作権法を主とした法令についての説明を含んでいますが、記載内容を信頼したことで法的問題が生じた場合(例:イラスト生成AIを用いたコンテンツを販売しても問題ないものと解釈し、告訴された等)、筆者はその責任を負いかねます。

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