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高校生AV出演問題およびヒューマンライツ・ナウによるAV産業調査報告書の批判的検討

ゆっくりしていってね!!!!

今回は、ヒューマンライツ・ナウによる調査報告書(PDFリンク)の内容を批判的に検討していくわ!

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――でも、その前に。
2016年に公開された当該調査報告書が、2022年現在で再び話題になった経緯を説明させて頂くわね!


高校生AV出演問題の浮上

民法改正により2022年4月1日から、18歳以上が締結する契約については、未成年者取消権が認められなくなったわ。そのため、これを受けた報道機関や人権団体等が「高校生がAVに出演するようになる!」とセンセーショナルに報じたのよ。

NPO法人ぱっぷすと認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウが記者会見を開き、やはり同様に「高校生AV出演解禁を止めてください」という文言を大きく打ち出した。

死んだ魚の目2

でも、そもそも「解禁」という表現が完全に間違っているわ。

改正前の現時点でも、18歳・19歳がAV出演契約を結ぶのは違法ではないわ。改正されて認定されなくなるのは「取消権」よ。つまり、契約後に「この話は無かったことにしてください!」という権利ね。

法律上、18歳・19歳がAV出演契約を結べるのは従来と同じだから、今回の改正によって「解禁」されたという事実は無いわ

また、AV人権倫理機構の報告によれば、改正前でも、ここ数年は18歳・19歳の出演数はゼロよ。今後も20歳以上の出演に限るよう強く推奨しているわ。
加えてAV人権倫理機構は、2017年の時点で下記の通りに業界の新ルールを策定し、業界の健全化を行っているのよ。

(1)メーカー・プロダクション間、プロダクション・女優間、女優・メーカー間の共通契約書の使用
(2)プロダクション登録時(契約時)において、女優本人が再検討する期間の明確化
(3)プロダクション登録時の第三者による意思確認と、その際の重要事項説明の制度化
(4)面接、契約、撮影時などにおける現場録画での可視化
(5)出演料やプロダクションフィーなど金銭面の女優への開示
(6)オムニバス作品(総集編)制作時における出演女優への報酬支払い(二次利用料の発生)
(7)作品使用期間の取り決め(最長5年、以降女優から要請があれば使用停止にする)
(8)通報窓口「ホットライン」の設置
(9)AV業界の紛争解決を行う「仲裁機関」の設置
(10)コンプライアンスプログラムの整備

『AV販売、出演女優が希望すれば最長5年で停止へ…業界健全化に向けて大筋合意』(弁護士ドットコム:2017年10月4日)

特に「不本意なAV出演」を防ぐために重要なのは、(1)共通契約書の使用と(4)面接、契約、撮影時などにおける現場録画ね。
契約書を作って見せていますといっても、契約者(たいてい若年女性)の法律的無知につけこんだ悪質な内容なら問題があるでしょうし、契約書がきちんとしていても説明不足(または間違った説明をされる)可能性もある。共通契約書や録画の活用によって、不本意なAV出演を防止しているわけね。

加えて、同機構は、AV出演者からの作品配信停止申請も受け付けていて、22,725作品を実際に停止させているわ。国内最大手のFANZAにあるアダルトビデオ作品数が20万作品(2022年現在)であることを考えると、約10%だから決して少なくない数と言えるでしょう。

こうしたAV業界および関係団体が積み重ねてきた努力に触れず、「高校生のAV出演解禁!」などと間違った看板を立てて騒ぐのは、ポルノ憎悪的な扇動活動とみなされても仕方ないでしょう。

本件のデマの詳細については、ヒトシンカさんがセンサイクロペディアの記事で述べていらっしゃるから、そちらを参照してね。

 実態としては、AV人権倫理機構が高校在学中の18歳少女の出演を禁じており、また高校在学中かどうかにかかわらず、ここ数年の実年齢18・19歳のAV出演数はゼロとなっている(同機構の業界アンケートによる)。もちろん、AVのストーリー上でセーラー服などを着用しているものも実際は成人が出演している。
 また年齢確認は口頭確認ではなく書類提出が求められ、どれほど明らかに成人している人(男優も含む)も本人確認がなされるのが実際の状況である。「強要」だの「未成年出演」だのというのは大昔の話なのだ(そもそも今回のデマの主犯の1人である伊藤和子弁護士も、無実のAV会社社長を「出演強要した鬼畜」呼ばわりした【伊藤和子・AV制作会社社長名誉棄損事件】を起こし敗訴した人物である)。

ヒトシンカ『高校生AV出演解禁デマ:センサイクロペディア』

それでは、ヒューマンライツ・ナウによるAV業界の調査報告書(以下、「HRN報告書」と記載)の検討に入りましょう。


HRN報告書にある怪しい数値

HRN報告書では、まずAV業界の市場規模について以下のように書かれているわ。

AV 業界の市場規模に関する正確なデータは見つからないが、年間 4000 億円ないし5000 億円程度と言われている[3]。また、年間約 2 万タイトルが、毎年新たに販売されているという[4]。

ヒューマンライツ・ナウ『ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、女性・少女に対する人権侵害 調査報告書』(2016年3月)
※太字は引用者による。

AV業界の市場規模については、矢野経済研究所が報告していて、517億円(2014年報告, 国内出荷金額ベースで計算)なのよね。HRN報告書の金額とはなんと10倍もの開きがあるわ。
もちろん、HRN報告書が2016年に書かれていることは考慮したわよ。Google検索の期間指定で2016年までにあった情報に限定したんだけど、ものすごくあっさり見つかったのよね。

怒2

何が「AV 業界の市場規模に関する正確なデータは見つからないが」なのよ!?

アンタそれ、私が昔いた研究室で「見つからない」なんてレポートに書いた情報があっさり見つかろうもんなら、その場で鬼舞辻無惨式パワハラ会議が確定するわよ!?
(そんな環境が良いとは言わないけど)

また4000~5000億円というと、市場規模としては、

・家庭用ゲーム(ゲーム機本体、ソフト両方):4369億円
・文具・事務用品:4576億円
・宝くじ(当選金差し引き済み):4247億円
市場規模マップより

このへんに匹敵することになるんだけど、無理じゃない?

加えて前提として、アダルトビデオ業界はずっと縮小傾向にあるのよ。
違法ダウンロードでなくとも、ネットで無料のアダルト画像・動画が入手しやすくなっているし、技術革新によって強くなり続けている二次元エロにも押されているわね。(二次元エロ市場は、HRNが問題視するAV出演強要問題とは関係ないから、市場規模にカウントするべきではないでしょう)

さて。

HRN報告書における4000~5000億円という金額の根拠になっているのは、次の記事よ。なお、2010年に公開されたもので、当時からしても古い情報よ。

松本氏によれば、アダルトビデオ業界の市場規模は「少なく見積もっても年間4000~5000億円」。不況に強いといわれるアダルト産業だが、収益の大半を占めるパッケージ商品の売り上げが伸び悩むなど、市場規模は減少傾向にある。一部メーカーはストリーミングやダウンロード配信などに力を入れるが、「それでも売れているわけではない」。

INTERNET WATCH『著作権侵害にあえぐアダルト業界、ファイル共有ソフト対策に着手』(2010年4月1日)
※太字は引用者による。

こんなネット記事のたった1行の記述のほうが、よっぽど見つけにくいと思うんだけど……。それにこの記事の本旨でもないし。これ、タイトルの通り、ファイル共有ソフトのせいでAV業界に経済的ダメージが出てるって話よ。全体として、AV業界に同情的な論調よね。

つーか、シンプルに、400~500億円の書き間違いじゃない?

いくら市場規模の計算が手法によるとはいえ、10倍にもなるのは変よ。「松本氏」がどんな資料に基づいて出した数値なのかも書かれていないし、こうしたトレーサビリティ(追跡性)がない情報は、まともな情報としてカウントできないわ。

【2022年3月27日追記】
4000億円という数値は、INTERNET WATCHの元記事の主旨からすると、著作権侵害の被害額算出のために、市場規模を極めて過大に計算した可能性が高いというご指摘を頂きました。(つまり、法廷戦術による数値であって、経済学的な妥当性は元々追求されていないと思われます。)

また、4000億円というのが正しいとしても、HRN報告書のその直後の記述と整合性が取れないのよね。

HRN報告書では、市場規模の話のあとにアダルトビデオ業界におけるメーカーの売上を取り上げて、「下記の3社によって、7~8割の市場が寡占されていると言われている。」としているわ。

①DMM.comグループ:129億4000万円
②ソフト・オン・デマンド(SOD)グループ:143億円
③有限会社プレステージ:売上非公開

はいはい。
じゃあ算数の時間なんだけど、DMM+SOD+プレステージ=(272.4+X)億円として、これが少なくとも4000億円市場の7割(2800億円)にあたるのよね。
プレステージの売上であるXはいくつになればいい?

答え:プレステージの売上は、2527億6000万円である。

怒2

ぜってぇ無理だこれーーーー!!!!!
これが正しいなら、プレステージ1社の完全な独占状態よ!?

いやいや。ちょっと待ちましょう。
もしかしたら、メーカー売上だけではなく、アダルトビデオと関連する何らかの産業の売上が加算されているのかもしれないわ。
でも、それって具体的に何? プレステージの売上をSODと同じく約150億円程度と仮定しても、129.4+143+150 = 422.4億円よ。これで7割なら、残り3割を加えた全体は603.4億円ね。

4000億円-(129.4+143+150)/0.7 = 3577.6億円

あの。

アダルトビデオ業界がアダルトビデオの売上以外の要素で、どうやって3577億6000万円も稼いでいるの? 

HRN報告書の内容だけに基づくと、「アダルトビデオ業界にとって、作品の売上総額は経済的にまったくどうでもいい要素である」としか読めないんだけど。報告書内部での整合性が取れないわ。

・アダルトビデオ業界の市場規模を4000~5000億円とすること。
・DMMやSOD、プレステージが作品売上がそれぞれ150億円程度であり、かつこの3社がメーカー全体の売上の7割を占めること。

この2つは、現実的には絶対に両立しない。

「細かいな~!」って思われるかもしれないけど、私はこういう整合性の無さがすごく気になるタイプのゆっくりなのよ。(さらにご丁寧なことに、「ほとんどすべての利益は制作会社が手に入れている。」という文章もあるわ。いや、3577.6億円はどこから調達してるのよ。


「相談者」の実態について

HRN報告書では、次のような気になる記述があるわ。

本調査では、AV 被害者支援を行っている団体[18]から個別事案に関して、被害実態の聞き取りをおこなった他、いくつかのケースで被害者本人からの聞き取り調査を行った[19]。
個人情報の関係で、上記 93 件のうち、事実関係の詳細の公表が可能となったのは下記10件であり、以下のような、深刻な被害実態が明らかになった。
いずれも深刻なものであるが、被害の訴えのうちの氷山の一角に過ぎない。

[18] 脚注2と同じ。(=PAPS(ぱっぷす))
[19] 支援団体への相談件数は、2012 年 9 月から 2015 年 9 月までで合計 93 件にのぼる。その中の約 8 割がAV 出演に関する相談であるとされる。

INTERNET WATCH『著作権侵害にあえぐアダルト業界、ファイル共有ソフト対策に着手』(2010年4月1日)
※太字は引用者による。

ここでいう「AV被害者支援を行っている団体」はNPO法人ぱっぷすよ。脚注も含めて読むと、ぱっぷすへの相談のうち約8割、つまり74件がAV出演に関する相談ということね。

しかし、実はここに注意すべき点があるのよ。

「いくつかのケースで被害者本人からの」とある通り、93件あるいは74件の相談には、本人ではない人からの相談が含まれているのよね。


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