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漫画家と出版社・テレビ局の確執:芦原妃名子さんの事件に寄せて

ゆっくりしていってね!

漫画や小説等を原作といて映像化するにあたって、原作からの「改悪」がよく話になるし、また内部的には権利関係で揉め事が起きがちよね……。


作家さんは出版社・テレビ局に比べると弱い立場にあり、自分の意向を映像化作品の内容にはなかなか反映させられないし、またそれで収益が上がっても、作家さんに支払われるのは固定額の著作利用料のみよ。興行収入が何十億円であったとしても、100万円ほどが相場だと言われているわ。

ずっと問題となっている話だけど、1月28日に漫画家・芦原妃名子さんが自死され、「テレビ局によって原作を意に沿わない形で改変されたことを苦にした結果ではないか?」と疑われていることで、再びネット界隈で議論が交わされているわ。

捜査関係者によりますと28日午後、漫画家の芦原妃名子さん、本名・松本律子さんの関係者から行方不明者届が出され、警視庁が行方を捜していましたが、29日、栃木県内で芦原さんが死亡しているのが見つかったということです。遺書のようなものも見つかっていて、現場の状況などから自殺とみられています。 芦原さんの作品はたびたびテレビドラマ化され、現在、マンガ雑誌で連載中の「セクシー田中さん」は去年10月から日本テレビ系列でドラマ化されていました。 先週26日(金)には、芦原さんは自身のSNSでドラマの9話・10話の脚本を自ら担当した経緯を明かしていましたが、28日になって経緯のコメントを削除し、「攻撃したかったわけじゃなくて。ごめんなさい。」というコメントだけを残していました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/267f4835d3c8f92f881bd68769f21e612488347c


とはいえ、自死の原因が本当にその件なのかは分からないわ。また、上記が原因であったとしても、芦原妃名子氏と出版社・テレビ局の担当者との間に具体的にどのようなやり取りがあったのかも不明。

「悪代官のようなテレビ局にしてやられた可哀想な作家さん」というような――まあ、テレビ局の体質を考えるといかにも有り得そうではあるけれど――部外者からは憶測の域を出ないストーリーを描くのには、少し慎重であった方がいいでしょう。

個別具体的な「本件」に関しては、謹んで哀悼の意を表するだけにしておくわ。

そして一般論として、本件に寄せつつもご自身の体験を語った漫画家・佐藤秀峰先生のnote記事を紹介させて頂くわ。


佐藤先生の件についてもご心情察するにあまりあり、同情を禁じ得ないわね……。私なんかが言うのもかえって失礼だけれども、大変な思いをされたと思うのだわ。

佐藤先生が半フィクション(という表現が適切かは分からないけれど)として、新人漫画家と出版社との確執等を描いている漫画『描クえもん』も読ませて頂いたわ。

でも……うん。


佐藤先生が書かれた当該記事、まともな社会人が読んだら、「この漫画家の主張はあまりにも意味不明で、常軌を逸している」と評されかねないというか、ぶっちゃけ私も記事内容に加えて『描クえもん』の知識をプラスした上で何とか呑み込んだレベルだから、僭越ながらちょっとそのへんの指摘をしておくのだわ。

実際、ためしに私の会社で仲良くさせてもらってる課長さん(※マンガには全く詳しくない)に読んでもらったんだけど、「あの、手嶋君、この人、え、何を言ってるの? 何が言いたいの?」とガチで困惑したリアクションをされたわ。

※課長さんは別に冷血漢という訳ではなく、部下の面倒見もよく、お仕事も誠実にこなす善人よ。

まず、次の文章。

企画書というのは作るのは簡単ですが、実現することはほとんどありません。
「映画は水ものだから企画段階では真剣に考えなくて良い」という編集者の言葉を真に受けていたら、ある日決まっていました。

決まったと思ったら僕が口を挟める余地はありませんでした。
漫画家は通常、出版社との間に著作権管理委託契約というものを締結しています。
出版社は作品の運用を独占的に委託されているという論理で動いていました。
契約書には都度都度、漫画家に報告し許諾を取ることが書かれていました。
が、それは守られませんでした。
すでに企画が進んでいることを理由に、映像化の契約書に判を押すことを要求されました。
嫌だったけど、「映像化は名誉なこと」という固定観念がありました。
映像化決定のプロセスが嫌なだけで、出版社もいろいろ動いてくれたんだろうなと。
原作使用料は確か200万円弱でした。

「死ぬほど嫌でした」(佐藤秀峰)


「「映画は水ものだから企画段階では真剣に考えなくて良い」という編集者の言葉を真に受けていたら……」
部分は、佐藤先生としては少々騙されたというような論調に感じるわね。

ただ、弊社でも新商品の企画は次々に上がるものの、実際に商品化にこぎつけるのはごく一部だし、それは出版・テレビ局でも同じでしょう。課長さんと「別にこれで出版社サイドの悪意ある嘘とまで推測することはできんよなぁ……」と解釈一致。まあここは細かいけどもね。

より大きな問題はそれに続くところで、「契約書で許諾を得ることが決まっているのに守られませんでした」という指摘ね。もちろんそれは契約違反であり、よろしくない。

でも、更に読み進めると、「映像化の契約書に判を押すことを要求され」「映像化は名誉なこと」と思い、ハンコを押した上で原作使用料として200万円弱を受け取ったとあるわ。

ここで私もちぐはぐな印象を受けたのだわ。

だって、契約書が作成され、説明も受けてハンコを押し、お金も受け取ってるのよ? だったら少なくとも『映像化』の部分に関しては、著作権者の許諾を得るという約束が誠実に守られていたとしか、当該記事の情報だけでは分からないでしょう。


もちろん、だからこそ、タイトルでも内容でも「嫌でした」(≒後悔しているという感想以上のことは主張できない。契約関係について自分側が甘すぎた。)と述べるにとどめていて、佐藤先生は自覚していらっしゃるのでしょう。

これは『描クえもん』を読めば、特に「分かっていらっしゃることが分かる」のだわ。また本作だけでなく、各所で同趣旨のことを述べているしね。

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