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東北から上京した女子大生が人を好きになることを学んだ話

10数年前とある東北の片田舎から大都会に進学してきた私は、高校時代熟読していた原宿系ファッション雑誌の中でしか見たことなかった数々の憧れのショップに自分がいとも簡単に足を踏み入れることのできる暮らしに静かなる興奮を覚えていた。

当時初めてのアルバイトで稼いだ大金に戸惑いながらも、毎日私服で自己主張に勤しむ生活に金銭感覚がバカになっていたため季節が巡る度に大量のファッションアイテムを買い漁っていた。東京で暮らす人はみんなそうなんだと思い込んでいたのである。

(そうだ…zipperに載ってるこのショップにも行っていいんだ!なんで気が付かなかったんだ…フフフフフ…)



とあるターミナル駅に直結するファッションビル。4階のくだりエスカレーター辺りにそのお店はあった。実はその斜向かいにも超憧れのショップが入っていたのだが、こちらは正直値札のレベルが高すぎて入るのが怖すぎた…そちらは見ないふりをしてティーンにも優しい商品展開のお目当てのショップに入店。田舎もんとばれないようにキョロキョロ厳禁を意識し、あたかも他の店舗は見てるんだけどね、ここはたまに来るだけよ…って雰囲気を気取る。きっとちょっと変な顔になっていたと思う。でもなめられちゃいけねえというヤンキー王国の気合いが私をそうさせるのだ…!

「こんにちわ~」

ドキィッッ!!!店員さんが声をかけてきた!

私「あ、どうも…」

はにかむも目を合わせられない私。どうすればいいんだ。何をしかけてくるつもりなんだ!!!

店「よく来るんですか?」

え?2回目のこの私がよく来る人に見えているのか?(1回目は別の店員さんに話しかけられて混乱して何か買ったが記憶がない)

私「ははっ、たまに…」

小さい嘘である。19才は、なめられたくないのである。

店「そうなんですね~じゃあ東京の方ですか?」

ええ?私が東京の人に見えるのか?嬉しいけど、でも私は故郷を捨ててきたわけじゃない…そもそも住民票は移されていないのだ。大きな嘘はいけない。

私「いやちがいます〇〇県民です、ヘヘヘ」

観念した。私より少し背の小さい店員さんの笑顔がかわいすぎてバカみたいな見栄がどうでもよくなってしまった。(質問してるだけなのにw)

店「そうなんですね~。私も東京じゃないからよかった~。今朝まで地元にいたんですよ~」

店員さんの地元は、東京近郊の都会のイメージはない地域だった。初めてその県出身の人と話しているのだと気づき、ちょっと感動した。そして店員さんはここまで一切洋服の話をしていない。

結局そのあと、オムライスおいしいって話とか、東京怖いなじめない空気汚いとか、そんな立ち話に終始してしまい。せっかくなので服を買うことにした。


お会計の時に、1回目に話した店員さんが私のことを覚えており、寄ってきてくれて3人でお話をした。なんとその方は店長さんだったようで、

「あれ?仲良くなってる。あ、知り合いだった?」

と言われてしまった。

店&私「「いや、今知り合いました」」

そんなことを言いながらものすごい心をホクホクさせてお見送りしてもらった。


私はもう半分くらいその店員さんのことが好きになっていたし、ファンになっていた。憧れのショップで働くかわいらしいお姉さんなんて、私にしてみればカエラちゃんやUKIちゃんと同じような神格化された存在であってそんな人と今日、雑談をしてきたのか…と自分の1日が信じられなかった。



「ああ!ひさしぶりですね~!覚えてくれてますか??」

神が私に話しかけてくる。覚えているかって、当たり前である。…当たり前なのである!冬物を買うためにバイトを増やした私は前回の買い物から少し間隔をあけて来店した。

私「んもっ、もちろんです…あの、あのコート買いたいんですけど!」

店内がセール中で混雑しており、迷惑になってはいけないと思い要件を端的に述べた。神はお忙しそうである…

神「えぇっちょま!あれ3マン近いよ!ちょっと待ってね!いなくならないでね!」

黙ってうなずく。神は忙しさのせいか私にタメ語交じりに話しかけてきた。急な距離感にときめきが止まらずふるふるして大人しく待っていた。

神「ふう…。今日はなにをお求めですか?2点買うと20ぱーオフだよ!」

私「あのコート…実家に帰るのであったかいやつじゃないとばあちゃんが…」

神「ほんとに買うの?無理してない?しないでね?大丈夫なの?」

私「バイトしてきました!」

神の前ではハキハキと答えることを忘れなかった。神は私の懐事情まで気遣ってくれていいる…洋服屋さんってそういうこと言うのかな?一体これは何が起きてどうなってるのだろうか…??

靴下とかロンTと一緒でもお安くなるとのことだったので、コートの元の値段くらいでお得に買い物をすることができた。ちなみにその時のコートは今もまだ着ている。紐だらけのモッズコートである。



ある日件のショップから神のしたためたDMハガキが届いた。いつも手書きのハガキをくれるのである。その内容に、私は驚きとショックを隠せなかった。


「閉店セール」


嘘やん…あんなにお客さんいだねが…あんなにいっぱい私買い物したんでが…なして…。本当にショックでショックで、これはいっぱい買わなきゃな…とぼんやり考えながら、学校終わりの平日、人の少なそうな時間帯を狙ってショップに赴いた。


私「本当にしまっちゃうんですか…」

神「そうなんですよー。」

私「オクダさん(仮名)、〇〇店に行くって本当ですか?」

その頃私はすでに神のことを名字で呼んでいた。その名字の人も初めて知り合ったので、なんだか特別な響きにさえ思いながらその名を呼んでいた。神改めオクダさんはDMに、近郊の別店舗に異動することを書いてくれていた。

神「そうなんです~」

一応店長さんにも聞いておいたが、店長さんは本社勤務になるとのことだった。

私「オクダさん、…店長になるんですか?」

オクダさんは私よりも2つ年上だった。どうりで神だと思ったら、異例の若さで店長に昇進するほどの人材だったのである。しかし本人はこの会話自体に気乗りしないようで、不安げにも見えた。また心がキュンとしてしまった。神に対しておこがましいもんである。

神「ちょっと遠いけど遊びにきてくださいね!」

私「絶対行きますよ!!!」


神を応援にしに行かなければ…。異動先の店舗はその頃の学生マンションから約1時間。でも何度も遊びに行ったことのある街で、むしろ口実を作って遊びに行けるのが楽しみなくらいだった。





閉店セールから数カ月、そろそろ新しいお店も落ち着いてきたかしらと思い立ち、私は何度かの乗り換えの末にオクダさんのいるファッションビルへと足を向けた。ショップは少し上の方の階だ…緊張する…こいつわざわざこんな遠くまで来やがった!みたいな雰囲気だったらたまたま来たことを装うしかない…そんな処世術を用意しながらエスカレーターに運ばれていると、おりたところのすぐ横にショップはあった。


私「…こんちは」

神「!!!………!!!!!」

私「ちょっと時間があったのd「ほんとに来てくれたっ!!!」

神が喜んでくれていると疑いもなく感じた。神の休憩を待ってお昼を一緒に食べに行った。神が食べ物を食べている姿をその時初めて見た。神が街中にいて私の横を歩いていて、神が仕事モードじゃないのも初めての光景だった。神との距離が急接近した瞬間だった。忘れることのできない嬉しさが今も思い出される。


それから私は、神が店長を務める店舗に大学の友人や高校時代の元カノや同級生を連れて遊びに行ったり、近くにあるゴチャゴチャで有名な雑貨屋で神が好きな生き物のどでかいぬいぐるみを買って誕生日プレゼントにしたり、夕方からその館で芸人のライブがあるが客が足りないらしいから行ってあげてくれと言われてクソ寒い屋上で芸人のライブを初めて観覧したりした。



それから数年。神は、転職をするという。神が店長を辞める時が来たのだ。その時の私は神とお酒を飲みながらたくさん話をするようになっていたし、彼女のいろんな面に触れられる距離感になっていた。ショップから神がいなくなっても神には会えるし、他店舗の様子を見に行ったりもしていたので神頼みでなくても買い物もできそうに思えた。それに神は唯一無二で、私にとって彼女のような店員さんは他のどこにもいないことをすでに知っていた。


神の決断を私は応援した。お店に行けば会える関係は終わってしまう。だけど神の人生は神の意のままに進んでいくもの。


私は神のことがすごく好きで、本当に好きで好きで、一緒にいる時の幸せ感は他の誰にも感じられるものではなかった。でも神の恋愛事情だって当然聞かされているわけで、彼女は当たり前に異性が好きだと知っていた。

夜遅く、私は鏡を見ながらスキンケアをする彼女に告げた。

私「…ねぇ…。好きなんだけど。」


神「んー。知ってた。そうかなーとは思ってた。」

私「…そっか。」

神「でも、私はそうじゃないし。友だちとして、好きだよっ」

多分またすごく変な顔になっていた。もしかしたら泣いていたかもしれない。その後どうなって寝たのかは、あまり覚えていない。





神、もといオクダさんには何度も好きだと言ってみたと思うが、受けとめて断られずっと友だちでいた。いろんな狂気に飲み込まれてしまい迷惑なことをたくさんしてしまった。ある時、私が学生を終え怪しげな会社で働き始めた頃に、終電間際に狂気により路上で土下座をして朝まで付き合って飲んでもらったことがある。現実が辛かったのだ。私は自分の人生に最高になげやりになっていた。
どのくらいの量を飲んだかは分からないが、明け方の居酒屋で二人は妙に酔いがさめていた。


オ「なんでお前は自分を大事にできないんだ」

オ「こっちがあんたのことをどんだけ心配してるか分かってるのか」


彼女は、私に怒りながら泣いていた。思い出すと今でもつられて涙が出てくる。何人人を好きになっても、私の想う気持ちと相手の気持ちは噛み合うことがない。友だちとして一緒にいてくれる人に感謝しつつ、人を好きだと思うこと自体をこじらせて不自由さにまみれてしまっている私は、彼女がまさか泣くほど自分を心配しているなんて考えもしていなかった。当時院進学を経済的な事情から諦め、訳の分からない会社で働き始めた私は、卒業式の頃母親ともめていた。親にさえバカにされ嘲笑われるような私の人生なんてどうにでもなればいいと本気で思っていた。それなのに、血縁でもなんでもないこの人がどうして泣くのか。私を心配しているって言っている。怒っている。私が自暴自棄みたいな生き方をすることに心を砕いている。私はなんてことをしているんだ…これはもう大罪人だろう。
私は言葉もなく泣いた。





それからの私も、結局本当の意味では自分を大事にすることなんて全くできていなかったと思う。本当になぜあんなにも自分を傷つけるようなことができたのか不思議なくらい最低なことをたくさんした。正直誰でも読めるようなところには書けないくらい酷いと思う。なので割愛するが、私はそういうことをしでかす度に「どうして自分を大事にしないんだ」という彼女の言葉を思い出さざるを得ない。弱い人間なので、そんなこと言うならあなたがそばでみていてくれれば…なんて甘えたことを言いたいような気もするが、そういうことじゃないんだ。ちゃんと分かっているつもり。
書けないくらいにひどいエピソード達はなにがひどいって、全部自分勝手で独り善がりだったことなのである。だからとても恥ずかしいのだ。それもやっと自覚できるようになった。本当にめちゃくちゃな20代を過ごしてしまった。


私は自分の気持ちにばかりとらわれて、この人に自分を好きになってほしいとばかり考えている。でも彼女はそうではない。ただ私を見てくれていて、私が自分を好きだと信じた上でいつも接してくれていた。私がおっかなびっくりで彼女のそばにいて、彼女のためにもっと喜ばせようとか何かしてあげられることはないかといつも必死になっている時に、彼女は無理に何かしないでもそばにいられることを知っていたのだと思う。いびつさが今になって分かる。それは決して恋人同士でなくても成立していた関係だ。ああ。今これを書いていてそれが分かってきた。何にも分かっていなかった。


そんな器の大きい彼女は、決して「昔好きだった人」なんて言葉に収まるような存在ではない。前にこんな話をしたことがある。

オ「ねえ。この先いくつになってもあなた(私)のこと心配してる気がする」

私「そうねえ。なんか、オクダさんいとこのねえちゃんみたい」

オ「たしかに。それしっくりくる」

私には年上のいとこも姉も実際にはいない。でも血縁みたいに切れるはずがない縁だって確信してるし、何年ぶりに会ってもそのままの自分でいられる関係ってきっとこの人とのことだ。


好きになるって、好きになってもらおうとすることじゃないんだ。好きになるって、自分がちゃんと確立されて初めて好きでいられるってことなんだな。ものすごい深い学びだこれは。さすが神ですよ…いやほんとに神に思えてきた…。今まで散々神と崇めていたのに今さら神と実感させるなんてどこまでも神らしい存在。すごい。神への信仰心が高まったところで、この辺にさせてもらおうか。


以上、東北から上京した女子大生が人を好きになることを学んだ話でした。




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