見出し画像

夫目線からの出産レポート その4

6月15日

この日は月曜日である。月曜日といえば私がお休みをいただいている日。

この日に生まれてくれるとなると、火曜日からの仕事に穴を開けずに済む。それに合わせて日曜日に破水→陣痛始まる→月曜に出産。なんと協力的な子どもなのだろう。

しかしながら、それはまさしく皮算用。

「のんびり屋さん」の本領を発揮し、この日には生まれなかった。

多くケースが破水後24時間以内に陣痛が始まり、出産のプロセスが始まるらしいが、24時間経ってもその気配は無かった。

明日の朝までに陣痛が始まらなかったら、促進剤を使うかもしれないが、こちらの病院では子どもに感染症の気配などの危険が無いのであれば、すぐには使わないとの方針とのこと。

その辺りの判断はお医者さんや病院の方針に従うが、破水して24時間以上は遥かに経っているし、母体への負担は大丈夫なのだろうか。。

色々と心配なことだらけではあるけれど、体力勝負なのでしっかり寝よう、ということで夜の10時くらいに「おやすみ」と電話を切った。

真っ暗にして、横になっていると生あくびは出るけれど、色々と考えるとなかなか寝付けない。

起きて何かやって気を紛らわしていたら眠くなるだろう、、リビングで適当に時間を潰して、眠くなるのを待ってみたがもちろん眠れる気はしない。

そうこうしているとちょうど0時を回った頃に妻から「起きてる?」とのライン。

もちろん起きている。電話を繋いだ。

6月16日

今までの張りとは明らかに違う痛みを感じるとのこと。間隔も10分を切り、そして程なくしてLDRという陣痛、出産、回復まで行う部屋へと移動した。いよいよ待ちに待った本陣痛が始まったようである。

こちらの病院は様々なバースプランに対応しているとのことで、妻は畳の部屋での出産を希望した。移動にもものすごくエネルギーが必要で、個室からLDRへの移動途中にも陣痛が。そしてその間隔はどんどん短くなり、かなりの痛みのようだ。曰く「テツさんなら絶対に耐えられないレベルの痛み」を数分に1回とかのペースで感じている。

ちなみにだけれど、コロコロのせいで立ち合いをすることができなくなった私だったが、遠距離時代を支えてくれたFaceTimeを使った立ち合い出産を行うことした。リモート立ち合いである。最初ダメ元で聞いてみたのだけれど「良いですよー」ということなので、妻の携帯を横に置いてもらって、私は自宅からその様子を見守ることにした。


畳の部屋に無事に移動した。陣痛中は座ると少し痛みが楽になるとのことで、横になっては起き上がって、というのを繰り返している。

立ち会えたのであれば、こういう時に腰をさすったり、痛みを和らげるために何らかのことができたであろうに、、一人で痛みに耐えている妻を見ると涙が出てくる。

壁を挟んだ隣の部屋では、一足先にどなたかがまさに出産のクライマックスを迎えているようだ。物凄い断末魔が聞こえる。

これから妻もそういう痛みを感じるのかと思うと、、少し怖い。

そう考えている間にも陣痛の痛みのレベルはどんどん上がっていくようだ。



そして朝の4時過ぎ。私に予想もしていなかったとんでもない事態が訪れる。

妻が苦しむのを画面越しに見ていた私だったけれど


眠い。 とてつもなく眠い。



ヤバイ、これは尋常じゃないレベルの睡魔だ。分かっている、そんなことを言っていい場面ではないのは。

ただ尋常じゃないのだ、その睡魔たるや。

もちろん妻はそれどころじゃないと思ったし、「は!?何言ってんの!?」と言われるかもしれないのは分かってる。ただ気が付くと口から出たのは


テ「ちょっとだけ寝ていい?」


妻「良いよ」

その言葉を聞くや否や、すぐに床に寝転がってしばしの睡眠。もちろん電話は切らずに、いつでも起きられるようにはしていたよ。(何故か言い訳)


どれくらい寝ていたんだろう、私の中では30分程度なんだけど、、一時間くらいだったかもしれない。正直覚えていない。さすがに爆睡はせずにいたので、何か事態が変わったのは分かった。

すぐに起きて、話してみると陣痛の頻度が少し収まってきたらしい。そこで陣痛が収まるということは、今まで感じていた痛みが前駆陣痛となり、もう一度、本陣痛に至るまで同じプロセスをやり直すようなことになるのだ。


つまりそれまで五時間に渡って感じていた痛みを再び経ないといけないかもしれない、ということに妻は動揺した。心が折れそうになっていた。


側にいてあげられない、何もできないのがとにかく恨めしかった。

そこで登場したのが今回、本当にお世話になった助産師のNさん。

動揺する妻の心を落ち着かせて、再び陣痛の波に乗せてくれた。具体的には「もっと思い切り声出していいんだよ」と伝えてくれたことで、それまで「きれいに産みたい」と思って何か遠慮のようなものがあった妻から、その”枷”を取り除くことができるキッカケとなった。

振り返ってみると、今回の出産はここが大きな起点になったような気がする。

それを機に妻は自身の痛みや辛さを遠慮することなく曝け出すことができ、陣痛のビッグウェーブに乗った。

そして私は応援すること、そして祈ることしかできない。

いよいよ誕生に向かって邁進していく。

だがその時である

助「ごめんなさい。部屋を移動する必要があります。」


畳の部屋での出産を望んだが、赤ちゃんのバイタルを取れない場面が続いたらしく、別室への移動が必要になったのだ。


テ「(この陣痛の波の中、出産直前での移動!?)ここで移動って、、マジか…。」

思わず呟いてしまった。

皆聞こえていた。ごめんなさい。もちろん妻にも聞こえていた。

何か赤ちゃんに不測の事態が起きていても、バイタルが取れないのであればそれは分からない。必要があるのならばこの場面での移動も、、仕方がない。車椅子で移動し、再び陣痛の波に。


電話もきちんと妻が見える位置に移動してもらい、さぁこれから!!


今度は電話が切れた。



ノォ!!!何故だ!!!もしかしたら電池が切れたのかも知れない。。充電しながら話して欲しい、と伝えたけれど、場所を移動したことでもしかしたら充電器に繋がらず、そのまま切れてしまったのかも知れない。

何故切れたかは問題ではない、とにかく切れたのだ。

何度も電話を掛け続けてももちろん繋がらない。LINEなんかしても既読がつくわけがない。

ヤバイ。このままでは大事な局面に立ち会えなくなる。

背に腹は変えられない。

まだ朝7時前だったけど、誰かがいるはず。。祈るような気持ちで直接、産科に電話をかけた。

テ「ホントにすみません。変なリクエストなのですが、今、出産真っ只中の山中の夫なのですが、妻に電話を繋いでもらえるようにお願いしてもらってもいいですか??」

看「わかりました〜。そのようにお伝えしますね。」

頼む〜〜〜。早く繋がってくれ。。

5分後、電話が鳴った。良かった!再び繋がった!

7:32

待望の「子宮口全開」というニュースが聞こえる。

そこからは思い切って”いきんで”良いとのこと。

下へ押し出すように、陣痛に合わせて。


そこからは陣痛の度に

「頭が見えた」

「おでこが見えた」

「次で生まれるよ!」

どんどん赤ちゃんがこの世界へと向かって、妻と共にその力を振り絞る。


6月16日 8:12

山中凛太朗(りんたろう)爆誕



出産レポート、もうちょい続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?