わたしの読者


創っている人は孤独に創っているんだけれど、自分の作品について、いいとか、分からないとか、何か言って欲しいのだ。

 この点が、最近、わたしには悩ましい問題になってます。
 
 このことは前にも一度悩んだことがあったなと、この記事にコメントを書き込まうとしながら思ひ出しました。
 それで、引用して自分の記事で、ごちゃごちゃと書くことにしました。

 ものを書くと読み手がほしくなる。
 これに関しては、
 大島弓子さんの『ロングロングケーキ』で、解答があった感じがかつてはしました。
 それを忘れてゐたのは、何年か前に廃人同様となってから、読むことも書くこともまったくできなくなったから。
 最近、また、ものを書けるやうになり、妻がnoteに登録してくれたので、そこに書くようになりました。
 ぼちぼち書いていくうちに、自分が誰に向かって、誰に読んでほしくて書いてゐるのか、すっかり忘れてしまった。
 ↑に引用した記事を読んて
忘れてゐたことに気づきました。

 以下、ネタバレを含みます。






 たぶん作家志望の主人公、といふのも友人二人と同人雑誌を発行してゐるから。
 その主人公が夢の中でバイクに乗って走ってゐると、突然現れた・奇妙な「人のやうな半透明体」とぶつかる。
 驚いて目を覚ますと、その半透明体が部屋にゐたので、さらに驚いた。
 
星が事故で全壊しまして
その瞬間 わたしは
地球にテレポートを
したのです

といふ宇宙から来た「宇さん」は、超能力がある。主人公の願ふことはなんでも叶えてくれる。
 同人雑誌に載せる作品も、念力によってキーを打ちながら、どんどんと原稿にしてくれる。
 しかも、ファンレターの束がついてゐる。

原稿とファンレターは
毎朝決まって
机の上にきちんと
おかれていた


 あまりのことに、主人公は、まだ夢の中のことだと思った。
 けれども、いろんな事件が重なって、やがて、夢でないと思ふやうになる。

魔法のやうに一瞬でできた原稿!?
 とんでもない、
 全部 君のだ
 全部 君の!
と頭を抱へる。
 
 けれども、「宇さん」によると、これらの作品は、主人公の頭の中にある潜在的な作品を探り当て、文章にしたものだった。

 「宇さん」の本体は、今なら波動とでもいふものなので、主人公に見える存在となるためには、人間の姿をコピーしなければならなかった。コピーされた人が、自分と姿も持ってゐる服や靴まで同一の「宇さん」を見て気を失ってから、「宇さん」は人間をコピーすることが恐ろして出来なくなった。
 それで、その後は、コーヒーカップや虫などに変身することにした。
 主人公がコーヒーカップや虫と楽しそうに語らふのを見た人たちが主人公の父親に連絡した。母親ははやくに亡くなってゐる。
 父親は、主人公を精神科医に診せたところ、主人公はその後の人生を精神病院で送ることなる。

 病院の中で、主人公は、ファンレターに返事を書き始める。
 そのファンレターはすべて「宇さん」が書いたものだった。
 
どんな結果になろうと
あなたがしたいと思っていることは
すべて わたしのファンレターの対象です
全部ですよ
コタさん

コタは、主人公の名前である。

ああ
ぼくはこれから
宇さんに
なにができるだらう

そうだ
増えていくたくさんのファンレターの
返事を書こう

毎日
少しずつ
永遠に

ぼくはラブレターを
書き続けるんだ

ぼくの
永遠というのは
こういうことなんだ

 この後、また話は重要な展開を見せる。かういふことは小説では無理だ。漫画の素晴らしさを痛感する。展開の詳細は、大事なこと過ぎて、ここでわたしの下手な文章にしてしまふには惜しいので、やめておきます。

とりあえず
この世界では
コタは
紙一重の作家として
名をなしており

 漫画では、主人公は、世間にも読者のゐる作家になってゐる。
 それは、ただ「宇さん」だけに書いた結果だ、
誠実にただ一人の読者に向かって書いたからだ、
作家とはさういふものだ
と大島弓子さんは言ひたいのだらうか?
 
 けれども、誰かに対するラブレターを真摯に書けば、それが世間が作家の作品として読んでくれるものになるといふわけでもないと思ふ。

 誠実と、読者を獲得できる作品を創り出せる才能は別々に存在する。

 コタにしても、彼がいまだに眠り続けてゐて、すべてはコタの夢なのかどうかは、大島弓子さんにもわからないことなのだ。
 大島弓子さんすら、コタの夢の中の作家かもしれないからだ。

とりあえず
この世界では
わたしたちは、これを夢だとは思ってゐない。

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