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阿波おどりと渦潮とポカリスエットの間に〜フットボールの白地図【第30回】徳島県

<徳島県>
・総面積
 約4147平方km
・総人口 約72万人
・都道府県庁所在地 徳島市
・隣接する都道府県 香川県、愛媛県、高知県
・主なサッカークラブ 徳島ヴォルティス、FC徳島
・主な出身サッカー選手 城福浩、黒部光昭、塩谷司、實藤友紀、丸岡満

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「47都道府県のフットボールのある風景」の写真集(タイトル未定)のエスキース版として始まった当プロジェクト。前回は、全国最多のJクラブを有する神奈川県を取り上げた。今回は四国初のJクラブが生まれた、徳島県を取り上げる。現在J1に所属する徳島ヴォルティスが、Jクラブとなったのは2005年のこと。実はそれ以前にも「徳島にJクラブを!」というムーブメントは存在していた。

 前身の大塚製薬サッカー部が創部したのは1955年のこと。90年にJSL(日本サッカーリーグ)2部に昇格し、92年に発足したジャパンフットボールリーグ(旧JFL)のオリジナル・メンバーにも名を連ねる。翌93年はJリーグが華々しく開幕し、徳島にも「四国初のJクラブを!」という機運は高まっていった。しかし膨大な出費が予想されたため、94年にはJリーグ準加盟申請を断念している。

 いったんは、アマチュアチームとしての存続を選ぶこととなった大塚製薬。ただし、95年から98年までの4シーズンは「大塚FCヴォルティス徳島」として活動した。イタリア語で渦を意味する「VORTICE」が由来だが、あえてスペルは「VORTIS」。最後の「TIS」は、土佐(高知)、伊予(愛媛)、讃岐(香川)の頭文字を合わせたもので「四国を代表するクラブになろう」というメッセージが込められていた。

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 初めて徳島に降り立ったのは2015年のこと。徳島阿波おどり空港でも、そして徳島駅でも、まず目を引いたのが、色彩鮮やかなアニメのイラストであった。徳島といえば、誰もが思い浮かべるのが「阿波おどり」。しかし2009年から「マチ★アソビ」というアニメとゲームのフェスが開催されるようになり、今では全国のファンが集う「アニメの祭典」として定着している。

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 徳島市内を手っ取り早く観光するなら、まずは駅から徒歩10分ほどの距離にある 阿波おどり会館がお勧め。ここで阿波おどりの歴史を学んでから、今度は徳島を象徴する山に登ってみよう。標高290メートル。市内どこから見ても眉の姿に見えるので「眉山(びざん)」と命名されている。 阿波おどり会館の3階がロープウェーの発着所となっており、徳島の町並みを一望しながら6分ほどで頂上にたどり着くことができる。

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 眉山の頂上で、奇妙なフォルムをした仏塔を発見。ミャンマーで最も有名な観光名所、シュエダゴン・パゴダを模したこの建造物は「パゴダ平和記念塔」という。第二次世界大戦中、インパール作戦の支作戦である第二次アキャブ作戦に、当地の歩兵第112連隊が従軍。多くの徳島県出身者が戦死したことから、帰還兵や遺族による県ビルマ会によって1958年に建立された。当時はロープウェーもなかったので、セメントなどの建材は人力で頂上まで運んだのだそうだ。

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 徳島に来たのなら、やはりヴォルティスの名前の由来になっている、鳴門の渦潮は見ておきたい。となれば、鳴門市にある観光施設「渦の道」が有名だが、徳島駅から鳴門公園までバスで1時間20分。そこから、さらに徒歩5分という道のりだ。海に向かうバスの車窓をぼんやり眺めていると、チオビタドリンクやポカリスエットの巨大な看板の出現に度肝を抜かれる。実は鳴門市は、大塚製薬の創業の地でもあった。

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 渦の道は、鳴門海峡に架かる大鳴門橋の橋桁下部に設置された、450メートルほどの遊歩道と展望台。ここから太平洋と瀬戸内海を見渡すことができる。渦潮が見られる時間帯は限られており、この日は「12時30分から15時30分まで」。私が到着したのは閉館間際だったので、瀬戸の夕暮れを拝むだけで終わった。大潮の時には直径30メートルもの渦が発生し、その大きさは「世界最大級」とのこと。サッカー観戦とセットで楽しむなら、余裕を持って訪れたい。

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 徳島ヴォルティスのホームゲームが行われるのが、鳴門・大塚スポーツパークポカリスエットスタジアムである。JFL時代は徳島市球技場を使用したのだが、Jリーグ開催要件を満たしていない上にアクセスも悪く、当時の徳島県鳴門総合運動公園陸上競技場を大規模改修。以後、ヴォルティスの試合は徳島市ではなく、鳴門市で開催されることとなった。ちなみに徳島駅から鳴門駅までは、各駅列車で10駅。スタジアムまでの道すがら、眉山周辺とは異なる海沿いの風景を満喫したい。

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 ピッチ場で愉快な阿波おどりを披露しているのは、ヴォルティスのマスコットであるヴォルタくんとティスちゃん。実はクラブはJ2に昇格した2005年から、地元の阿波おどりに「徳島ヴォルティス連」として毎年欠かさずに参加している。「地域に密着するためには、地元の祭りに参加するのが一番」ということで、選手もスタッフも揃いのハッピを着て踊りまくる。コロナが終息したら 、ぜひとも復活させてほしいものだ。

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 徳島の名物といえば、阿波尾鶏やたらいうどん、鳴門鯛や祖谷そばなどが挙げられるが、一番はやっぱり徳島ラーメン。白・茶・黄の三系統に分類され、最もポピュラーなのが、こちらの茶系。豚骨スープに醤油ダレを加え、トッピングは叉焼ではなく豚バラ肉を用い、お好みで生卵を落とす。今はあまり見られなくなったが、小ぶりの器に並々と盛り付けたラーメンが、昔から地元では好まれていたそうだ。機会があれば、ぜひ白系や黄系も試していただきたい。

<第31回につづく>

宇都宮徹壱(うつのみや・てついち)
写真家・ノンフィクションライター。
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年に「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追い続ける取材活動を展開中。FIFAワールドカップ取材は98年フランス大会から、全国地域リーグ決勝大会(現地域CL)取材は2005年大会から継続中。
2016年7月より『宇都宮徹壱ウェブマガジン』の配信を開始。
著書多数。『フットボールの犬 欧羅巴1999‐2009』で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』でサッカー本大賞2017を受賞。近著『フットボール風土記 Jクラブが「ある土地」と「ない土地」の物語』。


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